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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
10章 彼らが真実を知ってから全てを終わらせる終焉譚
143/174

143話 故意

【戦況】


美羽みう・シャイニ VS 狩魔かるま

 シャイニの能力により、狩魔の死亡という形で決着がついた。しかし、和也と優貴の戦闘で発生した瓦礫が降り、シャイニの背中を押した美羽がその瓦礫の下敷きになってしまう。シャイニは美羽を連れてある少女を訪ねる。


②サーシャ VS ローラン・ジョニー

 ジョニーの能力を使ったローランの策略により、サーシャは致死率100%の状況に追い込まれる。その中、ローランは命を助ける代わりに全てを話す取引を持ちかけた。そしてサーシャはその取引に乗ることにした。


すみれ VS ルドラ(天舞音あまね芽衣めいは別方向へ)

 菫は椿の死亡により、真の能力『詐欺罪』を使う。天舞音と芽衣と別行動し、ルドラの元に到着。本体に『窃盗罪』を使うと、ルドラの暴走は停止した。


椿つばき VS 頼渡らいと

 椿は突如発現した住居侵入罪の力で、ノアの介入をくぐり抜けて頼渡をナイフで刺した。その後、【暗殺の一夜(アサシン・ナイト)】の代償で、ノアを殺せずに椿も命を落とす。


和也かずや VS 優貴ゆうき(ノアは頼渡の元へ)

 優貴の一撃により、下の階にいたシャイニと美羽に被害が及ぶ。和也との話し合いの上、優貴は和也と共に行動することを決めた。


届称かいしょう VS 有象無象の罪人共 (眼音まおは出口へと向かっている)

 ノアにより、届称・眼音は和也と分かたれてしまう。届称は眼音を撤退させる時間をかせぐため、行き着いた先に居た罪人共に立ち向かう。


しょう VS サミュエル

 サミュエルの能力により、翔は能力空間に閉じ込められてしまう。サミュエルの能力により、翔は自殺寸前までに精神を追い詰められていた。


⑧バードルード VS のぞみ

 希の能力空間で混乱したバードルードは、第三の人格を出す。バードルードの能力によって精神崩壊寸前に追い込まれた希は空間脱出とともに、倒れる彼を置いて休息をとった。


聖華せいか VS アダム・フローリー・アタラ

 日本に攻め込んできた多くのRDBのうち、姿を消す能力者のアダム、()()で人を攻撃するフローリー、京之介(きょうのすけ)和葉かずはの武器を奪ったアタラの三名が聖華を攻撃する。  

 聖華が苦戦する中、かつての同僚であるあや白虎びゃっこが聖華の前に現れた。



 複雑化した戦況の中、誰がどのような勝利を掴むのか。

 すみれは座りこむルドラに、これまでのことを話した。戦争のことやルドラ自身のことを、できるだけ詳しく、かつ端的に。

 終始ルドラは、顎に手を当てて神妙な面持ちを浮かべていた。



「ノア──あれほど言ったのに、なんで戦争なんか……あぁすみません、話してくれてありがとうございます」

「そういえば、あんたの口から一回も名前聞いてないんだけど」

「すみません、そうッスよね。じゃあ改めて、自分はルドラ・ダブラルっス──まあ、気軽にルドラとでも呼んでください」

「私は菫。さっき『あれほど言ったのに』って言ってたけど、どういうこと?」

「ああ、聞こえてたっすか」


 ルドラは照れくさそうに頭を搔く。



「実を言うと自分は、RDBが立てられる前まで、ノアと対立してたっス。ノアが作ろうとしてたRDBは、正義と悪を停滞させるための組織っス。それこそがノアの理想だったから──。でも、自分はその組織を作ることを反対してたんスよ」

「待って、そもそもノアの理想が理解できないんだけど。なんでそうなったの?」

「それは────あれ、────っ!」


 ルドラは何か言いたげな様子だった。しかし、叫ぼうとしてもそれが声として出ることはなかった。



「おかしいっス……なんで()()()()を言おうとしたら声が消えるんすか──いや、そもそも自分が声を出そうとしてない……?」

「それ、眼音まおの制限じゃないの? そんなことも忘れてるんだね」

「そう、なんスか。まあとにかく、ノアの理想には確かに妥当性はあったっス。ただ、自分はそのやり方が正しいとは思えなかったんス」

「なんで?」


 眉をひそめる菫に、ルドラは指を立てる。



「例えば、菫さんが他の人と言い争っているとしましょう。すると突然、近くにいた人がその言い争いに参加しました。その時、菫さんはどう思うっスか?」

「え……うん、『誰だコイツ』ってなるんじゃない?」

「そうなるのが自然っスよね。正義と悪でも同じっス。そういう対立は本来、当事者間で解決すべき事項っス。どんな形であれ、世界の正義や悪に介入すること自体、一種の『悪』なんスよ」

「だから、対立?」


 ルドラは頷く。

 菫は、完全にはルドラの話に同意はできなかった。しかし、RDBに敵対する意思があることは確かなようだ。



「じゃあ、どうして今までRDBについてたの?」

「いやいや、あの状態で自我を保てるわけないじゃないっスか。とはいえ、自分は今まで、そんなとんでもないことを無意識にやってたんスね……申し訳ない気持ちになるっスよ。ほんと、助けてくれてありがとうございます」

「もういいから。そして、あんたはこれからどうするの?」

「そりゃ、取締班さんと一緒にノアを止めるっスよ。彼らが悪を演じているかどうか関係無しに、こんなやり方は認められませんから」

 

 ルドラの目は真っ直ぐだった。まさに『正義感』が表れている目だ。

 菫は鼻で深く息を吐くと、一つ頷いた。



「ノアのところに行く前に、一つだけ寄ってもいいっスか?」

「どこに?」

「……アリスのとこっス」



   *



 ルドラの言われるがままついて行く菫。たどり着いた先の扉を勢いよく開けると、奇妙な光景を目の当たりにした。



「ちょっ、菫さん。そんな乱暴に──」

「どこに敵がいるか分からないから──ん、シャイニ……? それに美羽みうも、どうしてここに?」

「菫ちゃん……? 良かった、無事だったんだね……」


 菫が見た光景は、穏やかに寝ている美羽と、いつになく元気がないシャイニ、そして目元を包帯で隠している少女が居た。

 恐らくこの少女こそが『アリス』なのだろう。しょうやサーシャなどの学者から彼女の名前を聞かなかったことから、これこそがルドラが持っている『言える情報』なのだろう。



「アリス、無事だったっスか。良かったっス、今すぐここから──」

「…………っ?」

「アリス? どうしたんすか──まさか、自分を忘れたんすか……?」

「えっ、と──ごめんなさい。聞いたことある声ではあるのですが、どこで聞いたか……でも、心が今一番苦しいのです。私……」


 どうやらアリスは気が動転しているようだ。その様子を見たルドラは、彼女を優しく抱きしめた。

 アリスは震える手で、ルドラの背後に手を回す。



「温かい……まさか、()()()?」

「そうっス。待たせたっスね、アリス」

「お兄様……私、お兄様を忘れて……なんて、ことをっ……!」

「む、無理もないよっ! だって、百年ぶりの再開でしょっ!? いくらお兄ちゃんでも厳しいよっ!」


 気がつけばシャイニのテンションが戻っていた。今自分が落ち込むべきじゃないと思ったのだろうか。

 一方、ルドラはシャイニの言葉を聞いて目を見開いた。



「待ってください──聞き間違いっスか? ……百年? 自分は、百年も()()されてたんスか……!?」

「えっ、聞いてなかったのっ!?」

「菫さん、なんで教えてくれなかったんスか……!」

「そんなの分かるわけないじゃん。私はあんたが、どんな記憶持ってるかなんて調べようないんだから」

「でも、菫ちゃんの能力を使えば良かったんじゃ──」

「めんどくさいから、それは後で話す」


 ルドラはアリスの肩を掴む。



「じゃあこの包帯は、まさか……能力を使ったんスか!? あれほど使っちゃダメだと……!」

「でも……のぞみが言ったのです。どうしても長く生きないといけないと……」

「希、さんが? いや、そんなことは──だって、この能力は視力を犠牲にすると彼女も知ってるはず……。そもそも、アリスはこの能力を使えたんスか? あんなに難しいと言っていたのに……」

「それはリアムに能力を使ってもらって、無理やり発動したのです。で、でもこれは私の意思で決断したことです」

「リアムも……まさか自分以外、全員アリスの能力を受けているんスか……?」


 ルドラの表情から怒りと苦しさがにじみ出る。

 菫はルドラに言う。



「あくまで私の予想だけど、あんたは『青いマフラー』で暴走したんでしょ? それ渡したのノアだったりしない?」

「確かに、そこの記憶はあるっス。『君がこれで強くなってくれれば、脅威に対抗できるかもしれない』と──ま、まさか……」

「ノアは初めから、これを付けると自我を失うことを知ってて渡したんじゃない? 今みたいに、アリスに能力を使わせることを邪魔させないようにさ」


 もしこの仮説が合ってるとしたら、取締班はノアのことを甘く見ていたかもしれない。

 ルドラを暴走させ、その妹の能力を『視力と引き換えに』発動してもらう。──非人道的だ。



「一理あるっス──でも、そこまでやるんスか、ノア……」


 そう言ってルドラは立ち上がる。



「ノアに会う理由が、これで一つ増えたっス」


 その声は、菫が聞いた中で最も怒りに満ち溢れていた。

 ご愛読ありがとうございました。次回も宜しくお願いします。

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