151話 もうモノじゃない
【戦況】
①
優貴と和也、翔とバードルード、サーシャと眼音は、それぞれノアの所へ向かう。
②
美羽を見張る希、さらにそれを見張る生命体を置いて、菫、ルドラ、シャイニ、アリスはノアの所へ向かう。(サミュエルは行方不明)
③
天舞音と芽衣は、敵同士であるノワルとブランと共にノアの所へ向かう。
④
日本に残った聖華、彩、白虎は、RDBの先鋭であるアダム、アタラ、フローリーと対峙している。
「へえ、やるじゃないか。なら、あたしも頑張らないとねえ」
聖華はそう言って、フローリーの元いた場所に顔を向けた。
フローリーはアダムの能力によって姿が消えている。それでも、彼女の寂しそうな声が聞こえた。
「あ、アタラ──? なん、で? 私、えっ、と……」
フローリーの精神状態は既に壊れていた。さらに追い討ちのように、アタラの死という現実が彼女を襲った。
「もう、何が正解か分からない……ははっ、もう、どうにでもなっちゃえ」
「……っ!」
聖華と彼女を分断していた障壁が壊れる。直後に倒れる音がした。恐らく彼女が、転んだ拍子にその障壁を壊したのだろう。
「これは……まずいね」
今までの彼女とは違う点が二点ある。まずは姿が見えないこと。そしてもう一つは──判断力が潰えた子どものようになったということ。
聖華は、特に後者を危険視していた。大雑把に言えば、何をするか完全に分からなくなってしまった。
解決する方法はただ一つ──彼女の能力を解除すること。
(あの子の発動条件さえ分かれば……でも、情報が少なすぎる。一度でも能力解除してれば判断力がリセットされるはず……つまり、半永久的に発動できる条件ってことだけが有用な情報か?)
「どうした、聖華」
後ろで声がした。ビルから帰った彩の声だ。
「悪いね、あんたの助けが欲しい」
「無理だ。能力は発動できないし、透明な相手に目印無しで武器を使うことはできない」
「違うよ、考えるのは得意だろ? 《発動》!」
右足を踏み鳴らす聖華は障壁を出す。しかし、それはいつもとは違うものだった。
「久々に見たな、その障壁」
聖華の障壁は衝撃以外も防ぐことができる。今回は『光』を遮断する、言わば視覚的妨害だ。
ただその代わり、通り抜けはいくらでもできる。
「あの子はすぐ破壊できるからねえ。今のうちに一旦退くよ、状況説明する」
聖華に促されるまま、彩は罪人取締所に逃げ込んだ。
*
聖華は、アタラとアダムがフローリーを利用していたことを話す。
彩は顎に手を当て、考える素振りを見せた。
「……なるほど、それを聞くと不思議なことがある」
「へえ?」
「まず、そいつがなぜ能力の永続使用を容認したかだ」
「ああ、確かに。フローリーの性格と言えど、自分にリスクが出ることは裂けたいはずだね」
「ああ、つまりその時点で騙していたことになる。そして永続的に発動できる条件だと考えると、何かを身につけることが条件の可能性が高いな」
彩の言葉に、聖華は首を傾げる。
「結論まで飛躍しすぎてないかい? どうしてそうなる?」
「それが一番騙しやすいからだ。行動的な条件を永続的にするには手術が必須だ、だが本人が同意しにくいしリスクもある。それに比べて身につけるのは簡単だ、『これが似合うから』と言うだけでいい。そして、外さなくても生活に支障がない身につけるもの──かなり限られてくる」
「つまり?」
「やぁっと見つけました。お姉さんがた、遊びましょう?」
フローリーの声とともに取締所の壁が倒壊する。どうやら見つかったようだ。
「いずれにせよ、透明なままじゃやりようがない! あいつを信じろ!」
「──そう、だね。悔しいが、あたしらは逃げに専念するしかない!」
*
「攻撃する直前は姿が見えるんだな。なんとも不合理な能力だ」
「それでも痛むでしょ、その傷! そのまま抉ろっか? 抉ろうね!」
姿を消す能力によって、白虎はアダムの予備動作が確認できない。
そのせいもあって、何度か不意打ちに遭っていた。
「はっ、こんな傷なんてねえも同然だろ」
「あはは、そうだよね! 僕もそんな傷あっても気づかないもん!」
「さて……そろそろか?」
白虎はアダムの攻撃を躱し、腕を掴む。
そのタイミングで──
「コレで合ってるか!?」
「ああ。よこせ」
先程退いたはずの和葉が、何かを持って白虎の元へ走る。
「受け取れ!」
和葉はそれを投げ、白虎がそれをキャッチした。
**
数刻前──
「お前は──朱雀、白虎!?」
「ああ。それより、聖華を見なかったか?」
「聖華?」
「警戒するな、私はもう敵対関係じゃない。むしろ……味方だ」
「……聖華はあっちで交戦中だ、俺は一線を退け、京之介を運んでいる」
「おい、じゃあ警察署に戻んのかぁ? それなら、あれを持ってこい。きっと、どっかにあるはずだ」
「あれ……とは?」
「それは──」
**
「よくやった、もう戻れ」
「っ……すまない、頼む!」
和葉が悔しそうに踵を返す。
白虎はそれを飲み、『指の関節を鳴らす』。
「……《発動》。悪いが、もう終わりだ」
「っ──!?」
白虎は掴んでいたアダムの腕を、片手でへし折る。
「嫌な音だなあ……これが骨折かあ」
「お前の能力は他のやつにも効果あるんだろ? なら──一瞬で殺してやるよ」
白虎はアダムの体を宙に放り投げ、腹に全力の蹴りを入れた。
アダムの体がそれに耐えられず、白虎の足は体を貫通した。
「あ……れ?」
「これが死ぬ間際の激痛だ。最後に味わえればいいな、痛みっつうやつを」
アダムは糸の切れた人形のように、地面に落ちた。
「やっぱあったな、この薬」
和葉に届けてもらった薬を見て、懐かしさと忌まわしさを覚えた。
*
フローリーの姿が見え始める。
「想像よりも早いねえ。さすが白虎だ──」
聖華は彼女の顔を見て言葉を失った。
その顔は、苦しそうに涙を流しながら笑っていた。どうしようもないこの現状に笑っているようにも見えた。
「──あれだね、多分」
聖華は彼女のチョーカーに注目した。直進してくる彼女を間一髪で躱しながら、右足を踏み鳴らす。
「《発動》! 【激昂・掌底】!!」
「聖華っ!!」
彩の掛け声と共に、彩から銃が投げられる。
障壁に直撃したフローリーはバランスを崩す。
「悪いね」
聖華はそう言うと、彼女のチョーカーを掴む。触れてみて分かるが、外れないように、そして生活に支障がないように改良されている。
直後、銃をキャッチしてチョーカーのみを撃ち抜く。フローリーは地面に手をつく。
「あっ……」
彼女は短い声を漏らすと、すぐに立ち上がる。
「あれ……ここは──そうだ私──っ!!」
彼女は今までのことを思い出したようだ。──同時に、自分の過ちにも気がついたようだ。
泣き喚く彼女を、聖華は優しく抱きしめる。
「大丈夫さ。あたしが居る」
「あ? 何があった?」
「あんたがよく言うところの──モノがヒトになったって感じさ」
取締所の前は、フローリーの泣き声で終戦した。
少し遅れました。
ご愛読ありがとうございました。次回もよろしくお願い致します。