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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
10章 彼らが真実を知ってから全てを終わらせる終焉譚
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154話 正義と悪の戦い

【戦況】


 優貴ゆうき和也かずやしょうとバードルード、サーシャと眼音まおは、それぞれノアの所へ向かう。


 美羽みうを見張るのぞみ、さらにそれを見張る生命体を置いて、すみれ、ルドラ、シャイニ、アリスはノアの所へ向かう。

その途中、交戦中の届称かいしょうを見つけ、援護することにした。

(サミュエルは行方不明)


 天舞音あまね芽衣めいは、敵同士であるノワルとブランと共にノアの所へ向かう。


 日本に残った聖華せいかあや白虎びゃっこは、RDBの先鋭であるアダム、アタラ、フローリーに勝利した。その後、元レジスタンスのリーダーであるこうと出会い、東京を守るため奮闘する。

   **



「……本当は、和也かずやくんが死ぬ予定だった。でも生きているということは、()()にとって何か不都合なことが起きたということ」

「どうしたんだ、急に」

「ああいや、ただボクは君たちに振り返って欲しいだけなんだ。なぜそんなことが起きたのか、それを考えてもらうためにさ」


 ノアはそう言いながら優しく笑う。その笑みは、本当に我が子を愛しく思っているようにも感じた。

 ──この状況でその笑顔を浮かべる意味は分からなかった。



優貴ゆうきも、物語に異変が起きたって思ったんでしょ? だから、この物語をもっとめちゃくちゃにするために、主人公の君が悪側──RDBに寝返った。物語の結末をねじ曲げるために」

「……俺の目的に気づいてたのか?」

「当然。我が子のことは何でも分かるんだよ」

「……確かに、物語を破綻させたかったのは本当だ。それが原因で、世界の破滅が起こらないことに期待したのも本当だ」


 優貴の表情に影が落ちる。



「……だけどそれ以外に、もしこれがバトル物語だったら、俺なんかよりも和也の方が主人公っぽいと感じたんだ。俺とは違って活発で、優しくて、少し抜けてるところがさ」

「優貴……そんなの関係ないだろ? そもそも主人公がどうとか思ってる時点で()()の思うつぼじゃねえか。そんな理由で取締班を離れたのは許せねえけど、でも、俺たちのことを考えてくれてありがとな」

「確かに、関係はないよ。そもそも主人公を二人の間から決めるのが間違いなんだよ。だからこそ、僕は君が生きていて嬉しかったんだよ、和也くん」


 その言葉に和也は一瞬たじろぐ。その一瞬が、この戦いでは命取りであった。



「【斬剣芯剛きけんしんごう】」

「っ、和也っ!」


 剣の形をした岩が次々と頭上から伸びると、和也めがけて無数に振り下ろされた。



「うっ……!?」


 とっさに反応したはいいものの避けきれず、背中に大きな裂傷を負ってしまう。



「っ……わりぃ、油断した!」

「人の感情を……それが、大人のやることかよ……! いい加減にしろよ!」

「子に叱られてしまうとは、親失格だね。ああいや、そもそも親とは試験によって決まるものじゃないから、失格をもっと広く捉えてもらう必要が──」

「【断罪の拳ジャッチメント・フィスト──罪滅雷(クラッシュ・スパーク)】!」


 不意はついた。加速も力も十分だった。青いマフラーもある。

 じゃあどうして──



「……【蝶蹂偽牙ちょうじゅうぎが】」

「っ……!」


 ──どうして防がれるどころか、反撃されているんだ……?



「ゆう……き!」


 鋭く太い牙が、容赦なく優貴の腕を刺し締める。まるで猛獣が噛みちぎろうとするように、彼の腕を──肉をプチプチと引きちぎろうとする。

 無理に離そうとすれば片腕をもってかれる。左腕で殴ってもでも壊せない強度。

 故に優貴は、その痛みに耐え続けることしかできなかった。声を出さなければ気絶してしまいそうな激痛に。



「ぐっ……ああぁっ!!」

「ふふっ、まさか、親だからと手加減してくれると思ってたのかな?」


 牙越しに、ノアの声が聞こえる。表情は見えないが、どうせ穏やかな表情なのだろう。



「確かに、僕は君たちを愛しているよ。だけどね、『家族への愛』と『殺せない』は無関係なんだよ」

「だからって……実の子どもにする仕打ちかよ!!」

「僕の()()を、甘く見ないでほしいね、和也くん。僕が世界最大の悪となるために、どれだけ罪無き者を殺したか知らないだろう?」


 その声は──その声だけは、なぜか悲しそうに思えた。



「そう、僕はこの世界を滅ぼしたくないだけなんだ。だから僕は、正義と悪を拮抗させ続ける。この物語が終わらないように、世界が延命できるようにと願いながら」

「……それが、RDBの──お前の、掲げる……ヘイワ、か」

「そうだよ。最後の質問は終わったから、次は()()だ。早く降参しろ、罪人取締班……! 優貴、特に君が降参しない限りこの苦しみは続くぞ! ──だから、どうか……」


 そう彼は命令──懇願してきた。



「……確か、名も無き風、だったよな。元凶は」

「和也くん、安静にしておくべきだ。その傷は浅くは無いだろう?」

「俺たちが本当に相手しないといけねぇのは、名も無き風だよな……? あんた──ノアに聞いてんだよ」

「っ…………うん、この物語を作ったのはね」


 ノアは気圧されて答える。その返答を聞いた和也は、フラフラになりながらも立ち上がる。



「じゃあそんな難しい話するなよ。答えはもっとシンプルだぞ?」


 和也は自慢の脚力で飛び上がり、優貴の腕に当たらないように脚を振る。



「【五蕾ごらい凶鐘きょうがね】!」


 牙はボロボロになり、優貴の腕を横から抜くことができた。彼を抱えて、和也は一度後ろへ退く。

 優貴の血を付けたノアの姿が見える。



「要は……その名も無き風をぶん殴ればいいんだろ?」

「そんな簡単なことじゃないんだよ……! 君たちは直接会ってないから分からないと思うけど、対面するだけで勝てないと思えるほどの存在だよ!?」

「……確かに、直接会ってないし、実力も不明だな」


 優貴は岩槍が刺さったままの腕をぶら下げて、和也の背から降りる。



「だが、名も無き風がいつ気分を変えるか分からないんだろ? あまりに物語が進まなかったら、それこそなんの前触れもなく世界が破滅するかもしれない。だから、俺は──俺たちは、()()に真っ向勝負を仕掛ける」

「……本気なんだね」

()()は、『能力を持てば私に勝てるかも』と言ってるんだろ? そう考えれば、むしろ直接勝負を望んでるはずだ。だから……俺たちはお前に勝って、()()を呼び寄せる。物語の終盤──正義が悪に勝った時に出てくる()()を」


 ノアは数秒目をつぶった。そして飲み込むように、ひとつ頷く。



「……なら、僕は──僕は、君たちをなぶり殺してやる! 正義なんて……この世界に要らない! 悪こそが、風を飲み込むことができるんだ!」


 優貴には、彼の発言の意図を汲み取ることができた。



(……演じてくれるのか、悪を。悪として俺たち──正義を皆殺しして、自分一人で()()に立ち向かおうとしてるのか……? そんなの、阻止するしかないだろ……バカ野郎)


 正真正銘、正義と悪の戦いが始まる。

 少し遅れてしまいすみません。

 ご愛読ありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。

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