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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
10章 彼らが真実を知ってから全てを終わらせる終焉譚
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163話 想像しうる限り最悪な

【戦況】


 優貴ゆうき和也かずやはノアと交戦する。

 眼音まおは身体強化の遺伝子情報(未完成)を優貴と和也に預けて撤退、サーシャはその場に残り、ノアと交戦する。

 その後、ノアルとブラン、天舞音あまねはノアの能力で犠牲になった。芽衣めいしょう、バードルードはノアに立ち向かう。


 美羽みうを見張るのぞみ、さらにそれを見張る生命体を置いて、すみれ、ルドラ、シャイニ、アリスはノアの所へ向かう。

その途中、交戦中の届称かいしょうを見つけ、援護することにした。

(サミュエルは行方不明)


 日本に残った聖華せいかあや白虎びゃっこは、RDBの先鋭であるアダム、アタラ、フローリーに勝利した。その後、元レジスタンスのリーダーであるこうと出会い、東京を守るため奮闘する。

 * * * *




 芽衣めいの首にきりが食い込む。

 肌がちぎれたような感触と共に、温かい血が一筋流れる。




「ダメ、だよっ!」



 誰の声だろう、と芽衣は手を止める。どこかで聞いたような声だ。

 どうでもよかった、誰かなんて。今更、RDBの罪は消えるまで止まらないのだから。

 一度止まった手を、スイッチを入れるように、再び動かす。



「けほっ……ダメだってば! 芽衣は──何かになる必要ないんだ……! 最初から、君は芽衣でしょ!?」

「……だれですか?」


 誰の声かどうでも良いはずだ──それなのに、その声を聞くと、手が止まってしまうのだ。



「っ……芽衣、この声は──」

「邪魔しないでください、しょうさん。声の主に訊いています」

「君には──RDBのせいで失ったものがある」


 声の出処を突き止めた。先程ノアが出した岩の柱の上だ。



「──でもね、得たものだって、あるんだ」


 ……嘘だ。押しつぶされたのに生きてるはずがない。きっと幻聴だ。



「……もし、芽衣がRDBの──ノアの罪になるなら、ボクは芽衣の罰になるよ。『勝手に死ぬことができない』って罰にね」


 岩の柱の上から、小石が流れ出る。それと同時に布が擦れたような音が聞こえる。

 柱と天井の隙間から、()()の右手が見える。


 ✻ε⋖《生きてるはずがない》₂งθδ



「だって、押しつぶされたのに……生きてるなんて……」


 感情を出すことに疲れた──そのくせに、視界が潤んでいく。

 ああ、この感情はなんて言うのだろうか。


 泣いているからかなしみ?

 それとも、口から疑問が出たから驚き?

 それとも──



「なぜか、死ななかったみたいだね。ほんと──なんだかんだ死ねないね、ボクたちは」


 声の主は、柱と天井の間から顔を覗かせる。

 彼女──天舞音あまねは、苦しみながらも歯を見せて口角を上げていた。


 ──そうだ、彼女と感情を共有しているんだ。

 ──だから、『苦しみ』と『喜び』だ。



   *



 ノワルとブランが持ってた手榴弾が爆発して、天井と隙間が生まれた。そのおかげで、天舞音は──爆発のダメージは大きいとしても──即死することはなかったのだ。


 生存を確認したのもつかの間、どちらにせよ彼女はそう長くは持たなさそうだった。

 ふと、数名が走る音と共に聞いた事のない男性の声がした。



「これは……? 皆さん、大丈夫っスか!?」

「っ、この声──まさか」

「ルドラ!? 君、戻ったの!?」

「リアムにサーシャ、久しぶりっス。ノアも──居るっスね」


 その場に、ルドラ、シャイニ、届称かいしょうすみれ、アリスが到着した。

 アリスはリアムとサーシャの声を聞いて、思わず口角を緩めた。



「──アリス」

「その声は……ノアですね! リアムとサーシャもいらっしゃるみたいなので、もしかして()()()のメンバーが集合したのですか!? ふふっ、懐かしいですねっ!」

「芽衣? 天舞音は──ああ……アリス、治療できる?」


 今の状況を察した菫は、天舞音を指さしてアリスに問う。

 アリスは苦笑いで首を傾げた。



「えっと──すみません、どなたを治療すれば良いでしょう?」

「……あ、そっか。ルドラ、触手でアリスをあの柱の上くらいに持っていける?」

「了解っス。アリス、こっちおいで」


 二人は協力して、天舞音の治療に励むだろう。

 そう思った菫は、ノアに向き直る。



「……覚悟はいい? って言っても、この人数差じゃあんたに勝ち目ないと思うけど」

「──確かに。僕の味方は僕しかいないけど、君たちは十人近くいる。僕の負けではあるよ……」


 そう言ってノアは立ち上がる。ゆっくりと、ゆっくりと。



「彼女に言われて気がついたんだ。確かに僕は、正義と悪の闘争を演出するにしては、犠牲を多く出してしまった。許容範囲を大幅に越してね」

「っ……」


 芽衣は話をする彼から目を逸らした。



「僕はね、こう思うんだ──最後も、悪役らしく散らせてほしいと」


 ノアは優貴ゆうきの方に歩みより、途端に両手を広げる。



「ああいや、ハグを要求してる訳じゃないよ。──悪は正義に殺されるべきだ。それも、優貴()を育んだノア()優貴()に殺されるなんて、なんて滑稽的展開じゃないか」


 彼の顔には、子どもを救いきれなかった父親の哀愁がはらんでいた。



「僕の最期は──物語の最後は、優貴の手で終わらせてくれ」


 罠の可能性はない。

 なぜならとっくに、ノアと感覚を共有した芽衣に、『窃盗罪』を発動した菫が触れているからだ。彼は能力を発動できない。



「……やるのか?」

「──ああ。《発動》」


 和也かずやの問いかけに、優貴は覚悟とともに返事した。

 再び『暴行罪』を発動させると、ノアの正面で構える。


 ほぼ全員がその光景を見守る中、優貴は一つ大きな呼吸して言う。



「じゃあな──父さん。【堕罪の反抗(ドロップ・レジスト)】」


 ノアの顔目掛けて、中段突きをしかける。


 ──しかし、それが当たることはなかった。

 ただの風圧が、ノアの顔に直撃しただけだ。



「……どういうつもりだい?」

「…………『悪の想像しうる限り最悪の結末を迎えないといけない』──お前が言ったことだ。お前が悪役で、内心で死を望んでいるなら──死なずに正義の仲間になることが『最悪の結末』だと思わないか?」


 優貴はそう言って、親に嘘をつく子どもみたいな──そんないたずらな笑みを浮かべていた。

 ノアの想定していなかった結末。それが故に──



「──最悪だよ」


 そう言って彼は能力を発動せずに、ただ呆れて笑った。

 ご愛読ありがとうございました。


 次回もよろしくお願いします。

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