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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
10章 彼らが真実を知ってから全てを終わらせる終焉譚
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135話 最期の友情

【戦況】


美羽みう・シャイニ VS 狩魔かるま

 シャイニの能力により、狩魔の死亡という形で決着がついた。


②サーシャ VS ローラン・ジョニー

 ジョニーの能力を使ったローランの策略により、サーシャは致死率100%の状況に追い込まれる。その中、ローランは命を助ける代わりに全てを話す取引を持ちかけた。そしてサーシャはその取引に乗ることにした。


天舞音あまね芽衣めいすみれ VS ルドラ

 三名はルドラの能力で表れた触手に苦戦。少しずつ着実に進むも、ルドラの元にたどり着けずにいた。


椿つばき VS 頼渡らいと

 椿は窃盗罪せっとうざいで頼渡の能力を奪うことに成功した。しかし同時に、頼渡の能力で右手を壊してしまう。


和也かずや VS ノア・優貴ゆうき

 ノアにより、和也は届称かいしょう眼音まおと分かたれてしまう。ノアに一撃を与えるも、代わりに優貴から一撃を食らう。


届称かいしょう VS 有象無象の罪人共 (眼音まおは出口へと向かっている)

 ノアにより、届称・眼音は和也と分かたれてしまう。届称は眼音を撤退させる時間をかせぐため、行き着いた先に居た罪人共に立ち向かう。


しょう VS サミュエル

 サミュエルの能力により、翔は能力空間に閉じ込められてしまう。サミュエルの能力により、翔は自殺寸前までに精神を追い詰められていた。


⑧バードルード VS のぞみ

 希の能力空間で混乱したバードルードは、第三の人格を出す。バードルードの能力によって精神崩壊寸前に追い込まれた希は空間脱出とともに、倒れる彼を置いて休息をとった。


聖華せいか VS アダム・フローリー・アタラ

 日本に攻め込んできた多くのRDBのうち、姿を消す能力者のアダム、()()で人を攻撃するフローリー、京之介(きょうのすけ)和葉かずはの武器を奪ったアタラの三名が聖華を攻撃する。  

 聖華が苦戦する中、かつての同僚であるあや白虎びゃっこが聖華の前に現れた。



 複雑化した戦況の中、誰がどのような勝利を掴むのか。

 * * * *





 椿つばきは唸りながら義手に等しい右腕の痛みに耐えている。それを気味悪がった頼渡らいとは、道端の石ころのように椿を蹴り飛ばす。


 左手は既に義手、右手は使い物にならない彼では受け身などとれるわけなかった。



「なん、だよ! その能力! 君、能力を何個持ってるのさ!」

「……はっ?」


 痛みに耐えながらも頼渡の言葉を聞き逃さなかった。



「だって、お前……俺の、能力だぞ……?」

「なんだよ……君の能力は他の能力を使えるの?」


 その言葉で椿は、彼に何が起きているのか察することができた。痛みで混乱する頭を整理した上で、奪った頼渡の能力使用許可証を見る。


 頼渡の能力、『公務執行妨害罪こうむしっこうぼうがいざい』は自身や対象に加わる力を最大十倍にして逆ベクトルで跳ね返すことができる。発動条件は帽子を手で抑えること。

 利点は機動力の上昇、そして欠点は──



「──()()()()()()……? じゃあ、まさか……頼渡、俺のこと覚えてないのか?」

「覚えてるも何も、君と会ったことないよ!」


 椿は思わず彼から目を逸らす。椿を覚えていないから、だからRDBに寝返ったのだろう。──昔の頼渡に戻ったのだろう。



「……そうか」


 椿の声は震えていた。彼の中で自分が死んだなら、自分の中で彼が死んだようなものだ。

 特に哀しくない。それほど共依存な訳でもない。ただ、この八つ当たりのような失望をどう呼ぼう。彼は悪くないはずなのに、それでも彼に裏切られたと思い込むこの感情をどう呼ぼう。



「もういい、もういいんだ頼渡。これが、俺たちの結末なんだ」

「っ……?」


 能力を使えない頼渡にトドメをさす方法はいくらでもある。椿は目を閉じて、優貴ゆうきの『暴行罪ぼうこうざい』を発動しようとした。

 しかし、椿が三秒目をつむり続けることはできなかった。



「喧嘩はそこまでだよ、お二人とも」

「っ!? 距離がっ……!」


 次の瞬間、床が迫り上がると同時に頼渡と椿の間に大きな壁が造られた。椿は坂道を転がり、頼渡と距離を離されてしまう。

 ──『窃盗罪せっとうざい』の範囲外だ。これで頼渡はまた能力を発動できてしまう。


 こんなことができる者など一人しかいない。その者は壁を一部変形させて、椿にその姿を見せた。



「……ノア!」

「やあ、名前を覚えてくれるなんて嬉しいね。よかったらサインをかいてあげようか?」


 右手を失った代わりに必死に得たアドバンテージが、彼によって一瞬で奪われてしまった。

 しかし椿はそんなことよりも彼に言いたいことがあった。



「……頼渡の能力の欠点を知ってて、RDBに引き入れたな?」

「君はそう思うんだね。ああいや、君の感性を否定するわけじゃ──」

「はぐらかさないで、ちゃんと答えてくれないかな?」

「……まあね。でもそれ以上に、彼は世界を憎んでいた。RDBの掲げる『ヘイワ』を求めてた」


 彼の言う『ヘイワ』は、世界が正しくなるような『平和』ではない。正義と悪が同じ力で存在することだ。



「まあこれはおまけで伝えておくけど、頼渡くんが君たちの元を離れる時はまだ記憶があったんだよ? 電話で彼に裏切るように命令した時も苦しそうだったね。その後は色んな仕事で能力を多数回使わせて記憶を消費させた」

「……なんで、そんなことを」

「こうなって欲しかったからだよ。そうしたら、君は『悪』という存在から目を離せなくなる。『正義』を諦めることもなくなる」


 淡々と述べる彼の顔に感情などなかった。


 怒りっぽいのは自分の悪いところだ、と椿は思う。それと同時に、これは真っ当な怒りだとも思う。



「おや、まだ立てるのかい? 人間は強烈な痛みを感じると起きたくないのが基本だけどね。ああいや、君は人間じゃないと言いたいわけじゃないよ?」

「そうだよね、良かった。さっきから複雑な感情を抱いてばかりの俺が、人間じゃないわけないもんね」


 椿は痛みを堪えて立ち上がった。ノアを──その前に、頼渡に引導を渡すために。

 椿は再び『暴行罪』を発動しようと目を閉じた──その時だった。彼の頭の中に、一つの能力の使用許可証が浮かび上がる。それはまるで「やれやれ」と言いながら、笑顔で手を差し伸べるようにして現れた。



「これって……でも、どうして? だって──」


 椿は自分の声を遮ると、ゆっくりと首を振る。なんとなく、答えは分かっていた。

 この能力を使いこなせる自信がある。なぜなら、持ち主の特訓によく付き合っていたから。


 笑みを零した椿は、『目線を下に落とす』。



「《発動》。【暗殺の一夜(アサシン・ナイト)】」


 彼の体は半透明になり、そのまま歩いて壁に近づく。

 その技は、その能力は、罪人取締班副班長、湯川ゆかわりんの物だった。椿の『詐欺罪さぎざい』は死者に対しては使えない。それでも今はなぜか使えている。


 ノアは嫌な予感を察知し、とっさに椿の足元を消失させた。



「そう来ると思ったよ」


 椿は地面を失う前から既に、ノアの行動を予測して跳び上がっていた。それと同時に感じたのは、急な意識の喪失だった。しかしすぐに復活して着地する。



「凛は……こんな技を使っていたのか……。もし欠点の『体力の低下』があればもっときつかったはずなのに……」


 椿は彼らとを隔てている壁をそのまま通る。そして懐からポケットナイフを取り出した。

 元々、芽衣めいの『重婚罪じゅうこんざい』を使うための物だった。むしろ彼女と出会ってなかったら、ポケットナイフを持ち歩くこともなかっただろう。



「終わらせよう、頼渡」


 頼渡は何も言わなかった。抵抗もしなかった。

 彼は、椿に必ず殺されることを悟っていた。


 ナイフは、頼渡の首を確実に切った。


 ──最期の彼の表情は、なぜか穏やかな笑顔を浮かべていた。もし死の直前に椿を思い出したのなら、それはあまりにもできすぎている話だ。

 椿はそんなことを思いつつも、そんなできすぎていることが起こったのだと感じていた。



「そして君だ、ノア」


 ゆっくりとノアに近づいていく。しかし──



「っ、がはっ……!」


 ノアの首にナイフを届かせる前に『住居侵入罪じゅうきょしんにゅうざい』の効果が消えた。

 そして椿に、【暗殺の一夜】の代償が襲いかかる。ただでさえ頼渡の攻撃で瀕死だった体は、内側から崩壊していく。


 椿は初めから、頼渡と共に死ぬつもりだった。それが、彼との友情であり、その結末に相応ふさわしいと思ったからだ。



「ノア、君は……俺じゃない、誰かが──きっと……殺す」

「っ……」


 目を閉じる直前、視界の奥に悲しそうに笑っている凛の姿があった。

 死の間際が魅せた幻影でもいい。椿の勝手な思い込みでもいい。それでも──



「ははっ。……君が、本物だったらなぁ」


 震えた笑い声がその場に響く。椿は頼渡と同じような、穏やかな笑顔を最期に浮かべた。


 ノアは冷や汗をぬぐってその場を後にした。

 ご愛読ありがとうございました。


 次回もよろしくお願いします。

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