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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
10章 彼らが真実を知ってから全てを終わらせる終焉譚
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129話 救いようのない者に救いを

 翔はサミュエルの能力に取り込まれていた。

 * * * *





 しょうは改めてこの空間を見渡す。ここはサミュエルの作り出した空間。なにかされる前に一刻も早く脱出しなければいけない。



「質問する。ここに出口はないの?」

「貴方の後ろの扉です。そこから元の空間へと戻れるでしょう」


 サミュエルはそう言うと翔の奥を指さす。そこには確かに木製の扉があった。

 ただ、彼が嘘をついている可能性もある。翔は片目を手で隠す。



「《発動》! 全員、能力を口頭で開示しろ! ……話す。僕の能力は『強要罪きょうようざい』。命令を最後まで聞いた者に対し、強制的にその命令に従わせる能力。同義や近しい命令を含め、命令は一日に一回のみ。また、対象者ごとに違う意味で命令を捉えた場合、即座に無効化される」

「っ……私の能力は『自殺教唆罪じさつきょうさざい』。擬似空間に対象を招き、精神的負荷をかける能力です。なお、扉から脱出可能です」


 彼の命令に従う二人は、ほぼ同時に能力の詳細を話し始めた。

 翔は自分の能力を話しながらも、彼の能力を一言一句聞き逃さなかった。



(不意打ちの命令は『能力を解除しろ』でも良かったけれど、すぐに発動されると意味ない。やっぱり、彼の能力を聞いて正解だった)

「安心した。嘘では無かったんだね、本当にあの扉から出られるんだ」

「……なるほど、それが貴方の能力ですか。では、次は私からお話させて頂きます」


 サミュエルはそう言うと、翔の方を見る。なぜか翔は、彼を無視できなかった。



「貴方は、今までもそのように様々な者に命令をしたのですか?」

「っ……そう、だけど」

「命令された者の心を考えなかったのですか? その者は可哀想だと思わなかったのですか? やりたくないことを強制的にやらされた、その者はどうでもよいのですか?」

「っ……そんなこと──」

「命令された者は所詮しょせん、取るに足らない命だったと?」

「反論する。どうして命の話になってるの? そもそも命令した人は──」

(待て、なんで僕はこんな反論を? とにかく、話に乗ってはだめだ)


 翔は取り乱している心を落ち着かせようとした。だが、未だに心臓の奥が苦しい。なぜか、苦しい。



「命令した人は……? その先を尋ねても良いですか? 貴方にとって不都合だった者? それとも気遣わなくてもよい者?」


 彼の質問責めに、翔は何一つ答えようとしなかった。サミュエルは二歩三歩と翔に近づく。



「ならば話を変えましょう。貴方は警察庁長官である菊村きくむら(しげる)の孫にあたる人物であるとお聞きしました。しかし、RDBの調査によるとどうやら血は繋がっていないご様子ですね。それは一体どういうことなのでしょう?」

「っ……もう、分かってるんだろう?」


 サミュエルは実にニヒルな笑みを浮かべる。



「貴方が命令したのですね。長官の孫という設定は、貴方にとってさぞ好都合でしょう。ですが、随分と酷い話ですね。貴方は自分の都合のためだけに、彼に嘘をつかせたのです」

「っ……僕も、長官には悪いと思ってるよ。でもその嘘がバレても、彼の人生を脅かすこともない。だから──」

「だから自分には大した責任はない……と。しかし、それはあまりに傲慢です」


 サミュエルは人差し指を立てる。翔にもよく見えるように。



「では、もし自分の能力で誰かが大きな不幸に見舞われたら、それは自分の責任だと思いますか?」

「っ……僕に、そんなことはないよ」

「しかし残念ながら、『そんなこと』はありますよね? と言っても、のぞみ様からお聞きした話ですがね」


 希の名前が挙がった瞬間、翔は顔を急激に青ざめさせた。



「なんでも貴方は、『アリス』というお名前の少女の人生を破滅させたらしいですが……?」

「……どこまで、知ってる?」

「先程も申しましたが、あくまでも又聞きですので知識はそれほど。ですが、貴方の懺悔すべき罪は承知しています」


 翔の息が荒くなる。心臓が潰れてしまいそうなほど苦しい。黒色に焼き付けた記憶が、鮮明によみがえる。



「ある日、貴方はその少女に能力で命令しました。その結果、彼女は視力を失い、まともな生活ができなくなってしまいました。その後、少女は耐えきれなくなり、自ら命を絶ちました。……これでも、『大した責任はない』とまだ言えますか?」

「……や、めろ」

「しかも貴方は、少女が視力を失うことを分かっていて命令した。お間違いないですね? 貴方は自らの都合ためだけに、一人の罪もない少女を殺したのです……! その子を愛していた者らの希望を、その子が望んでいた人生を、貴方という悪魔が消し去ったのです!」

「やめろっ!」


 教会中に響き渡る。その叫びは沈黙を連れて来た。

 しかし、サミュエルは沈黙を味わうことなく飲み干した。



「ここで一つ、貴方の最後の希望を打ち砕きましょう。貴方も知らない事実です」

「な、に……?」

「貴方もご存知だと思いますが、その少女は貴方に頼んで命令させました。……しかし少女は、視力を失うことを本当に望んでいたわけではないのです」


 翔は目を見開く。それと同時に、彼の瞳孔どうこうが震えた。



「少女はある者に家族を、友人を拉致らちされていました。その者は貴方の命令を聞くように少女を脅しました。そして、貴方に『命令して』と頼むに至ったのです」

「……ある、者?」

「希様です。どうやら彼女はどうしても貴方に命令して欲しかったようです。『自分達が存続しなければこの世界は救われない』と」

「嘘、だ……!」

「嘘と思いたいからその言葉をおっしゃっているのですね。ですが、真実です。だから申したのです、最後の希望を打ち砕くと」


 翔はその場で崩れ落ちた。涙も出ないほどの絶望が彼の体内を食い漁った。

 サミュエルは翔に近づき、一丁の拳銃を床に置いた。



「ですが私や主は、救いようのない貴方を救います。()()が、貴方の救いです。もし貴方が、少女と同じ様に自ら命を絶つとしましょう。その時、主だけでなく全ての者も貴方を許して下さる。その少女もきっと、貴方を許してくれるでしょう」


 翔はもはや、まともな判断ができずにいた。右手に握られた拳銃がその証拠だ。

 いつの間にか、サミュエルの能力に汚染されきっていたのだ。



「謝る。ごめん、アリス……。どうか、許してくれ……」


 銃口は、彼の頭に向けられた。

 ご愛読ありがとうございました。


 次回も宜しくお願い致します。

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