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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
10章 彼らが真実を知ってから全てを終わらせる終焉譚
141/174

141話 罪人取締班

 過去編の後半です

   *



 あの後、和葉かずはさんと京之介(きょうのすけ)さんに家まで送ってもらった。これから葬儀関連の手続きがあるらしいが、そんなことを考える余裕なんてなかった。

 家に帰ってすぐ、すみれと共に寝室に向かった。一度、気持ちを落ち着かせないといけない。


 菫はずっと無言を貫き通していた。この子はまだ小さいのに、すぐにでも泣き出しそうなのに、こんなに無理して──。

 俺は菫の頭をそっと撫でる。



「っ……?」

「大丈夫。……大丈夫だから、安心して」


 こんな薄い言葉しかかけられなかった。自分が『大丈夫だ』と思ってない証拠だ。

 俺のせいで、菫に辛い思い出を残してしまった。俺の判断が違ったせいで……何やってるんだ、俺は。

 ふと、菫の体が震えているのに気がついた。先程の俺と同じように嗚咽おえつしているのか。俺と二人きりになったことで、安心と共に感情が溢れたのだろう。



「私……ううっ……。ごめん、なさいっ……」

「大丈夫、菫は何も悪くないよ」

「ううん……私が、パパとママの──教えちゃった、からっ……!」


 もしかして、菫は『父さんと母さんの場所を教えた』ことを……?

 犯罪事情にうとい菫が、あの場面でシラを切ったり嘘をつくことは難しい。でも、それでもこの子は──



「──うそ、つけばよかったのかなぁ……。ねぇ、お兄ちゃんの言うこと、まちがってたの……?」

「っ……」


 菫に、『人と話すときは嘘をついちゃダメ』と教えた。だから菫は正直に話した。

 でも、もしかしたらそれは綺麗事なのかもしれない。結局人間は嘘をつかないと、大事なものも守れないのかもしれない。


 ……違う! 俺が、菫のことをもっと見ていれば良かったんだ。菫ともっと話しておけば、犯人の顔も聞いておけば……っ! こんなことにはっ……!


 そう思った時──



「っ……!?」


 自分の名前から始まる紙切れ……? それがいきなり頭の中に現れた。続きには『あなたは罪人となりました』と書いてある。続きはもやがかかっているように見えない。

 『罪人』──それは、人を殺したという強い罪悪感から能力を得た者。その能力は罪悪感の『種類』によって変化する。



「俺が、罪人に……」

「お兄ちゃん……頭、なんかへん……!」

「まさか菫も──どうしたの!?」

「わかんないよっ! なんか、へんな文字がうかんで……!!」


 その日、二人の罪人が生まれた。


   *



 両親の葬式が行われた。家族葬だったため、人も想定より少ない。

 とはいえ、突然の死去を受け入れられない人も多かった。まだ俺もそうなんだ、無理もない。


 菫は何度も涙をこぼしそうになりながら、必死に前を向いていた。とても力強い眼差しで、とても真っ直ぐで──。

 あの時からずっと自分を責め続けている、そんな自分とは大違いだ。なんて──最低で愚かな兄だろう。

 それでも、一つだけやりたいことがあった。俺の唯一の『贖罪』を。


 あの時の後悔を繰り返さないためにも。


   *



 葬儀関連が一段落し、気分転換に俺は菫と散歩に出かけた。

 アスファルトが橙色に染まる。いくら太陽でも、影を照らすことはどうしてもできないらしい。


 突然菫は、握ってた俺の手を振りほどく。そして俺の前に立って、顔をじっと見る。



「……お兄ちゃん、私きめた」

「ん?」

「私……もう、びくびくしない。もう、やさしくなんてならない」

「菫、それはさすがに──」

「だから、お兄ちゃんは私のぶんまで、みんなにやさしくして」


 菫は優しく、笑顔でそう言った。

 それが、()()なりの決意なのだろう。彼女なりに考えて、それで出した結果だ。自分に矯正する資格は無い。



「……分かった。じゃあ俺は、これから大切な物ができる度にそれを守るよ。もちろん、菫もね」

「──うん!」


 彼女の笑顔がより明るくなった、その時だった。

 彼女の後ろの人影が襲いかかろうとしていた。



「ちっ……!」

「くっ!?」


 間一髪のところで菫を救い出したものの、俺は左腕を切られてしまった。

 その人影を確認すると、俺と同じ年齢くらいの男子がいた。まさか、父さんの反対派なのか?



「君は、誰!?」

「……お前、警視総監の子だろ?」

「そうだけど、それが何?」

「僕は、ただ──やり返すだけだ」


 その子はまたナイフを構える。異常なまでの殺気がにじみ出ている。



「落ち着いてくれ! 俺は君と戦う意思はない! せめて話し合いたい!」

「僕には戦う意思がある。僕はただ──正義を殺したいだけ、悪の生きる場所が欲しいだけ、やり返したいだ……け──」


 彼は言い終わる前に、その場に倒れ込んでしまった。



「なに、あの人……」


 菫は彼に嫌悪感を抱いていた。


   *



 病院に連れていった結果、栄養失調とのことだ。ここ何日間も食べていないようだった。

 彼は一日後に目が覚めた。その時はちょうど俺がいた。



「──おはよう」

「君は……。ん、ここは?」

「ここは病院、栄養失調で倒れたから連れてきた」

「……なんで、見捨てなかったの? 僕は、あんなにも酷いことしたのに」

「君にも何か事情がありそうだったから。だけど、事情は聞いていい?」


 しばらく悩んだ後、彼は頷いた。



「……僕は、篠原しのはら頼渡らいと。僕の家族は、大事な家族は、正義に殺された」

「正義に、殺された?」

「僕の家族は、みんな暗殺者だった。ここだけの話だけど、みんなは『国が黙認していた』、合法な暗殺者」

「合法な……」


 噂には聞いたことある。法の下ではどうしても裁けない悪人などを、断罪という名目で暗殺する者たちがいると。

 まさか、彼の家族が──



「だけど、僕が生まれてからはみんな足を洗った。順当に生き始めた。それを──アイツらは……!」


 布団越しに、頼渡は自分の脚を殴る。



「アイツらって?」

「……この世に蔓延はびこる、ゴミみたいな正義感を持ったヤツら──警察だよ……! アイツらは、僕の家族が生きてることが『不都合だ』と判断して……それでっ……!」


 簡単に言えば口封じだ。だから彼は警察を、『正義』を憎んでいたのか。

 父さんは関係してたのだろうか? ……いや父さんの性格だ。暗殺者を雇ってた人達が父さんに知らせたら、父さんは即座に彼らを退職させるだろう。



「君は逃げれたの?」

「母さんに逃がして貰った──くそ、僕がもっと力を、『アイツらにやり返すほどの』力があれば……! 母さんを、父さんを、兄さんも見殺しにしなくて良かったのに……!」

「頼渡くん……」

「『公務執行妨害罪こうむしっこうぼうがいざい』を持った罪人になれた今なら、君たちを殺せると考えてた。……でも、さすがに冷静じゃなかった。謝って済む訳じゃないけど……ごめん」


 初めは、こんな殺そうとしてくる悪人を許す気は無かった。だが、この子にも理由があって、良心もちゃんと残っていたのだ。



「……一つ、話がある」


 俺は彼に耳打ちした。




 * * * *





 あれから一年が経過した。その頃には、使用許可証の靄はとっくに晴れていた。



┏                  ┓

       叢雲むらくも 椿つばき 様          


    貴方は罪人となりました。


 これは貴方の能力、『秘密漏示罪ひみつろうじざい』の使

 用許可証です。


 この能力の詳細は以下の通りです。


 あなたの能力は発動条件達成後、対象の

 頭部から情報を現像して抜き出す能力で

 す。なお、記憶操作も可能です。


 『発動条件』:手袋をつける。


 『発動中、あなたが有する利点』:色彩

 感覚の上昇。


 『発動中、あなたが有する欠点』:動体

 視力の低下。            

┗                  ┛



 能力が罪悪感に影響するなら、あの時、俺は『菫の記憶を見ることができれば』と思ったのか?

 確かにこの能力を菫に使えば、未然に事件を防げたのだろう。──とんだ皮肉だ。

 まあ、そんな皮肉に付き合っている暇は無い。なぜなら俺は今──



「ほら、早く入りなよ。()()

「……うん、そうだね」


 父さんが作った『罪人取締班』の班長になった。菊池きくち総監は父さんと『取締班の維持』について約束していたらしい。

 詳しいことは知らされていないが、今この取締班があるのは菊池総監がいるおかげだ。


 しばらく空席だった班員の席に、二人の体温が伝わる。

 菫はあれから人が変わったように見える。……まあ、()は変わらないが。



「にしても、なんで頼渡あいつを班員にしたんだか。私には分からないんだけど」

「まあまあ、仲良くお願いね。まだ三人しかいないんだし、喧嘩したらいけないから」

「……ねえ、あいつが来る前にやりたいことがあるんだけど。こっち来て」

「ん? どうしたの?」


 俺は菫の傍に近寄る。菫は手袋を外して《発動》と言うと、俺の体を触った。その瞬間──俺の使用許可証が『詐欺罪さぎざい』となった。



「これは……? 何したの?」

「私の『詐欺罪』の能力。一つ目の効果は『一度見た罪人の能力を、利点欠点を無視して発動できる』。二つ目の効果は『触れた相手との能力を、それぞれ弱体化して交換する』。今のは二つ目の能力だね」


 菫は自分の能力を言った。今まで、靄が晴れても言おうとしなかったのに……。



「なんでこんなことを……?」

「班長なんでしょ? ……組織の長は強い能力を持ってないとなめられるよ?」

「それにしたって──」

「それに! ……罪人を認めさせたいんでしょ? この世界に」


 俺の……自責の終着点はそこに辿り着いた。父さんがしたかったことを、俺が継承するべきだと。



「……分かった。使いこなすのに時間はかかりそうだけど、それでもやってみるよ」


 ふと扉が開くと、そこには引きつった笑顔の男が居た。三人目の班員、頼渡だ。


 罪人取締班は、ここから始まる。どんな組織になるか、楽しみな自分がいる。

 ご愛読ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。

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