139話 覚悟と恐怖と覚悟
【戦況】
①美羽・シャイニ VS 狩魔
シャイニの能力により、狩魔の死亡という形で決着がついた。しかし、和也と優貴の戦闘で発生した瓦礫が降り、シャイニの背中を押した美羽がその瓦礫の下敷きになってしまう。シャイニは美羽を連れてある少女を訪ねる。
②サーシャ VS ローラン・ジョニー
ジョニーの能力を使ったローランの策略により、サーシャは致死率100%の状況に追い込まれる。その中、ローランは命を助ける代わりに全てを話す取引を持ちかけた。そしてサーシャはその取引に乗ることにした。
③天舞音・芽衣・菫 VS ルドラ
三名はルドラの能力で表れた触手に苦戦。少しずつ着実に進むも、ルドラの元にたどり着けずにいた。
④椿 VS 頼渡
椿は突如発現した住居侵入罪の力で、ノアの介入をくぐり抜けて頼渡をナイフで刺した。その後、【暗殺の一夜】の代償で、ノアを殺せずに椿も命を落とす。
⑤和也 VS 優貴(ノアは頼渡の元へ)
優貴の一撃により、下の階にいたシャイニと美羽に被害が及ぶ。和也との話し合いの上、優貴は和也と共に行動することを決めた。
⑥届称 VS 有象無象の罪人共 (眼音は出口へと向かっている)
ノアにより、届称・眼音は和也と分かたれてしまう。届称は眼音を撤退させる時間をかせぐため、行き着いた先に居た罪人共に立ち向かう。
⑦翔 VS サミュエル
サミュエルの能力により、翔は能力空間に閉じ込められてしまう。サミュエルの能力により、翔は自殺寸前までに精神を追い詰められていた。
⑧バードルード VS 希
希の能力空間で混乱したバードルードは、第三の人格を出す。バードルードの能力によって精神崩壊寸前に追い込まれた希は空間脱出とともに、倒れる彼を置いて休息をとった。
⑨聖華 VS アダム・フローリー・アタラ
日本に攻め込んできた多くのRDBのうち、姿を消す能力者のアダム、ドジで人を攻撃するフローリー、京之介と和葉の武器を奪ったアタラの三名が聖華を攻撃する。
聖華が苦戦する中、かつての同僚である彩と白虎が聖華の前に現れた。
複雑化した戦況の中、誰がどのような勝利を掴むのか。
「しょ、証券会社……?」
「はい、ノアはそう言ってました。RDBはただの証券会社で、ノアの他に希やリアムも居ると」
シャイニは確信した、アリスがノアに嘘の情報を教えられていることを。
「ううん、RDBは『ヘイワ』を求める組織なんだ。それを達成するために、彼らは今まで──」
シャイニはRDBが本当はどのような組織か、アリスに伝え始めた。
*
「──そう、だったのですね」
シャイニの説明が終わるまでには、アリスは俯いて悲しげな表情をしていた。目隠しをしていても、アリスの感情は顔から伝わるらしい。
「っ……分かりました。ならば、私たちがやるべき事は一つですね。ノアを、止めましょう」
力強い声色とともにアリスは立ち上がる。反射的にシャイニも彼女に倣うように立つものの、その顔はどこか晴れない表情をしていた。
「話した私が言うのもおかしいけど、そんなあっさりと信じてくれるんだね……?」
「……ノアは、証券会社を設立するだけで満足する人じゃありません。私はそれを分かっていたのに、それを見て見ぬふりをしたのです。しかしシャイニさんの話を聞くと、いかにもノアがやりそうなことだと思うと同時に目が覚めました。私にも、彼を止める責任はあります」
初めはただ能力が特殊なだけの少女だと思っていた。今の彼女を見ると、そのイメージが完全に払拭された。
「アリスちゃん、気持ちは分かるけどここに居てくれるかな? ここで、美羽ちゃんを診ててほしいんだ」
「しかし私も──せめて、ノアと話すくらいは……!」
「もう何も失いたくないのっ! アリスちゃんだって、居なくなってほしくないのっ……! アリスちゃんはただでさえ目が悪いのに、もし私が護れなかったら……護れな、かったらっ……!」
「シャイニさん……」
「私──もう、怖いよ……」
シャイニは狩魔や美羽の件以来、自分のせいで人が傷ついてしまうことを恐れてしまっていた。そして、自分はこの戦争に参加するにはあまりにも未熟だったと思ってしまったのだ。
「シャイニさん、私は──」
アリスが何か言いかけたところで、ここの部屋の扉が突然荒々しく開かれた。
* * * *
「っ、だめだ! 全く進めないよ!」
「邪魔すぎますね、この触手……! 私は、ここで立ち止まることなんてできないのにっ!」
天舞音と芽衣は触手をナイフで刺したり避けたりして先へ進む。菫はその二人を見ながら、二人が切り開いた道を共に進んでいく。
「っ!? っかはぁ、はぁっ──!」
菫は二人に気づかれないように、その場に倒れ込む。体調が悪化したのだ。
嫌な汗が首筋をつたう。肺にコットンが詰まったように苦しい。今回のは今までよりも一番症状が顕著になって現れている。
「結局、何も、できないんだ……私」
菫の意識が薄れていく。どれもこれも大掛かりな自業自得だ。なのになぜ、涙があふれるのだろう。そして、なぜそれを出すまいとこらえるのだろう。
最後に二人を見る。必死で前に行く彼女らと比べて、ただ文句だけ言っていた自分を嘲笑する。そうして彼女は目を──
──ふと苦しさが無くなった。肺に詰まっていたコットンが全て排除されたように、新鮮な空気を久しぶりに吸えた。
「あれ──そっ、か。そうなんだ、お兄ちゃんが……お兄、ちゃんがっ……」
さっき堪えた涙をさらに押し流すような涙が目からあふれ出た。その時が来てしまったのだと。
嫌な思考を取り払うように首を振って、弱音をしまい込むように唇を噛む。
菫は立ち上がる。気がつけば周りは触手だらけだった。彼女は手袋を外して《発動》と言う。さらに片目を隠すと彼女はただ一言──
「邪魔、どいて」
──と言い放つ。次の瞬間、触手はその場から姿を消した。
菫は天舞音と芽衣に近寄る。
「二人とも、あとは私に任せて大丈夫だから」
「何言って──菫さんの能力で何ができるんですか?」
「ナイフ貸して」
菫の妙な雰囲気に気圧されて、天舞音と芽衣は持っていたナイフを手渡す。
しかし菫はそれを手に取ったかと思うと、すぐに床に落とした。
「っ、菫ちゃん!? 何やってるのさ!」
菫は天舞音の声を無視する。
二人が怪訝な表情を浮かべる中、周りの触手の位置を確認する菫は、手を叩いた後、さらに口元に人差し指をあてる。
「────え?」
そのナイフは意志を持ったようにフワフワと宙を舞い、触手を豆腐のように切り刻んでいく。
気がつけば周りに触手という存在は姿かたちもなかった。
「二人はそっちの通路に行って」
「……ああ、えっと──うん。芽衣ちゃん行こうか」
脳の整理が追いつかない天舞音は言葉を失っていたため、返事もどこかぎこちなくなった。
しかし芽衣は言葉を飲み込むことはできなかった。
「待ってください……説明してくださいよっ! なんで、そんなことできるんですかっ!?」
「……話すと長くなる。簡単に言うと、これが私の本当の能力で、発動条件は──」
菫は二人の方を振り向く。彼女はどことなく悲しそうな、それでも無理やり覚悟を決めたような顔をしている。
「──発動条件は、叢雲椿の死亡……」
今回の話は短くなりました。次回はボリューム多めにしたいと思います。
ご愛読ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。