150話 戦場を彩る華
【戦況】
①
優貴と和也、翔とバードルード、サーシャと眼音は、それぞれノアの所へ向かう。
②
美羽を見張る希、さらにそれを見張る生命体を置いて、菫、ルドラ、シャイニ、アリスはノアの所へ向かう。(サミュエルは行方不明)
③
天舞音と芽衣は、敵同士であるノワルとブランと共にノアの所へ向かう。
④
日本に残った聖華、彩、白虎は、RDBの先鋭であるアダム、アタラ、フローリーと対峙している。
彩は、アタラが元いた場所に発砲する。しかし、全く手応えがない。
「どこ見て撃ってんだ? おばさん!」
「ちっ──!」
アタラが放つ銃弾を間一髪で避ける。
「っ……【愚者の宴】!」
彩は周囲に分身を生み出す。それと同時に、隊列を組むように彼女の後ろに分身を並べた。
いつでも本体を後ろに移動できるように。
アタラは透明のまま、持っていた武器に弾を装填する。
「そういやおばさん、名前なんだっけ?」
「……なぜ言わねばならない?」
「そんな警戒すんなよ、一ついいこと教えてやるだけだ」
アタラはそう言うと、彩の怪訝な表情を見たのか、笑いをこらえながら話す。
「いやなに、あたしはRDBに来る前、強盗をやってたんだ。そうじゃなきゃ生きられないからな」
「強……盗?」
「そんな時、あんたとそっくりな子が居た家族を襲ったことがある。そっからだいぶ経ったから、ちょうど──あんたと同じくらいになったかな。確かそこの家族の名字は──増田」
「……っ!?」
彩の表情が一変する。それは怒りとも絶望ともとれる表情だ。
アタラの笑いが加速する。
「どうやら当たりみたいだな。あたしもあんたより小さいときだったから、記憶が曖昧だったけどな」
「──なんで、今話した……?」
「あんたに勝ち目はねえ。だから、せめて教えてやったのさ。そしたらあんたは、あたしを恨んだまま死ぬことになる。こんな素敵なことないだろ?」
『冷静になれ』という心の声は、怒りとともにかき消した。
「お前は……なんで、なんで……っ!」
「理由なら話したろ? あたしも生きるためなんだ」
「そんな理由で──!」
「いいか、この世は自分優先だ。どんなに『他人を優先する』と豪語するシスターも、いざそういう状況に直面すりゃ、『ごめんなさい』と泣き詫びながら人を殺す。きれいごとを剥ぎゃ、結局そういうもんなんだよ」
「じゃあなんで──なんで、私は生かした……?」
彩の言葉が悲しみに染まっていく。
「そんなもん簡単だ、単純に時間がなかったんだよ。あん時あんたは、ただうろちょろと逃げてた。追いかけて殺す時間が惜しかった」
「っ……!」
「あははっ、まさか、自分も一緒に死にたかったのか? 安心しろ。遅延証明書でも持って天国の家族に会いに行きな──いや、あんたは地獄か」
アタラは周囲の分身が持っていた武器を全て回収した。
「……もう、用意できる武器はないんだろ? この武器たちはやけに質がいい。最後の切り札だったんじゃねえのか?」
彩は何も言わなかった。それは万策尽きたと思わせる作戦だ。
今すぐにでも作戦を決行できる──しかし、彩は怒りで我を忘れていた。
「……お前にとって、家族とはなんだ」
「あたしを泣かせた張本人」
「私にとっては──愛そのものだ。それをお前に奪われた……。許せるはず、ないだろ?」
彩の声が震える。
「だから──!!」
「彩、落ち着きな……! 怒りで我を見失うんじゃないよ!」
「っ……!」
それは、遠くでフローリーと対峙していた聖華の声だ。
いつも、そうだ。私が任務で失敗した時も、怒りで冷静さを欠いてる時も──いつもあいつの一言で全てが収まる。
そんな奴なんだ。だから私は──敗戦の後、あいつの幸せを保証すると誓ったんだ。
陰ながら、目立たぬように。
「気持ち悪ぃな、もういい。じゃあな」
アタラは彩に発砲する。しかし、それは既に分身だった。
「っ! 本体はどこだ……?」
アタラは辺りを見渡す。しかし、そこに分身は一人も居なかった。
*
彩は──はるか遠くのビルの上だ。
(ある程度、あいつの能力の効果範囲は予測できた。あいつの言う通り、私には武器の在庫はもう無い。だから──この銃で終わらせる)
彩の持つ銃は、聖華と共闘する直前にアダムの脚を貫いたスナイパーライフルだ。
その時に銃を持っていた分身を、今までずっとビルの上に残しておいた。
しかし、当然ながら姿の見えないアタラを撃ち抜くことはできない。なので彩は、ある武器をアタラに回収させていた。
(銃に似せた爆弾。威力は低いが──それでも構わない。むしろ好都合だ)
彩は爆弾のスイッチを押す。ここからでもギリギリ信号は届く。
爆発の光がスコープに微かに映る。そこから今アタラの居る位置、そして風や重力の影響を瞬時に計算した。
手はかじかみ、怒りでまだ震えている。そんな時、聖華の顔が浮かぶ。
全く震えない手で狙いを一点に定め、固定する。
「さらばだ、仇」
彩はトリガーを引く。
*
聖華は焦った声色のアタラの方を見ていた。その時、突如として爆発が起きた。
「がっ……!?」
アタラの声が聞こえる。何が起きたか分からないといった声だ。
その直後、バシュという音が聞こえる。
「なん、で……?」
能力が解除され、彼女の姿が顕になる。
彼女は倒れ、心臓の位置から血を流していた。
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