147話 悪用
【戦況】
①美羽・シャイニ VS 狩魔
シャイニの能力により、狩魔の死亡という形で決着がついた。しかし、和也と優貴の戦闘で発生した瓦礫が降り、シャイニの背中を押した美羽がその瓦礫の下敷きになってしまう。シャイニは美羽を連れてあるアリスを訪ね、美羽は一命を取り留めた。
②サーシャ VS ローラン・ジョニー
ジョニーの能力を使ったローランの策略により、サーシャは致死率100%の状況に追い込まれる。その中、ローランは命を助ける代わりに全てを話す取引を持ちかけた。そしてサーシャはその取引に乗ることにした。
サーシャの時間稼ぎによって、その場に眼音が到着した。彼女の能力によって、ローランとジョニーを制圧した後、近くで合流することにした。
③菫 VS ルドラ(天舞音・芽衣は別方向へ)
菫は椿の死亡により、真の能力『詐欺罪』を使う。天舞音と芽衣と別行動し、ルドラの元に到着。本体に『窃盗罪』を使うと、ルドラの暴走は停止した。その後、アリスの元へ。
④椿 VS 頼渡
椿は突如発現した住居侵入罪の力で、ノアの介入をくぐり抜けて頼渡をナイフで刺した。その後、【暗殺の一夜】の代償で、ノアを殺せずに椿も命を落とす。
⑤和也 VS 優貴(ノアは頼渡の元へ)
優貴の一撃により、下の階にいたシャイニと美羽に被害が及ぶ。和也との話し合いの上、優貴は和也と共に行動することを決めた。
⑥届称 VS 有象無象の罪人共
ノアにより、届称・眼音は和也と分かたれてしまう。届称は眼音を撤退させる時間をかせぐため、行き着いた先に居た罪人共に立ち向かう。
⑦翔 VS サミュエル
サミュエルの能力を突破した翔は、撤退するサミュエルと希を尻目に、バードルードと共にノアの所へ向かった。
⑧バードルード VS 希
希の能力空間で混乱したバードルードは、第三の人格を出す。バードルードの能力によって精神崩壊寸前に追い込まれた希は空間脱出とともに、倒れる彼を置いて休息をとった。その後は上に同じ。
⑨聖華 VS アダム・フローリー・アタラ
日本に攻め込んできた多くのRDBのうち、姿を消す能力者のアダム、ドジで人を攻撃するフローリー、京之介と和葉の武器を奪ったアタラの三名が聖華を攻撃する。
聖華が苦戦する中、かつての同僚である彩と白虎が聖華の前に現れた。
複雑化した戦況の中、誰がどのような勝利を掴むのか。
ルドラはノアに対して怒りを滲ませると、いつものテンションに戻ったように笑みを浮かべる。
まだ眠っている美羽を手で指しながら、戸惑った表情のシャイニを見る。
「すみません、そこの……ええと──」
「あ、シャイニって名前だよっ!」
「じゃあ、シャイニさんはアリスとここにいて欲しいっス。ここは滅多な事では崩れませんが、アリスを守ってくれませんか?」
「いえ、お兄様。私も行きます」
アリスの返答に、ルドラは目を丸くした。少しだけ考える素振りを見せたが、やはり首を振った。
「……ダメっス。兄として恥ずかしいっスけど、戦場でアリスをいつも庇えるとは限らないんスよ」
「分かっています。それでも……彼とは話がしたいのです」
「──せめて、そこで眠っている彼女のことも診ていてください。シャイニさんの大事な仲間なんスよね?」
「それは──その通りです。しかし……」
アリスは他にも何か言おうと口ごもる。しかし、何も言えずにいた。
ノアと話したい、という彼女の意志も理解できた。それでも、ルドラとシャイニは彼女自身や美羽の身を案じていた。
その時、カチャリと扉が開く。
「よいではないか、ルドラ」
「……希?」
「『可愛い子には旅をさせよ』と言うではないか。代わりに、わっちがこの娘を診てやろう」
「……すみません、皆さん。彼女と話を済ませて来るっす」
ルドラは硬い笑顔を見せる。
希と共に部屋を出ようとした時、菫は片腕を伸ばして彼を制止した。
「待ちなよ。あれはRDBの幹部でしょ? あんたが彼女と結託する可能性は?」
「……ないとは言いきれないっスね。ですけど、限りなく低いっスよ。自分は、あの人のことは好きじゃないんで」
ルドラはそう言うと、菫の手首を軽く掴んで優しく除けた。そして部屋を退出した。
「今の声は──希? お兄様は希と何の話を……?」
「さあ……」
アリスとシャイニが共に首を傾げるのを無視して、菫は顎に手を当てて黙っていた。
*
「……よく、あんたがアリスの前に姿を見せれたっスね」
「ふむ、ついに元の姿に戻れたのか。感激じゃぞ」
「談笑できるほど、余裕あると思うんスか?」
希はうっすら笑って話す。その間、ルドラの気迫をものともしないように、希は表情を変えなかった。
ルドラは、彼女のその態度が気に食わなかった。
「ふむ……なんのことかのう?」
「……本気で、言ってるんスか?」
ルドラの声が低くなる。
希はなんのことか初めから知っていたのか、顔色を変えず話す。
「わっちたちは生きねばならん……これは、暴走前のお主も理解しておったろう? だからアリスに頼み、体の成長を遅らせたり戻したりしたのじゃ。アリスには酷いことをしたと思うておるが、苦渋の選択じゃったのは理解してくれぬか」
「理解──できたら楽なんスけどね。これでも生物学者の端くれなんで、言わせてもらうっスよ。あんたたちは──寿命をなんだと思ってるんスか? そう易々と伸ばしたりしていいわけないんスよ」
「その言葉、アリスにも言えるか?」
「違う、アリスの能力を『寿命の延長』へと悪用したのはあんたたちでしょ……! 生物の寿命には限界がある──それが、揺るがしちゃならない真理なんスよ……!?」
取り乱した心を落ち着かせるように、ルドラは呼吸を整えた。
「確かに、自分たちはこの世界を監督する権利がある。でも、自分たちは生き永らえなくとも、その意志を誰かに届けることはできたはずっすよ。それをしなかったのは、自分たちの傲慢っス」
「……そうじゃな。参考にしよう」
ルドラは希の返答に疑問を持つも、同時に『もう敵では無い』ことを把握した。彼女に、そういった敵意が感じ取れなかったからだ。
文量が少なくなったので、いつかその処置をとりたいと思います。
ご愛読ありがとうございました。時間もよろしくお願いします。