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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
10章 彼らが真実を知ってから全てを終わらせる終焉譚
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153話 物語の終幕

 【戦況】


 優貴ゆうき和也かずやしょうとバードルード、サーシャと眼音まおは、それぞれノアの所へ向かう。


 美羽みうを見張るのぞみ、さらにそれを見張る生命体を置いて、すみれ、ルドラ、シャイニ、アリスはノアの所へ向かう。(サミュエルは行方不明)


 天舞音あまね芽衣めいは、敵同士であるノワルとブランと共にノアの所へ向かう。


 日本に残った聖華せいかあや白虎びゃっこは、RDBの先鋭であるアダム、アタラ、フローリーと対峙している。

 * * * *




「……まあ、こうなると思ってたよ」


 ()はそう言って、悲しそうに笑う。椅子越しの背中からでも分かる哀愁だ。



「そう、結局のところは僕のエゴだよ。正義と悪を停滞させたいのも、君たちに諦めてもらいたいのもね。だけど人はエゴを達成するために、『大義』というそれらしい理由で人を切り捨てる。では僕の行為も、普通の人と同じものじゃないか? どう思う──和也かずやくん、優貴ゆうき


 彼は椅子をくるりと回すと、和也と優貴に向き直る。想像していたよりも、彼──ノアは穏やかで優しい表情をしていた。

 和也は呆れたように話す。



「人の親とはいえ、何言ってんのか分かんねえよ。ただまあ、あんたの目的は知ってるよ。()()を呼び起こさないためだろ?」

「おお、もう記憶が戻ったんだね。優貴のお陰かな? ……そもそも優貴がなぜ記憶を戻すことができたか分からないけどね」

「……俺は、お前の目的に理解も納得もしてる。だけど、正しいとは思えないんだ」


 優貴の言葉にノアは頷く。



「なるほどね……。じゃあ無粋かもしれないけど、最後の質問してもいいかい? 和也くん、優貴……僕との戦いを避けてくれないかな?」

「無理だ、お前を止めると決めてる」

「俺もいやだね!」


 ノアは目線を逸らす。彼らがそう答えるのを分かっていたのだろう。

 彼は大きな息を一つ吐くと、二人に向き直る。



「そっか。大丈夫、聞いてみただけだから」


 彼は笑った。それが、彼の能力の発動条件だ。



「《発動》」


 彼の言葉に合わせ、槍のような形をした石が床から伸びていく。それらの柄の部分が曲がると、優貴と和也へ矛先を向けた。



「【塊槍劣者かいそうれっしゃ】」


 柄が伸び、一斉に射出された。

 優貴と和也はあらかじめ能力を発動しており、そのおかげで迎撃することができた。



「【五蕾ごらい災雨さいう】!」

「【堕罪の反抗(ドロップ・レジスト)】」


 二人はおのが力で槍を破壊した。



「おい! いきなりかよ!」

「ただの挨拶のつもりだったよ。まあ君たちもこれを警戒してるから能力を発動していたんでしょ?」

「っ!? 和也、後ろに跳べ!」


 優貴の言葉を聞き、瞬時に跳ぶ。



「【押窮染血おうきゅうそち】」


 先ほどまで居た床が盛り上がり、天井に勢いよく激突した。

 そのまま居れば間違いなく押し潰されていただろう。『暴行罪ぼうこうざい』の体でも無事ではすまない。



「サンキュー! 危なかったぜ」

「和也、振動だ。あいつの能力を発動する直前、床が一瞬だけ揺れた」

「オッケー!」

「わずかな状況から分析……さすがだね。でも、それだけじゃ証明にならない。()()に勝てる証明には、ね」





 **




 罪の能力を初めて手にしたのは、七人の学者と一人の少女だった。その元となった『謎の宝石』──それは、ある者……もはや概念から受け取った。


 その概念は名を「名も無き風」と話した。名も無き風は、『謎の宝石』を手渡す際にこう言った。



「この宝石はきっと、『無法騒動』を止めることができるでしょう。その代わり、あなたたちを私が支配します」


 当然、学者たちは混乱した。そのうちの一人が反抗するように声を上げた。



「ちょっと待ってください。支配ってなんのことっスか!?」


それは、その場の学者の気持ちを代弁した一言だった。

 名も無き風はくるりと宙を舞うと、質問に答える。



「なに、簡単なことです。あなたたちには二人の子ども、優貴と和也が居ますね。そのうちの一人をメインヒーローに──まあ、言わば()()()にします。そしてもう一人を、不慮の事故で殺します。」

「な、なんで……まだ産まれてないのに名前を……」


 学者の七人中二人は妊婦であった。そして名前をそれぞれ優貴と和也にする予定でもあった。

 この話はまだ学者の中でも知らない者もいる。ましてや外部の何かが知るはずもないのだ。

 その瞬間、彼らは名も無き風の異質さに気がついた。この世界には居てはいけない存在だと。



「待ってよ……そもそも、主人公って、殺すって──そんなことができるの? そんなのまるで──」

「神のよう、と言いたいのですか? ふふ、確かにそういう概念であることは間違いありません。そうですね、私の目的も話したほうが面白くなりそうなので話しましょう」

「目的じゃと?」

「私の目的は、『バトル物語』をこの世界を舞台に作ることです。主人公が正義として、様々な悪を倒す。そして最後は平和になって終幕です」

「待って。『物語の終幕』って何を意味するの?」

「さあ、そこまでは話しませんよ。ですが、物語のその後を記し続ける訳にはいかないので……まあ、区切りますよね」


 それの笑みに背筋が凍った。



「では、私はこれで。ちなみに、この宝石は体内に取り込むことで特別な力が手に入ります。もしかしたら私に対抗できるかもしれませんね」

「ま、待て──」


 言い終わる前に、それは姿を消した。

 いくらイレギュラーに対応してきた学者でも、しばらくまともに動けなかった。


 それほどに、それは威圧感と特別感をはなっていた。

 学者の一人、ノアはこう思った。絶対に物語の終幕を迎えてはいけないということを。

 ご愛読ありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。

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