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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
10章 彼らが真実を知ってから全てを終わらせる終焉譚
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151話 もうモノじゃない

【戦況】


 優貴ゆうき和也かずやしょうとバードルード、サーシャと眼音まおは、それぞれノアの所へ向かう。


 美羽みうを見張るのぞみ、さらにそれを見張る生命体を置いて、すみれ、ルドラ、シャイニ、アリスはノアの所へ向かう。(サミュエルは行方不明)


 天舞音あまね芽衣めいは、敵同士であるノワルとブランと共にノアの所へ向かう。


 日本に残った聖華せいかあや白虎びゃっこは、RDBの先鋭であるアダム、アタラ、フローリーと対峙している。

「へえ、やるじゃないか。なら、あたしも頑張らないとねえ」


 聖華せいかはそう言って、フローリーの元いた場所に顔を向けた。

 フローリーはアダムの能力によって姿が消えている。それでも、彼女の寂しそうな声が聞こえた。



「あ、アタラ──? なん、で? 私、えっ、と……」


 フローリーの精神状態は既に壊れていた。さらに追い討ちのように、アタラの死という現実が彼女を襲った。



「もう、何が正解か分からない……ははっ、もう、どうにでもなっちゃえ」

「……っ!」


 聖華と彼女を分断していた障壁バリアが壊れる。直後に倒れる音がした。恐らく彼女が、転んだ拍子にその障壁バリアを壊したのだろう。



「これは……まずいね」


 今までの彼女とは違う点が二点ある。まずは姿が見えないこと。そしてもう一つは──判断力がついえた子どものようになったということ。

 聖華は、特に後者を危険視していた。大雑把に言えば、何をするか完全に分からなくなってしまった。

 解決する方法はただ一つ──彼女の能力を解除すること。



(あの子の発動条件さえ分かれば……でも、情報が少なすぎる。一度でも能力解除してれば判断力がリセットされるはず……つまり、半永久的に発動できる条件ってことだけが有用な情報か?)

「どうした、聖華」


 後ろで声がした。ビルから帰ったあやの声だ。



「悪いね、あんたの助けが欲しい」

「無理だ。能力は発動できないし、透明な相手に目印無しで武器を使うことはできない」

「違うよ、考えるのは得意だろ? 《発動》!」


 右足を踏み鳴らす聖華は障壁バリアを出す。しかし、それはいつもとは違うものだった。



「久々に見たな、その障壁」


 聖華の障壁バリアは衝撃以外も防ぐことができる。今回は『光』を遮断する、言わば視覚的妨害だ。

 ただその代わり、通り抜けはいくらでもできる。



「あの子はすぐ破壊できるからねえ。今のうちに一旦退くよ、状況説明する」


 聖華に促されるまま、彩は罪人取締所に逃げ込んだ。



   *



 聖華は、アタラとアダムがフローリーを利用していたことを話す。

 彩は顎に手を当て、考える素振りを見せた。



「……なるほど、それを聞くと不思議なことがある」

「へえ?」

「まず、そいつがなぜ能力の永続使用を容認したかだ」

「ああ、確かに。フローリーの性格と言えど、自分にリスクが出ることは裂けたいはずだね」

「ああ、つまりその時点で騙していたことになる。そして永続的に発動できる条件だと考えると、何かを身につけることが条件の可能性が高いな」


 彩の言葉に、聖華は首を傾げる。



「結論まで飛躍しすぎてないかい? どうしてそうなる?」

「それが一番騙しやすいからだ。行動的な条件を永続的にするには手術が必須だ、だが本人が同意しにくいしリスクもある。それに比べて身につけるのは簡単だ、『これが似合うから』と言うだけでいい。そして、外さなくても生活に支障がない身につけるもの──かなり限られてくる」

「つまり?」

「やぁっと見つけました。お姉さんがた、遊びましょう?」


 フローリーの声とともに取締所の壁が倒壊する。どうやら見つかったようだ。



「いずれにせよ、透明なままじゃやりようがない! ()()()を信じろ!」

「──そう、だね。悔しいが、あたしらは逃げに専念するしかない!」



   *



「攻撃する直前は姿が見えるんだな。なんとも不合理な能力だ」

「それでも痛むでしょ、その傷! そのままえぐろっか? えぐろうね!」


 姿を消す能力によって、白虎びゃっこはアダムの予備動作が確認できない。

 そのせいもあって、何度か不意打ちにっていた。



「はっ、こんな傷なんてねえも同然だろ」

「あはは、そうだよね! 僕もそんな傷あっても気づかないもん!」

「さて……そろそろか?」


 白虎はアダムの攻撃をかわし、腕を掴む。

 そのタイミングで──


「コレで合ってるか!?」

「ああ。よこせ」


 先程退いたはずの和葉かずはが、何かを持って白虎の元へ走る。



「受け取れ!」


 和葉はそれを投げ、白虎がそれをキャッチした。



  **



 数刻前──



「お前は──朱雀すざく白虎びゃっこ!?」

「ああ。それより、聖華を見なかったか?」

「聖華?」

「警戒するな、私はもう敵対関係じゃない。むしろ……味方だ」

「……聖華はあっちで交戦中だ、俺は一線を退け、京之介(きょうのすけ)を運んでいる」

「おい、じゃあ警察署に戻んのかぁ? それなら、()()を持ってこい。きっと、どっかにあるはずだ」

「あれ……とは?」

「それは──」



  **



「よくやった、もう戻れ」

「っ……すまない、頼む!」


 和葉が悔しそうにきびすを返す。

 白虎はそれを飲み、『指の関節を鳴らす』。



「……《発動》。悪いが、もう終わりだ」

「っ──!?」


 白虎は掴んでいたアダムの腕を、片手でへし折る。



「嫌な音だなあ……これが骨折かあ」

「お前の能力は他のやつにも効果あるんだろ? なら──一瞬で殺してやるよ」


 白虎はアダムの体を宙に放り投げ、腹に全力の蹴りを入れた。

 アダムの体がそれに耐えられず、白虎の足は体を貫通した。



「あ……れ?」

「これが死ぬ間際の激痛だ。最後に味わえればいいな、痛みっつうやつを」


 アダムは糸の切れた人形のように、地面に落ちた。



「やっぱあったな、この薬」


 和葉に届けてもらった薬を見て、懐かしさと忌まわしさを覚えた。



   *



 フローリーの姿が見え始める。



「想像よりも早いねえ。さすが白虎だ──」


 聖華は彼女の顔を見て言葉を失った。

 その顔は、苦しそうに涙を流しながら笑っていた。どうしようもないこの現状に笑っているようにも見えた。



「──あれだね、多分」


 聖華は彼女のチョーカーに注目した。直進してくる彼女を間一髪で躱しながら、右足を踏み鳴らす。



「《発動》! 【激昂げっこう掌底しょうてい】!!」

「聖華っ!!」


 彩の掛け声と共に、彩から銃が投げられる。

 障壁バリアに直撃したフローリーはバランスを崩す。



「悪いね」


 聖華はそう言うと、彼女のチョーカーを掴む。触れてみて分かるが、外れないように、そして生活に支障がないように改良されている。

 直後、銃をキャッチしてチョーカーのみを撃ち抜く。フローリーは地面に手をつく。



「あっ……」


 彼女は短い声を漏らすと、すぐに立ち上がる。



「あれ……ここは──そうだ私──っ!!」


 彼女は今までのことを思い出したようだ。──同時に、自分の過ちにも気がついたようだ。

 泣き喚く彼女を、聖華は優しく抱きしめる。



「大丈夫さ。あたしが居る」

「あ? 何があった?」

「あんたがよく言うところの──モノがヒトになったって感じさ」


 取締所の前は、フローリーの泣き声で終戦した。

 少し遅れました。


 ご愛読ありがとうございました。次回もよろしくお願い致します。

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