133話 増援
【戦況】
①美羽・シャイニ VS 狩魔
シャイニの能力により、狩魔の死亡という形で決着がついた。
②サーシャ VS ローラン・ジョニー
ジョニーの能力を使ったローランの策略により、サーシャは致死率100%の状況に追い込まれる。その中、ローランは命を助ける代わりに全てを話す取引を持ちかけた。そしてサーシャはその取引に乗ることにした。
③天舞音・芽衣・菫 VS ルドラ
三名はルドラの能力で表れた触手に苦戦。少しずつ着実に進むも、ルドラの元にたどり着けずにいた。
④椿 VS 頼渡
椿は窃盗罪で頼渡の能力を奪うことに成功した。しかし同時に、頼渡の能力で右手を壊してしまう。
⑤和也 VS ノア・優貴
ノアにより、和也は届称・眼音と分かたれてしまう。ノアに一撃を与えるも、代わりに優貴から一撃を食らう。
⑥届称 VS 有象無象の罪人共 (眼音は出口へと向かっている)
ノアにより、届称・眼音は和也と分かたれてしまう。届称は眼音を撤退させる時間をかせぐため、行き着いた先に居た罪人共に立ち向かう。
⑦翔 VS サミュエル
サミュエルの能力により、翔は能力空間に閉じ込められてしまう。サミュエルの能力により、翔は自殺寸前までに精神を追い詰められていた。
⑧バードルード VS 希
希の能力により、バードルードは能力空間に閉じ込められてしまう。死ぬことのない殺し合いの中で、希はバードルードの多重性格について分析していた。
⑨聖華 VS アダム・フローリー・アタラ
日本に攻め込んできた多くのRDBのうち三名が、聖華に攻撃する。姿を消す能力者のアダム、ドジで人を攻撃するフローリー、京之介と和葉の武器を奪ったアタラに対し、聖華は闘争心を燃やしていた。
複雑化した戦況の中、誰がどのような勝利を掴むのか。
親しい人を殺す感覚、美羽は何となくそれを理解できた。涙が涸れてもなお泣くシャイニの横にしゃがむ。
「……美羽ちゃん、私、何か間違ってたのかな?」
シャイニは生気のこもってない声で話す。気持ちの整理はしきれてない割に、しっかりと話せる状態であるようだ。
彼女はさらに話す。
「お姉ちゃんは、私のことどうでもいいのかなって思ってた。あの日から変わっちゃって、他の人を平気で傷つけるようになった。お姉ちゃんから離れたのも怒ったからじゃない、ただ……怖かった。いつか私も傷つけられるんじゃないかって。……今、気づいたよ。直接向き合おうとしない私も最低だったんだね」
美羽に話しかけたのにも関わらず、独白のようにぽつぽつ話している。
他人の家族事情に首を突っ込まないべきだ──そう考える前に口が動いていた。
「多分、かる──お姉さんは、始めからシャイニちゃんのことすごく大事に思ってたんだと思う」
「えっ?」
「お姉さん、能力を発動する時にサイコロを投げてたでしょ? でもサイコロじゃなくても、他の物でも良かったんだと思う」
届称の能力で閉じ込めたはずの狩魔が外に出れたのも、発動条件が『物を落とすこと』だったからだろう。そのため、サイコロが無くとも出られたのだ。
「サイコロだった理由は……上手く言えないけど、シャイニちゃんとお揃いにしたかったんじゃないかな? 一つでも繋がりがあるようにしたくてさ」
「私への嫌がらせかもしれないじゃん。……って、こんなこと言うのも意地悪だけどね」
「それは──」
美羽は言い淀む。どのように声をかけるべきなのだろうか。
そんなことを考えてる間に、シャイニはすくっと立ち上がる。
「……でも、ありがとう。これが私とお姉ちゃんの運命なら、頑張って受け入れるよ」
目元を赤く腫らして、シャイニは笑った。悲しさと諦めが混じった、そんな笑顔だった。
彼女に対して何もしてあげれない悔しさから、美羽は口を真一文字に結んだ。
*
聖華は右足を踏み鳴らす。
「《発動》! 【激昂・掌底】!」
「うわっ!」
まずは拳銃を持つアタラを障壁で吹き飛ばす。
「京之介、和葉! こっちは何とかする! だから今は逃げてくれ!」
「っ……すまん」
和葉は悔しそうにそう言うと、顎を抑える京之介とその場を去った。
「隙が丸見え! 切ってあげようか? 切ってあげようね!」
「っ……!」
突然アダムは聖華の前に現れてナイフを振る。頬から血が流れる。
「三対一で大丈夫? 手加減してあげよっか? してあげようね!」
「いや、平気さ。こちとら戦闘員の端くれなもんでね。素人達に苦戦するほどやわな鍛え方してないんだ」
そう、この三人は戦闘慣れしていない。強いのは能力だけで、体術は聖華以下だ。
しかしRDBは、なぜこの三人を日本に送り出したのだろう。狙いが全く見えない。
「ま、待ってください! 私は戦おうだなんて──」
「あんた、本当に戦いを止めたいならそこに居な。邪魔しないでくれ」
聖華の冷たい怒りを察知したのか、フローリーはそれ以上何も言わなくなった。
アダムは青い顔をしたフローリーの肩をぽんと叩く。
「フローリー、あの人は君を騙そうとしてるんだよ。戦いを止めたいなら君も協力してあの人を抑えてよ。落ち着いたあと、話し合いで戦いを終わらせよう」
「アダム、でも……」
聖華はこれで確信した。アダムとアタラはフローリーを騙して利用していることを。
それにしても、ここまで来るとフローリーすら怪しく見えてくる。この場面では明らかにRDBが『悪』だ。しかし、フローリーはまだ迷っている。まるで『判断力』が欠如しているみたいな──
「……そういうことか。あんたら最低だね」
「あ? 何に気がついたんだよ、おばさん」
戦線に復帰したアタラが頭を掻きながら聞く。
「あのフローリーって子に、無理やり能力をずっと発動させてるね? 能力の欠点は『判断力の低下』ってとこかい?」
「おお、よく気づいたなおばさん」
随分とあっさり肯定してくれるもんだ、そう聖華は拍子抜けした。
「だからあんなに自分で決める意思がない……周り見ずの人形になったのかい」
「わ、私は人形じゃないですよ! ほら、ちゃんと動いてますもん!」
フローリーはそう言って、その場で一回転してみせた。相変わらず、戦場に似つかわしくない態度だ。
人の話を聞かず、良かれと思って自発的な行動をする。彼女はそうやって何人傷つけてきたのだろう。
アタラはフローリーの背中をトンと押す。
「ほら、あの人に誤解を解いてこい」
「はいっ!」
フローリーはそう言って聖華に駆け寄っていく。聖華はその進行を止めるため、縦方向に障壁を展開する。
「そうだ! さっきおばさんに吹き飛ばされた時、いいもん拾ったんだ」
アタラはそう言って、腰元から拳銃を抜き出す。遠くからであまり見えないが、あれは確か──
「デザートイーグル、しかも威力の高い50AEだ! そのバリアは何発耐えられる?」
アタラはそう言って障壁を撃つ。わずか三発で障壁は崩れ去った。
聖華はそれを見越して、さらにもう一枚展開する。
「まだまだぁ! ……って、なんだよ。たった四発しか入ってなかったのか。まあでも一発でヒビは入ってんな。なら──」
「──おいおい嘘だろ?」
ヒビが入っていたとはいえ、フローリーの突進だけで障壁は壊れた。白虎の『傷害罪』──いや、それ以上の……。
「何かぶつかった気が……とにかく、あの人に体を触ってもらわなければ」
「判断力の低下って恐ろしいねえ……」
後ろは壁、横に逃げようにも消耗戦で恐らくフローリーに負ける。障壁は速攻で破壊される。いずれにしてもフローリーに捕まる運命のようだ。
「さて、どうしたもんかねえ……」
聖華が頭を悩ませたその時──
「……おい、アダム!?」
「ん? あれ、これって誰の血?」
アダムはそう言って首を傾げた。
遠くからの銃声と共に、アダムの体から多量の血が溢れている。それを見たフローリーの体が、くるりとアダムの方に方向転換した。
「大丈夫ですか!?」
心配した声色で彼に近づく。
「──急所は撃てなかったのかい?」
「あくまで分身がやったことだ。苦情はそいつに言え」
聖華は誰がやったかを瞬時に察知した。それと同時に文句紛いの言葉を彼女にぶつける。
「……助かったよ、彩」
「礼は言葉じゃなく行動で示してもらおうか、聖華」
そこには、かつての同僚である朱雀──改め、彩の姿があった。
「それに、ここに来たのは私だけじゃない」
「ん?」
「なあ、これが退院祝いかぁ? ははっ、随分と俺にピッタリじゃねえか!」
「がっ……!」
声の主は、アダムに緊急処置をしようとしたアタラに横蹴りを食らわせた。
「さて、しっかりと暴れてやるよ。報酬はてめえらの悲鳴だ」
聖華のもう一人の同僚、白虎の姿がそこにあった。
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