144話 いつまでも救われぬ罪人
【戦況】
①美羽・シャイニ VS 狩魔
シャイニの能力により、狩魔の死亡という形で決着がついた。しかし、和也と優貴の戦闘で発生した瓦礫が降り、シャイニの背中を押した美羽がその瓦礫の下敷きになってしまう。シャイニは美羽を連れてあるアリスを訪ね、美羽は一命を取り留めた。
②サーシャ VS ローラン・ジョニー
ジョニーの能力を使ったローランの策略により、サーシャは致死率100%の状況に追い込まれる。その中、ローランは命を助ける代わりに全てを話す取引を持ちかけた。そしてサーシャはその取引に乗ることにした。
③菫 VS ルドラ(天舞音・芽衣は別方向へ)
菫は椿の死亡により、真の能力『詐欺罪』を使う。天舞音と芽衣と別行動し、ルドラの元に到着。本体に『窃盗罪』を使うと、ルドラの暴走は停止した。その後、アリスの元へ。
④椿 VS 頼渡
椿は突如発現した住居侵入罪の力で、ノアの介入をくぐり抜けて頼渡をナイフで刺した。その後、【暗殺の一夜】の代償で、ノアを殺せずに椿も命を落とす。
⑤和也 VS 優貴(ノアは頼渡の元へ)
優貴の一撃により、下の階にいたシャイニと美羽に被害が及ぶ。和也との話し合いの上、優貴は和也と共に行動することを決めた。
⑥届称 VS 有象無象の罪人共 (眼音は出口へと向かっている)
ノアにより、届称・眼音は和也と分かたれてしまう。届称は眼音を撤退させる時間をかせぐため、行き着いた先に居た罪人共に立ち向かう。
⑦翔 VS サミュエル
サミュエルの能力により、翔は能力空間に閉じ込められてしまう。サミュエルの能力により、翔は自殺寸前までに精神を追い詰められていた。
⑧バードルード VS 希
希の能力空間で混乱したバードルードは、第三の人格を出す。バードルードの能力によって精神崩壊寸前に追い込まれた希は空間脱出とともに、倒れる彼を置いて休息をとった。
⑨聖華 VS アダム・フローリー・アタラ
日本に攻め込んできた多くのRDBのうち、姿を消す能力者のアダム、ドジで人を攻撃するフローリー、京之介と和葉の武器を奪ったアタラの三名が聖華を攻撃する。
聖華が苦戦する中、かつての同僚である彩と白虎が聖華の前に現れた。
複雑化した戦況の中、誰がどのような勝利を掴むのか。
暗い銃口の奥に一抹の罪悪感とありったけの救済が見えた気がした。
翔は自分の方にそれを向け、天を仰ぐ。
サミュエルは目を伏せてただ一言──
「主よ、どうか彼の者に救いを」
と手を組んで祈る。その顔は穏やかながら眉をひそめていた。
次ぐのは、教会に不格好な銃声が一回。──直後、硝子が割れる音。
「──っ!?」
サミュエルは驚いて顔を上げる。人体からそんな音が出るわけがない。
翔は自殺に見せかけ、銃口を背後の扉に向けていたのだ。
彼は冷淡な顔でサミュエルを見る。
「っ……こういうことだろ?」
銃弾が扉を貫通したらしい。その扉はまるで硝子のように、淡い音を残して崩れ去った。
割れた扉から、神々しい光が溢れる。──銃口すら照らすほどの光が。
「っ……せっかく空間に閉じ込めたのに、後ろの扉から出られる? RDBは、そんな能力を確保したりしない」
「──いつから気づいておられたのですか?」
サミュエルは息を整えると、いつもの調子に戻った。狂ったように優しい雰囲気の彼に。
「答える。君から出た言葉はどれも、『その扉から出られる』だった。だけど、その扉を開けるなんて一度も言ってない」
翔は右手の銃を放り投げ、ゆっくり立ち上がる。
「君の能力の正体は──精神が追い詰められた時に出る銃を、自殺願望を裏切って、後ろの扉に向けることができるかを試す能力だ」
「……希様から聞いた通り、侮れない方ですね。その通り、私はこの空間内で貴方に干渉できません。ですので貴方が自身で、自殺か脱出かを選ぶことができます。貴方は無事、後者を選べたのですね」
サミュエルは脱力した笑顔を見せる。
「っ……アリスには、悪いと思っている。命まで絶ってしまうほど追い込まれてることすら知らなかった。でも──アリスが生かしてくれたから、僕たちは生きないといけない。この命を、無駄にしてはいけない。自殺か脱出の二択なら、選ぶ方は決まってるだろ?」
翔はサミュエルに背を向け、光の方へ足を進める。
「素晴らしい──ですが、一つだけ訂正がございます。その銃は、私に向けることもできました。遺憾ではありますが、貴方は戦力を奪うことができませんでしたね」
翔は直前で立ち止まり、サミュエルの方を向く。
「……言ったでしょ? 自殺か脱出の二択って。──そんな選択肢、初めから排除してたよ」
翔は、サミュエルを『悪』とは思っていなかった。むしろ、対極の存在だと思っていたのだ。きっと──こんな能力を持っていなければ、もっと幸せな生活ができただろう。
サミュエルは彼の言葉を聞いて、思わず眉を下げて笑った。
「ふふっ──救われませんね。貴方も、私も」
彼の子供っぽくて落ち着いた笑顔を背に、翔は再び歩きだす。
直後、目を刺すような光に、翔は思わず目を固く閉じた。
*
翔がゆっくり目を開けると、そこは教会に取り込まれる前に居た広場だった。
辺りを見回すと、そこには横たわるバードルードと椅子で寝ている希の姿があった。
「……どういう、状況?」
「んっ……おお、リアムか。戻って来たのじゃな」
希は目を覚ますと、艶めかしく体を伸ばす。
「っ……この状況も気になるけど、それ以上に聞きたいことがある」
「なんじゃ? まさか、お主が居なかった間に起こったわっちの身体の成長を──」
「アリスのこと、説明してくれる?」
「ふむ? アリスの……ああ、サミュエルに話したことか? あれは嘘じゃよ。アリスは誰にも脅されてないし、今もこの施設の地下で元気に生きておる」
サミュエルの空間に居た時は冷静になれなかったが、内心そうではないかと思っていた。
あの時のアリスの顔は、そうなる覚悟ができていた目だったから。
「嘘……? では、私は嘘の情報でリアム様を脅してしまったのですか……!?」
「まあ、そうなるのう。お主の能力はそのように、もっと有効活用しなければいけないからのう」
「……当初の目的は達成したので問題ありませんが──主よ、私をどうかお許しください」
「質問する。当初の目的って?」
翔の質問を受けたサミュエルは、希をちらりと見やる。彼女の頷きを確認して、サミュエルは話す。
「私の能力は特殊でして、あの空間内の人間は半分死んでいる状態なのです。貴方を閉じ込めることで、取締班の長である椿様の『詐欺罪』を制限することが目的でした」
「要は、死者の能力を使えん『詐欺罪』でお主の『強要罪』を模倣することを避けたかったのじゃ。お主のような能力が二人もいれば厄介極まりないからのう」
「そのためにサミュエルの空間に──なるほどね」
翔は納得する素振りを見せる。
おもむろに希は横たわるバードルードに近づくと、頬をペチペチと叩く。
「そろそろ起きろ、お主の相棒が戻って来たのじゃぞ」
「……ひっ! な、な、なん、ですか?」
「またその性格か。……そんな気にする必要もないと思うがのう」
希は翔の方を向く。
「わっちはサミュエルと共に戦線を離脱するが……お主らはどうするんじゃ? それとも、また死闘を繰り広げるか?」
「答える。これからノアのところに行く。例え君たちを殺そうと、あの男が居るだけで全てがひっくり返るから……元凶を潰さないとダメだ」
「そうか、ならば行くといい」
希とサミュエルは、その場を後にした。
「……行こう」
「は、はい!」
二人もすぐに、ノアを探しに行った。
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