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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
10章 彼らが真実を知ってから全てを終わらせる終焉譚
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161話 ある学者らの話 中編

「この能力を──伝染させよう」


 ノアは皆を集めて言う。そこには無垢に寝ている、赤ん坊の優貴ゆうき和也かずやが居た。



「伝染……? そんなことできるの?」

「ルドラの能力と眼音まおの能力を使えばできるはずだよ。ルドラで微粒子レベルの生命体を作る。そして眼音が生命体の遺伝子情報を操作して、人間の脳内で結合するように書き換え、さらに能力の情報を加える」

「待ってよ……そんな上手くいくものなの?」

「そして最後の工程で君の力が必要だ、サーシャ」


 ノアはそう言ってサーシャを見る。

 その『力』がサーシャの『能力』を指していること、その能力で解決しようと彼が本気で思っていることを彼女は瞬時に察知した。



「いや、いやいや……まさか、そうなるって可能性に変化させるってこと? 『能力は全世界に普及する』って? ボクの能力にそこまでの力があるかどうかも──」

「頼む、君が鍵だ」


 ノアはよく知っている。信頼され頼み事をされれば、彼女は断れないということに。



「……ほんと、ずるいよね。はぁ、分かったよ。だけど、ボクの能力は結果を決めるだけ。過程で何が起きるか分からないよ?」

「構わないよ。ルドラも眼音も、()()()()()()お願いするよ」

「ストップ、はいちょっとストップ。二人には事前に言ってたの? ボクには今言ったのに?」

「まあ、二人は説得に時間がかかると思ってね」

「じゃあボクがチョロいみたいじゃないか!?」


 サーシャは少し恥ずかしそうに怒る。場が和やかになったのは言うまでもない。



   *



「じゃあ──お願い」


 ノアの言葉が作戦開始の合図だ。



「「《発動》」」


 二人の声が重なる。

 なぜ《発動》と言うのかというと、能力の精度を高めることができるかららしい。これも眼音の能力で、能力の分析をしてくれたおかげだ。


 キノコのような形をした生命体が、ルドラの手のひらに産まれた。眼音は躊躇ちゅうちょせず、それに触れる。


 一拍置いてサーシャも続いて《発動》と言う。

 次の言葉は、『この能力は人間ならだれしも手に入れる権利がある』だ。



「してノア、目的を聞かせてもらおうかのう?」

「うん?」


 二人の会話に、リアムや届称かいしょうが注目した。

 当ののぞみは、ノアの態度に少しムッとした表情を浮かべる。



「とぼけるでない。元々お主は無法騒動を解決したがってたではないか。この『能力の普及』とどういった整合性があるのじゃ?」

「無法騒動とは、簡単に言えば『人々が罪や法を軽んじた』現象だ。言い換えれば『人々が罪の重さを忘れてしまった』んだ。ならば、それを再帰させればいい」

「ほう?」

「眼音にはこう頼んだ、『能力者になった者に紙のようなもの』を見せるようにと。それを『使用許可証』と名付け、さらに能力そのものに【罪の名前】を名付ける」

「なるほど? 人々が罪の名前を見れば、少なからず罪の存在を思い出すんだね」


 リアムは二人の話を聞いて、補足と確認を示した。しかし次に怪訝けげんそうな顔を浮かべて続ける。



「でも思い出したからと言って、罪を自覚するわけじゃないし、()()()()()()()法律を守る訳でもない」

「そう、そこでルドラにこう言った。『生命体は、人を殺す罪悪感を脳が感じた時に成長するように』と。そして、その瞬間に『宿主が欲しかったこと』が分かるように改良された生命体は、それを解決するような能力が使えるように遺伝子情報を宿主に与える」

「随分ややこしいな……。つまり人を殺した罪悪感を感じた者は、その時欲しかったことを能力として手に入れるということか?」


 届称の言葉にノアは頷く。



「ここで鍵となるのは、『殺した罪悪感』だよ。良識を持っている者は、人を殺した時に自覚する。しかし慣れた人は、殺した時に罪悪感を持たない」

「つまり、良い人ほど能力者になれるってこと?」

「うん。だからリアム、答えは逆だ。罪を自覚し、法律を守っていた者が能力者──【sin・sense(罪の意識)】を持つ者になるんだ」


 ノアは眼音たちの方を見る。三人とも、針に糸を通すよりも集中している。それでも順調そうだ。

 その後、目線を話し相手に戻して続ける。



「法を忘れた者を改善することは不可能に近い。頭が固くなった大人たちなら尚更ね。だから、僕たちの代わりに良識のある者に止めて貰うんだ。その強力な能力を使ってね」

「この『能力の普及』は始めから、『治療』ではなく『予防』のため……。良識ある者が、無法騒動に染まらないためのワクチンだったのか」

「なるほどのう──まだ破綻するところはあるといえ、わずか二ヶ月でここまでの策を練るとは──いや、眼音らに伝える時間を含めたらもっともっと短いか」


 ノアは頷く。しかしその顔は不安そうだ。



「これが上手くいくかどうか──正直不安なんだ。一発勝負、それも世界を変える作戦だ。ほころびがないわけがない」

「ふぅ──大丈夫だと思いますよ」


 眼音が会話に参加した。どうやら生命体の拡散は成功したようだ。



「もし悪化してしまったら、私が一人ひとりの情報を変えますので!」

「それは──いつか倒れそうだね」

「まあ……失敗しても効果がなくても、何もできなかった頃よりはよっぼどマシです。それに、私たちがカバーします。それこそ、この能力の力で!」


 眼音はそう意気込む。

 ご愛読ありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。

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