130話 真実、そして痛み
毎話の始めに戦況を紹介することにします。
【戦況】
①美羽・シャイニ VS 狩魔
シャイニと美羽の能力により狩魔は負傷。なお、シャイニは自らの能力で出した枷に繋がれて身動きがとれない。
②サーシャ VS ローラン・ジョニー
ジョニーの能力を使ったローランの策略により、サーシャは致死率100%の状況に追い込まれる。
③天舞音・芽衣・菫 VS ルドラ
三名はルドラの能力で表れた触手に苦戦。少しずつ着実に進むも、ルドラの元にたどり着けずにいた。
④椿 VS 頼渡
不明
⑤和也 VS ノア・優貴
ノアにより、和也は届称・眼音と分かたれてしまう。ノアに一撃を与えるも、代わりに優貴から一撃を食らう。
⑥届称 VS 有象無象の罪人共 (眼音は出口へと向かっている)
ノアにより、届称・眼音は和也と分かたれてしまう。届称は眼音を撤退させる時間をかせぐため、行き着いた先に居た罪人共に立ち向かう。
⑦翔 VS サミュエル
サミュエルの能力により、翔は能力空間に閉じ込められてしまう。サミュエルの能力により、翔は自殺寸前までに精神を追い詰められていた。
⑧バードルード VS 希
希の能力により、バードルードは能力空間に閉じ込められてしまう。死ぬことのない殺し合いの中で、希はバードルードの多重性格について分析していた。
⑨聖華 VS アダム・フローリー・アタラ
日本に攻め込んできた多くのRDBのうち三名が、聖華に攻撃する。姿を消す能力者のアダム、ドジで人を攻撃するフローリー、京之介と和葉の武器を奪ったアタラに対し、聖華は闘争心を燃やしていた。
複雑化した戦況の中、誰がどのような勝利を掴むのか。
サーシャはローランの言葉に戸惑っていた。
ローランが突然言い放った『生かしてやる』という台詞に、サーシャは驚きつつも明らかに怪訝そうな顔をした。
ただ、戸惑っていたのはサーシャだけではなかった。
「ワァッツ!? ローラン、ユーは何をセイしてる!? こんなインポスターはさっさとキル!」
「クハハ、まあ待てジョニー。当然タダで生かしはしねえよ、取引をするだけだ」
「取引ねえ……明らかに怪しいけど?」
ローランは椅子から立ち上がる。そして、窓ガラス越しにサーシャを見下ろした。まるでモルモットを眺める実験者だ。
「お前は周りの罪人とは明らかに違う。何かを知っている。そうだろ?」
「……その何かを話したら、生かしてくれると? 君がその取引を守る可能性は?」
「クハハ、その可能性を検討する余地もねえ。お前にとっちゃ、やるだけタダの取引だ。はぐらかしながら話して死ぬか、話さずして死ぬか、真実を全て話して生きるか、選べ」
サーシャはこの取引の悪意を理解した。
(あっちはボクを殺すスイッチを持っている。まず取引を受けない時点で殺される。取引を受けても生かされるかどうか分からない。だけど生きる可能性が高いのは、明らかに取引を受ける方。だから、受けるだけタダの取引ってことか)
彼女はため息を一つつく。その行為で心が休まるわけもない。ただの暇つぶしだ。
「いいよ、話してあげるよ。嘘偽りない真実を」
サーシャは無法騒動、発言禁止の制約、七人の学者についてを全て話すことにした。
* * * *
「はは、逃げてばっかりだね♪ ほら、もっと戦おうよ!」
「っ……!」
頼渡は椿に対しても、容赦なく『公務執行妨害罪』の洗礼を浴びせる。
足で地面を思い切り踏み、出てきた破片を加速して椿に蹴り飛ばしていた。威力は銃に劣るものの、一つでも直接当たれば内出血は免れない。
埒が明かないと判断した椿は、口で手袋を脱ぎ捨て、髪の束を握りしめる。
「っ……《発動》! ぐっ……あ」
一度に多量の情報が頭に流れる。地面が回るような立ちくらみに耐えきれず、その場に座り込む。
本当はこの隙を生じさせないため、彼は発動をためらっていたのだ。
「何その能力、面白いね♪」
当然、頼渡はその隙を逃さずに攻撃をする。
頼渡が飛ばした破片は、椿の頭や顔、胴体を無慈悲に襲った。
「がぁっ! くっ……!」
「あれ、まだ立てるの? 僕もう何個当たったか数えてないけど、結構痛手だった気がするけど……」
「……俺を、痛みだけで止められると思うな! いくぞ、頼渡!」
「あれ、なんで──」
頼渡が言い終わる前に、椿は片目を右手で隠した。
「《発動》! 二分の間、能力を発動するな!」
「っ!?」
椿の命令で、全員の能力が発動できなく──
「……普通に能力を発動できるけど? 何のハッタリ?」
「『命令罪』が、発動できない……!? どうして」
椿の能力で発動できない理由は一つある。それは、コピーする元の能力者の死亡だ。
「翔、くん? いや、彼がこんな短時間でやられるはずない……。き、きっと、敵の能力のせいか」
そういう椿の言葉は震えていた。
余計な思考は、今だけは振り払うことにした。今は何かしら行動しなければいけない。
(ダメだ、戦いに集中しろ! 考える前に行動しろ!)
椿は足に右手を触れる。
「《発動》!」
「なに?」
そう言った後、椿は頼渡に向かって走り出す。頼渡は何か察知し、破片をいくつも飛ばす。
椿はそんな破片の横雨の中でも、必死に前へ前へと進む。
「っ! この!」
頼渡は焦ったように、更に数を増やして破片を飛ばす。中には、もはや瓦礫のような大きさのものまである。
和也の『暴行罪』が適用されてる中でも、瓦礫が体に当たった衝撃で、椿の体からミシッと音がする。それでも、前に進み続けた。
「だったら……こうだ!」
頼渡は床に手を触れる。それにも能力が適用され、椿の次に踏み出した一歩は床に大きく弾かれてしまう。
しかし、椿はとっさにその場で跳び上がり、あえて体を床に弾かせた。
とてつもない速さで空中に浮き上がった体を縦に半回転させる。そして天井に足をつき、深呼吸しながら頼渡に向かって全身を飛ばす。
「《発動》!」
「なんで倒れないの!? 早く倒れろよ! そういう能力なの!?」
「いった……だろ? 俺を、痛みだけで、止められると思うなぁ!」
椿は『暴行罪』を解除する代わりに、天舞音の『窃盗罪』を発動した。
頼渡の体に右手が当たった瞬間、反作用を十倍にされたため右手から聞いたことも無い音とともに、鋭い痛みが襲った。
だが、窃盗罪の能力の条件は確かに成立した。その結果──
「あれ、僕の能力が発動しない! お前、何をした!」
「ぐあぁぁぁっ!」
頼渡の能力は椿に奪われ、椿はもう使い物にならない右手から溢れる痛みに悶えていた。
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