156話 悪になる対価
【戦況】
①
優貴と和也はノアと交戦する。
また、翔とバードルード、サーシャと眼音は、それぞれノアの所へ向かう。
②
美羽を見張る希、さらにそれを見張る生命体を置いて、菫、ルドラ、シャイニ、アリスはノアの所へ向かう。
その途中、交戦中の届称を見つけ、援護することにした。
(サミュエルは行方不明)
③
天舞音と芽衣は、敵同士であるノワルとブランと共にノアの所へ向かう。
④
日本に残った聖華、彩、白虎は、RDBの先鋭であるアダム、アタラ、フローリーに勝利した。その後、元レジスタンスのリーダーである広と出会い、東京を守るため奮闘する。
**
当然、混乱したよ。だって、簡単に言えば無法騒動を──今の世界を救う代わりに、未来の世界を支配させろと言ってるようなものだ。
そんなの、受け入れ難いに決まってる。
……ごめん、嘘をついたね。あくまでそれは建前だ。ああいや、薄っぺらく聞こえるだろうけど、世界も大事なんだ。
ただ──本音は、自分の子ども達を巻き込みたくないんだ。傷つけも苦しみもさせたくない。平和を過ごして欲しい。
だから僕は、決心した。僕は──
**
「はは、無力を実感して絶望してよ! 罪人取締班!」
「ぐっ……!」
和也と優貴は、ノアの圧倒的な強さに押されていた。
前後上下左右から、当たれば致命傷足りうる攻撃が続く。
避けるのもようやくなこの状況で、攻めに転じることなどできるはずもなかった。
「【塊槍劣者】」
床の振動を一瞬感じ、二人はすぐに斜め上へ跳ぶ。
下から伸びる岩槍を、破壊及び躱していく。
「【斬剣芯剛】」
一瞬の油断が命取りだ。跳んだ先に生えた剣に構える。
「伏罪の進行】!」
「【五蕾・災雨】!」
二人はその岩剣の破壊に成功した。着地したのも束の間、今まで破壊してきた瓦礫が浮かび上がる。
「【浮片屍翻】」
まるで無邪気な妖精のように、瓦礫はふわふわと舞い上がっていく。
そして次の瞬間、今度は敵意をむき出しにした雹のように、二人めがけて降り注いだ。
迎撃が無駄だと察し、横へ逃げる。
さらにそれは巣を刺激された蜂のように、二人を追いかける。
「おい、キリねぇぞ! どうすんだよ優貴!?」
「くっ……!」
「《発動》。二人にそれは当たらない」
直後、欠片の大群は効力を失ってその場に落ちた。
声の元を見ると、そこには二人がいた。
「……サーシャ、眼音」
「よくもまあ……自分の子どもに容赦ないね。もう辞めない? こんなのさ」
「サーシャ、君は僕の目的は知ってるはずだ。その上で、この戦いを辞められる戦いだと?」
「ふふっ、さっきまで戦いを避けようとした人とは思えないね。それに、いくら避けられないと言っても殺し合わなくてもいいと思うけど? ノア、君が降参すればいい」
サーシャの言葉に、彼は口を噤む。
「君はボクよりも頭がいい。だから本当はこの選択肢もとっくに考えてたんでしょ?」
「っ……」
「それを選ばないのはなんで? 誰も死なずに、あれに対抗できるはずなのに」
「──なんで、言っちゃうかなぁ……」
ノアはそう呟く。残念そうに、どこか悔しそうに。
「……僕は、悪だ。それは間違えようのない事実だ。あれを呼び起こすきっかけが物語の終結なら──この世界が平和になることなら、悪の想像しうる限り最悪の結末を迎えないといけない」
「それが──正義との戦いでの戦死なの……? なんかさ、違くない?」
「──かもね。だけど、もう戻れない。僕は、罪を償うべきだ」
RDBの活動で救われた命も多い。しかし、それ以上に奪われた命が多い。
ノアは元々、人を犠牲にできない性格だった。誰かが傷つくなら自分が犠牲になると、そんな自己犠牲が形作ったような人だった。
だから彼は、罪を償うために自らの命を捧げようとしているのだ。
……その目的を、名も無き風を呼び出すという目的で隠して。
「そして……眼音、さっきから喋ってないけど?」
「あ…………ノアさんは──いえ、ごめんなさい。気の利いた言葉をかけようとしたのですが……ごめんなさい」
「悪に同情は必要ない。必要あるのはこの戦いの終着だけだ、そうだろう?」
サーシャと眼音は床の振動を感じた。
「【床花香訴】」
「っ!」
「ボクに刺さらない!」
地面から、花が咲くように棘が四方八方へ伸びる。
サーシャは足が棘の間に挟まり、伸びる反動で少し先に吹き飛んだ。
眼音は自身の遺伝子情報を書き換え、棘にも耐えられる強靭な肌を構成した。
「……っ!!」
「眼音! キミ、それ使っても大丈夫なの!?」
「……やっぱり、少しだけ厳しいですね。頭を使いますし、何より……っ、体力が……」
「やっぱり、無理しないで……」
「【押窮染血】」
眼音を和也が、サーシャを優貴が抱えて、せり上る床から脱出した。
「おっと……助けられたよ。ありがとう」
「……ああ」
「ごめんなさい……和也」
「無理すんなよ、元々戦える能力じゃねえだろ? それでもここに来たのは……何か理由があるんだろ?」
「……鋭く、なりましたね。その通りです、お二人とも、手をお出しください」
着地後、差し出された和也と優貴の手に、眼音は手をかざす。
ポワッと光が浮かび上がる。
「まだ構成前なので発動はされませんが……体を強化する遺伝子情報です。構成できたら、私が後で、遠隔で発動しますね」
「ボクは君たちを援護できる。眼音を退かせて、三人でノアに立ち向かうよ!」
優貴と和也は頷く。
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