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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
10章 彼らが真実を知ってから全てを終わらせる終焉譚
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134話 人格

【戦況】


美羽みう・シャイニ VS 狩魔かるま

 シャイニの能力により、狩魔の死亡という形で決着がついた。


②サーシャ VS ローラン・ジョニー

 ジョニーの能力を使ったローランの策略により、サーシャは致死率100%の状況に追い込まれる。その中、ローランは命を助ける代わりに全てを話す取引を持ちかけた。そしてサーシャはその取引に乗ることにした。


天舞音あまね芽衣めいすみれ VS ルドラ

 三名はルドラの能力で表れた触手に苦戦。少しずつ着実に進むも、ルドラの元にたどり着けずにいた。


椿つばき VS 頼渡らいと

 椿は窃盗罪せっとうざいで頼渡の能力を奪うことに成功した。しかし同時に、頼渡の能力で右手を壊してしまう。


和也かずや VS ノア・優貴ゆうき

 ノアにより、和也は届称かいしょう眼音まおと分かたれてしまう。ノアに一撃を与えるも、代わりに優貴から一撃を食らう。


届称かいしょう VS 有象無象の罪人共 (眼音まおは出口へと向かっている)

 ノアにより、届称・眼音は和也と分かたれてしまう。届称は眼音を撤退させる時間をかせぐため、行き着いた先に居た罪人共に立ち向かう。


しょう VS サミュエル

 サミュエルの能力により、翔は能力空間に閉じ込められてしまう。サミュエルの能力により、翔は自殺寸前までに精神を追い詰められていた。


⑧バードルード VS のぞみ

 希の能力により、バードルードは能力空間に閉じ込められてしまう。死ぬことのない殺し合いの中で、希はバードルードの多重性格について分析していた。


聖華せいか VS アダム・フローリー・アタラ

 日本に攻め込んできた多くのRDBのうち、姿を消す能力者のアダム、()()で人を攻撃するフローリー、京之介(きょうのすけ)和葉かずはの武器を奪ったアタラの三名が聖華を攻撃する。  

 聖華が苦戦する中、かつての同僚であるあや白虎びゃっこが聖華の前に現れた。



 複雑化した戦況の中、誰がどのような勝利を掴むのか。

   **



 救いなんてねえスラム街。特にここは、路地の向こうから湧き出る光にたどり着けねえ虫が多くたかる。俺様はそこで暮らしていた。

 ここには秩序も法もねえ。ここで誰が何しても世間様は見ようともしねえ。だから、俺様は自由だ。鳥みてえにどこまでも飛んでいけそうだ。

 生きるために食料の奪い合いなんて当たり前。殺して臓器売買で儲けるやつなんざ山ほどいる。


 だけど、どんなに知恵があっても力で壊せばいい。ここでは強さが正義だ。生き抜くために必要なものなんて、強さ以外にねえ。



「くそ、逃げろ!」

「ははっ、弱ぇな! おら、次に殴られてえのは誰だ!」


 そん中でも俺様は最強だった。どこに行っても負ける気がしなかった。周りは俺様を恐れ、俺様は周りを見下した。

 恐れなんて微塵みじんも感じねえ。怖いとかいう感情はここで暮らしていくうちに消え去っていた。



   *



 そんな奴にも、大事だと思える存在が居た。



「ママ! このスープ、凄いおいしい!」

「ほんとう? 実はちょっと自信があったの」

「本当か? どれどれ──うん、おいしい。由香ゆかはたまに味覚が変になるからな」

「やめてよお父さん! むしろパパのほうが味覚酷い時あるよ! お酒のせいじゃないの?」


 壁の向こうで、家族の談笑する声が聞こえる。スラム街を出て少しした所にある一軒家の壁だ。

 そう、俺様にとっての大事な存在は、俺様を捨てた家族だ。


 ただ残念ながら、俺様にこの家族を許せるほどの器量はねえ。それでも俺がこいつらを大事に思うのは、壮大な嫌がらせみたいなもんだ。

 俺様がこいつらを大事だと思って生きていく限り、こいつらも俺様のことを忘れられなくなる。こんな幸せそうな家族の汚点を一つ作れるんだ、嬉しいに決まってるだろ。



  *



 物音がした。その音で俺様は目を開けた。そこには一瞬で目が覚めるほどの大勢が俺様を取り囲んでいた。



「……は?」

「目ぇ覚めたか? どうだ、散々お前がコケにして殴った奴らが一斉に襲うこの状況は」


 何人か顔は覚えてねえ奴もいたが、そいつらは確かに俺様が半殺しにしてきた奴らだ。その数はざっと二百人ほどいた。

 どいつもこいつも、顔が()()だ。二百人が一斉に俺様を殺そうとしている状況が目に浮かんだ。

 動けなかった。声にならなかった。まるで石になったみてえだ。心臓の音がうるさい。息が荒くなる。嫌な汗が出る。


 そうか、これが『怖い』なのか。



   *



 俺様は逃げた。路地の向こうから漏れる光へと。ただひたすらに死にたくなかった。

 路地を出た俺様の目の前には、成長しても雰囲気の変わらない妹、変わらない笑顔を浮かべる母、そして相変わらず似合わない眼鏡をかける父が手を繋いで歩いていた。



「た、助けてくれ!」


 とっさに出た言葉だった。助けの求め方を知らない俺様から出た言葉とは思えなかった。

 対して、そいつらはこう言った。



「えっと──()()()()()()()()()が、とりあえず警察を呼んだ方がいいですかね?」

「パパ、この人臭い……! きっとスラム街の人だよ、無視しよ?」

「こら、由香! 人様に対してなんてこと言うの! ……ふふっ、うちの子がごめんなさいね」


 ……ちょっと待て。こいつら、今なんて言った?

 『どなたか存じない』? 『この人』? 『人様』?


 こいつら、俺様を知らねえのか? 覚えてないのか?

 嘘だろ? 曲がりなりにも家族だぞ?


 周りを見ると、俺様に怪訝な視線を浴びせる者、嫌悪感を示す者が居た。

 そして、後ろからは俺様を追う声がする。どうやら俺様を見つけたようだ。あいつらが近づく度に体が過剰に反応する。


 ──待て。これが、今の俺様なのか? 血縁者から忘れられ、勝てない勝負から逃げ、地面に這いつくばって助けをう──こいつが、俺様?


 違う、きっと違う! 俺様がこんな、こんな、弱くて惨めで臆病で愚かな訳がねえ!

 そうだ、こいつは、俺様じゃねえ。俺様以外の()()なんだ、そうだろ? じゃねえと説明がつかねえ。


 俺様以外の、人格なんだ。



   *



「名前はまだ教えてもらってないから、『君』でいくよ? 君、言い暴れっぷりだったね」

「待てよ、これを、俺がやったのか?」


 意識がハッキリしてきた頃に、俺様はこの坊主と屋根の上に登って街の()()を見ていた。



「まさか、あれを無意識でやってたのかい? ああいや、君の無意識を否定するわけじゃないけどね?」

「何があった、教えろ」

「まず君が突然、目の前のガールに襲いかかって、周りに抑えられながらも殴殺。その後、君の血が飛び散ったところに『紋章』が浮かび上がったかと思うと、いきなり謎の崩壊が始まった。そして結果がご覧の通り、街なんてあったと思えない荒野になった」


 説明されてもなお分からなかった。



「なんとも素晴らしい戦闘スキルだね。僕の予想だと、まずガールを殺した後にその罪の意識から能力を獲得、即発動であの窮地を切り抜けた。その前までうずくまって助けを求めてた君とは思えない」

「……あのうずくまってた奴は、俺様じゃねえ」

「ほう? というと?」

「あいつは──俺様の別人格だ」


 そこだけは否定したかった。



「多重人格の方だったんだね。それじゃあ君は新しく生まれた人格なのかな?」

「っ……あ、ああそうだ。俺様が産まれたおかげであの窮地を切り抜けられたんだ。あいつには俺様に感謝してほしいもんだ」

「なるほど──そろそろ君の名前を聞きたいかな。僕はノア。ある団体のボスをしている」

「俺様は──バードルード、だ」


 俺様は自由だ。自由だから、誰に何してもいい。だから、無礼で自由な鳥っつう意味の名前にした。


 そいつに会った後、俺様は稼ぐためにそいつの団体──RDBに入ることにした。

 あの一件以来、俺様に新しい人格ができた。──違ぇ、あいつの人格から俺様が産まれた。

 とにかく、俺様は戦う時以外の時間はそいつに任せることにした。弱くて惨めで臆病で愚かな、そいつに。





 * * * *





「……嫌なこと思い出しちまった。気持ち悪くて吐きそうだ」

「どうじゃ、蘇った感覚は」


 のぞみはバードルードの前に立って手を差し伸べる。彼はそれを跳ね除けると、ゆっくりと立ち上がって希から距離を置く。



「なぁんも分かんなくなってきた。まず、俺様はババアと闘ってるんはなんでだ? てか、なんで勝手にレジスタンスに入っている?」

「ふむ、混乱しておるのか? ……そうか、この空間は互いの意識を反映する。故に、自分の存在すら曖昧にしておるお主が混乱するのも道理じゃな」

「あれ……そもそも、どっちがバードルード(おれさま)だ? 俺様はあいつを産み出して──違ぇ、まずそういうことにしてあるから、だから本来最初からあいつが俺の中にいて──待て、人格が中にいるっつうことは、俺様はあいつが生き抜くための演技の一部で──ってことはあいつが本当の人格で、だとしたらスラムを生き抜くために俺様が産まれて……? あれ?」

「どうした?」

「分からねえんだよ、俺様はどっちだ? 本当の人格なのか? それともあいつから産まれた人格なのか? なあ、助けてくれよ! このままだと、俺様が消えちまう……! ……あああっっ!!」


 バードルードは子どもの駄々のように地団駄を踏む。その後、しばらく棒立ちのまま無言になった。

 希が首を傾げながら彼を観察していると、突如彼は笑いだした。



「ぷはっ、あはははっ! やっぱ分かんねえわ! きははっ、分かんねえ時は『壊す』に限るよな! いひひ、()()()も、妹を殺した後も壊したくってたまんなくって、実際壊したら簡単に事が片付いてくれたなぁっ! きゃっはははっ!!」


 希は二歩ほど後ずさりする。本能的な『恐怖』を感じたのだ。



「お主……まさか、人格が()()──」

「ゆふふ、とりあえずここから出ねえとなあ……ま、壊せば何とかなるかあ」


 バードルードは自分の首に、予めポケットにしまっていたナイフを刺し込む。

 鮮血が辺りに飛び散る。



「がひひ、確かここって死なないんだよな? ふふっ、んで、ここはあんたの意識が反映してるってことだよな? じゃあ、その意識ごと壊してやるよ! ……俺みたいに!」

「待つのじゃ、それだとお主も現実に戻れば無事では──」

「うるさいうるさい! 俺は──」


 バードルードは有害な笑みを見せた。見るからに危険な笑みを。



「──もうとっくに、無事じゃねえよ。《発動》!」


 バードルードは『腹を抱えて』そう言う。その瞬間に、血が紋章が浮かび上がり、あたりの空間が揺れながら崩壊していく。

 希は胸に手を当てながらひざまずく。そして、疲れきった笑みを浮かべる。



「……見事、じゃ」



   *



 希は空間が壊れきる前に能力を解除した。しかしそれでも、意識がある程度壊されたため、無事という訳では無い。

 床で安らかに眠っているバードルードの頭をそっと撫でる。



「面白い奴じゃ。……さて、わっちは少し……休むとするかのう」


 希はそう言って近くの椅子に座って目を閉じた。

 ご愛読ありがとうございました。


 次回もよろしくお願い致します。

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