158話 なくなる『大事なもの』
【戦況】
①
優貴と和也はノアと交戦する。
眼音は身体強化の遺伝子情報(未完成)を優貴と和也に預けて撤退、サーシャはその場に残り、ノアと交戦する。
また、翔とバードルードはノアの所へ向かう。
②
美羽を見張る希、さらにそれを見張る生命体を置いて、菫、ルドラ、シャイニ、アリスはノアの所へ向かう。
その途中、交戦中の届称を見つけ、援護することにした。
(サミュエルは行方不明)
③
天舞音と芽衣は、敵同士であるノワルとブランと共にノアの所へ向かう。
④
日本に残った聖華、彩、白虎は、RDBの先鋭であるアダム、アタラ、フローリーに勝利した。その後、元レジスタンスのリーダーである広と出会い、東京を守るため奮闘する。
**
解析など無意味に等しかった。世界に存在しない──するはずなかったものだ。世界の常識と摂理では説明できない何かがある。
しかし──発明はときおり偶然から産まれるものだ。
「眼音さん、宝石のサンプル持ってきた」
「リアムさん。今手が離せないので、机の上に置いといてくれますか」
「このまま置いていいの?」
「近くにトレイがあるはずなので、空気に触れないように置いといてください」
「分かった……眼音さんも出産予定日近いんだから無理しないでね」
*
「ずいぶんとかかってしまったわ……。さて、サンプルは──あっ、このトレイは私が以前の研究て使ってたやつ……はぁ、片付けるの忘れてた……」
独り言の中に、自分のガサツさを嘆く言葉を吐く。
「この前の研究は薬品使ったから、サンプルに影響がなければいいけ……ど──?」
そこにはサンプルなどなかった。あるのは、宝石のようにキラキラとした液体だ。
まさに、あの宝石が溶けたような──
**
「まあ、能力の欠点なんて知ったところで僕には勝てないさ」
ノアはまた能力を発動する。いつもより振動が強い。
「【浮片屍翻】、【塊槍劣者】」
「二つも──ノア、死ぬよ!?」
「血抜きを多くすれば問題ない。それに──死ぬのは元々本望だよ」
「っ……攻撃を──ダメだ、『致命傷を食らわない』」
サーシャは前と同じ──ERRORが発生する予感から、咄嗟に可能性の種類を変更した。
条件を緩くさえすれば、ERRORは発生しないだろうという考えだ。
「っ……!!」
ノアは自分の岩槍で脇腹を思い切り刺した。そこから尋常ではない量の血が吹き出る。
岩雪崩の欠片が、サーシャの左目を直撃する。彼女は声を出さずに悶絶した。左目に、もう光は戻らない。
一方、優貴と和也も完全に躱しきれるはずもなく、それなりの負傷を負った。
⊂ง*《この戦いはあまりにも無意味で醜い。画面の前にいるあなたも、そう思うでしょう?》%*
「もうやめてっ!」
「やめてよっ!」
こんな戦場に似つかわしくない少女らの声が聞こえた。
どこかで見たことがある──白黒の少女、ノワルとブランだ。
「なにこれ……」
「っ……」
その二人についていた天舞音と芽衣は絶句した。そこがあまりにも凄惨だったから。
ノアはその四人を見る。
「【押窮染血】」
彼が意識を手放した数秒間、彼は何を意識していたのだろうか。
次に意識を手に持った頃には、彼女らに──
「僕は何を──っ! 逃げ──」
呆気なかった。いや、初めの感想がこれは、如何なものだろうか。
せりあがった床と天井の隙間から、見たこともない量の血が流れる。それと同時に起きた華麗な爆発は、目を奪った。
唯一生き残った芽衣は、自嘲気味の口ぶりで言う。
「はぁ……なんで、大事なものからなくなっちゃうのかな……」
服を買いに行った。お互い許しあった。わがままを言い合える関係だった。
そんな思い出が頭の中でよぎる。
「私がそんな運命なら、もうそれでいいよ。疲れちゃったんだ、感情を出すの。こんなことなら、小さい頃から感情を出す練習しとけば良かったなぁ……」
芽衣は、さっき天舞音に押された胸元を押さえながら、もはや無表情で言う。
「芽衣?」
彼女は名前を呼ばれた方向を向く。そこには翔とバードルードの姿があった。
翔は今の現状が理解できずに芽衣に聞く。
「質問する。この血は……誰の? 向こうの戦況は?」
「私も今着いたところです。この血はノワル、ブラン、天舞音さんのです」
「……そう、なんだ」
妙に冷静な彼女の様子に、翔はそれ以上聞くのをやめた。
「とりあえず、僕はあっちに参加する予定。それは伝えておく」
「そうですか。そちらは?」
「ひっ……えっ、と、僕、なんかが、参加、できます、か?」
「自分で判断した方がいいのでは?」
芽衣はそう言って、優貴たちの元へ向かった。
∢วง《のんびりしすぎた。急展開にしないと間に合わない……? でも、どう動かせばいい……?》₩¤₂
*
「なんで……なんで、ノワルとブランを殺した!?」
「……僕も、意識が──まさか、僕の『判断力の増加』の利点が欠点に変わった……のか?」
ノアは、ノワルとブランには『常に能力を発動しておくように』と言った。ノアに二人が近寄ったことで、『判断力の低下』が加速したのだ。
ノアは改めて、戻れないことを実感した。
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