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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
10章 彼らが真実を知ってから全てを終わらせる終焉譚
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160話 ある学者らの話 前編

   **



「……確証はないよ。安全っていう」


 リアムの言ったことに対し、ノアは柔らかく首を振る。否定という意よりは、仕方ないと言わんばかりの様子だ。



「元より、これ相手に確証を取れると思ってないよ」


 そう言って彼は、ビーカーをワイングラスのように回す。液状の宝石がそれにつられて中で踊る。



「飲んだ後の僕を見てから、君たちは飲むかどうか決めるといい。ただ──僕は、子どものために生き続けないといけないんだ」


 ビーカーに張り付く包装を取り、それを顔に近づける。液体に目を奪われているそのとき、視界の外から液体を注ぐ音が聞こえた。



「待てノア──乾杯がまだじゃろ?」

「君がそう言うんだ、信じるさ」


 のぞみ届称かいしょうは、予備の宝石を一部分使って液体にした。

 その液体を注いでいたのはルドラだった。注がれたビーカーを、眼音まおとリアムは受け取る。



「……まあ、アリスには安全のためにまだ飲ませないっス。だけど──不思議と死なない自信があるんスよね」

「皆さんが危険をおかすなら、私もそうします。死なば諸共もろとも、ってやつです」

「……サーシャは飲まないの?」


 唯一、それを簡単に取らなかったのはサーシャただ一人だった。

 最後まで渋っていた彼女だったが、六人がビーカーを持っている光景を見て諦めがついたようだ。



「っ……あぁはいはい! 飲みますよ! はぁ……もう、どうなっても知らないから!」


 ルドラから乱暴にビーカーを奪うと、そう言って輪に入る。

 七人の学者がビーカーをグラスに、液体をワインに見立て、平和そうに輪になっている。

 何も知らない者がこの光景を見れば、無法騒動の影響で気が狂ったように思われるだろう。



「みんな……」

「ん? ああ、腹の子のことは気にするな。名も無き風(あやつ)の言うことが真実とすれば、子を今殺したりせんじゃろう」

「──うん、そうだね。……それでは、この世界の明るい未来に──乾杯」


 ノアは、とっくにその事に気づいていた。主人公が産まれる前に死ぬことはないと。

 彼の言わんとした問いは別にあったが、この光景がその問いの解だった。


 なので彼は、液体と共に言葉を流し込んだ──『自分を信用していいのか』という問いを。



   *



 液体を流し込んだ数秒後、他とは明らかに違う()()()が体全体に染み渡った。その高揚感は次第に、『自分は特別な力を持っている』という自覚に変わっていく。

 液体そのものが能力になっているのか、それとも元々──自分が産まれた時からそういった能力の素質があったのか。飲んだ本人にも分からなかった。


 兎にも角にも、これは間違いなく()()()()のような力だ。ノアの仮説通り、この液体──(もとい)謎の宝石は『非常識な』力で『常識』の力にするものだったらしい。



「能力の概要、発動条件、利点、欠点──なにこれ、頭の中に流れてくる……」

「ちょっと、誰か──能、力? みたいなの発動してみてよ。ボクのは──うん、なんか難しそうだし」

「いや、自分のも……よく分からないっス。生命体を……つくる?」

「……僕がやろう。上を見てて」


 ノアは貼り付けたような作り笑いを浮かべ、天井に意識を向ける。

 全員が注目する中、まるで氷柱のようなものがゆっくりと伸びていく。



「これが……能力」

「これは──無法騒動を止められると言うのも過言では無いかもしれないな」

「……操作が、難しいな」


 疲労困憊といった様子でノアは話す。研究よりも集中力が試される代物かもしれないと思った。



「……とにかく、新たな可能性だ。各自、自分の能力を使いこなせるようにしておこう」


 ノアの言葉に、全員が頷いた。



   *



 その日から二ヶ月。経過期間に様々なことがあった。


 眼音が和也かずやを、希が優貴ゆうきを出産した。まだまともな助産師が居て良かった、とノアは思った。

 眼音と希は妊娠中に液体を飲んだ。胎児に影響があるかどうかまでは確認できないが、ひとまず学者らは無事に産まれたことを喜んだ。


 次に、学者らは『青いマフラー』を作った。それもただのマフラーではなく、繊維にあの液体を染み込ませたものだ。

 眼音(いわ)く、そのマフラーは『能力増幅』の効果があると予測した。首に巻くことで細胞と液体が過剰反応を起こし、能力を後押しするらしい。


 最後に、学者らは能力を実用範囲まで操れるようになった。眼音がマフラーの効能を言い当てたのもそのおかげだ。

 ただ──無法騒動で暴れる者らとの戦闘を想定したとき、まだ戦闘は難しいと判断した。


 ノアは、決断することにした。

 ご愛読ありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。

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