149話 消える敵
戦況はスキップします。
聖華はフローリーから一定の距離を保ちながら闘っている。彼女の攻撃に敵意は無い──しかし。
(ヒビが入ってたとは言え、あたしのバリアを突進で壊したんだ。あの子の体には絶対触れられない……!)
「なんで逃げるんですか……! 私は、人形じゃないのにっ……!」
「周り見ずってとこは認めるのかい?」
「っ……!」
フローリーの表情が変わった。嫌なところを強引につつかれたような顔をした。
彼女は聖華に近づくのを止めた。ただ俯いて、目元辺りを手で擦っていた。
「……もう、分からないんです。どうすればいいのか、何をしたらいいのか……。私には、もう──アタラとアダムしか居ないんです……」
「……そうかい。ただね──」
聖華は彼女の目を真っ直ぐ見つめる。
それに応えて、彼女も聖華から目を離さなかった。
「──本当に、その行動は正しいのかい? 誰かに命令ばかりされてないかい? もしそれに気づけるようになったら……新しい出会いがあるかもねえ」
聖華は自分のことと重ねて話す。
かつて黄龍の命令に従うだけで、何も考えずに闘っていた、過去の自分に話すように。
「詳しくは言わないけど、今思ったらあたしもあんたと似た境遇だったんだよ。でも、自分の過ちに気づいた。だから、今はこんな最高の場所で、最高の仲間と居る」
「──どうやって気がついたらいいんですか、そんなこと」
「……この闘いが終わったら、きっと気づくさ。だからあんたは──安心して、何も考えるな。全力であんたの仲間を信じてな」
聖華は戦闘態勢をとる。
「……あたしが、暴走するあんたを止めといてやるから」
*
白虎はアダムの攻撃を余裕の表情で回避する。
「はっ、鈍すぎだろ。リハビリにもならねぇなぁ」
「なになに、この人! 煽り気持ち悪すぎて吐き出しそう! なんなら怒っちゃった! 殺そうか? 殺そうね!」
アダムはナイフをひたすらに振り回している。ただ、がむしゃらではなく、白虎の急所を的確に狙っている。
「一つだけ、よりムカつくことを教えてやる。俺様は無能力だ。能力の発動はもうできねえからなぁ。それでもお前に勝てるがな」
「ああ、本当にムカつくことだったね! そんなに速く死にたいの? 速く死にたいね!」
「……何をやってるんだ、あいつは」
白虎の様子を見て、彩はつくづく彼をここに連れてこなければよかったと後悔した。
「よそ見している場合か、おばさん! くらえっ!」
アタラは小馬鹿にしたような声で銃を撃つ。
彩のこめかみを銃弾が貫く。噴水のように血が噴き出し、彩は倒れた。
しかし、幻想のように彩は消えた。
「ちっ、弾が無くなっちまった。本当に厄介だな、その能力」
アタラは特に驚きはしなかった。むしろ、既に何度もやられている技に辟易としていた。
「お互い様だ。いくら分身を出そうと、持ってる武器を奪われたら手出しできん」
アタラは背後を向く。そこには、自分の手に息を吹き込んで寒さを耐える彩の姿があった。
「相性は互いに最悪……ってところか? おばさん」
「そのようだな──それと、私は年増ではないぞ」
「あたしより年がいってんだ、そりゃおばさんだろ?」
アタラは目線を自分の手元に移す。彩の分身から奪い続けた武器が山のように積み重なっている。
「随分と溜まってきたな──そろそろか。おいアダム! 行くぞ!」
「やるの? やろうね!」
アタラは眉間に人差し指をあてる。一方、アダムは持っているナイフを舐める。
「いくぞ──【兵士完成】!!」
「【存在性の証明】!」
アタラの手元から武器がいくつか消滅する。それはアダムとフローリーに手渡されたようだ。
「──そういうことができるのか」
彩は顎に手を当てつつ、分身を出しすぎたことを反省した。
とは言っても、アタラの能力の範囲や効力を調べるためにしたことだったので、間違いとは言いきれない。
「厄介になる前にケリを──」
彩がそう言いかけたときだった。アタラの姿がどこにも見当たらない。
「……さっきいたあの男の能力か? 自分だけじゃなく、味方の姿も消せるのか」
彩は妙な気配を感じ、すぐさま分身と場所を入れ替えた。──直後、交換された分身は銃声とともに崩れ去った。
「危機察知能力すげえな、おばさん。その通り、あたしはアダムの能力で姿を消したまま銃を撃つことができる。アダムの『犯人蔵匿罪』は姿隠しの能力。自分が攻撃しようとする瞬間は解除されるが、周りにつけた場合は半永久的につけられる」
「っ……」
「さあ、始めようぜ?」
アタラは傲慢な態度で言った。
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