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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
10章 彼らが真実を知ってから全てを終わらせる終焉譚
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128話 無視して全力で

 和也、届称、眼音はノアの居るだろう部屋の扉を開く。

 予想より重い扉を開ける。向こうには、人間が余裕で入れそうなほど大きいカプセルが数個ある。

 それは正しく、以前に和也かずやが洗脳されたカプセルだった。



「……アレにはい思い出無いな」

「そんな嫌な顔をしないでくれ、和也。ああいや、君が忘れてるだけならいいんだ」


 声の主はカプセルの裏から現れた。こちら側からだと隠れて見えなかったようだ。

 届称かいしょう眼音まおの言う通り、そこには()が居た。



「いつか、こうなると思ってた。君もそうだろう? ノア」

「少し違うよ、届称。僕はこうなると()()()()()()。悲しいけれどね」


 和也の目には、二人とも強がっているように見えた。色んな感情があるものの、それを隠すように笑っているように。

 その中、眼音まおはやるせない顔をしていた。



「私は……本当は誰とも戦いたくありません。それだけは、言っておきますね」

「誰とも戦いたくないの? じゃあどうしてここに来たのかな?」

「誰とも戦いたくないからです」


 ノアは首を傾げる。



「分からないな、君の言うことは」

「私はこの戦いをめたい、ただそれだけです」


 彼は皮肉を込めた笑みを浮かべた。



「残念ながら、どう転んでも止まらないよ。どっちかが倒れない限りね」


 届称は舌を鳴らす。彼の敵意に気がついたのだ。



「《発動》」

「おや」


 届称の展開した壁を、床から生えた金属の手が握っていた。壁が少しでも遅れていたら、それで終わりだったろう。

 壁は筒状に展開されている。上も下も閉じられているようだ。



「これがノアの能力、『外患罪がいかんざい』だ。あらゆる無生物を自由に変形、操作できる。かなり厄介な能力だ」

「会った時は戦いたくないって言ったけど……いいよ、戦ってあげようか」


 ノアはまだ笑っている。彼のその笑顔を見て、和也はどこか怒りを感じていた。

 もしRDBが無かったら、皆は、優貴ゆうきは苦しまなくて良かったのではないかと。


 壁から出ようとする和也の肩を、届称は強く掴む。



「ここから出れば死ぬぞ」

「じゃあどうすればいいんだよ。このまま待ち続けるのか?」

「この日のために、こんなプログラムを用意したんだ。展開するぞ」


 届称の言葉と共に、壁内の空間が一気に広がる。それによって、ノアは届称のと部屋の壁に挟まれた。

 ノアはとっさに部屋の壁を変形し、彼が通れる穴を作り出すことで圧死を防いだ。



「このプログラムは壁や内部の空間に対する、能力とそれに影響する物体を無効化する。また人は内部に侵入できず、任意のタイミングで膨張する」

「あー、何言ってんのか分からないけど、分かった!」


 和也は届称の説明を半ば無視する。今はただノアがどうなったのか気になっているようだ。

 穴から姿を覗かせて、ノアは嬉しそうに言う。



「さすがは届称、僕の能力を完全攻略してるじゃないか。だけど、こうなったらどうするんだろうね」


 ノアは腰から拳銃を取り出した。



「物体は貫通するんでしょ? 例えば銃弾とかね」

「対策してるに決まってるだろう。膨張後は物体も侵入できないようになってる」

「へえ。だったらこれはどうかな?」


 ノアは届称達の上部に狙いを定めた。



「物体は侵入できないけど……元からあるものはどうだろうね」

「なに……?」

「和也も能力を発動できないでしょ? ねえ、その壁の中にいたら誰が皆を庇うのかな?」


 彼はそう言って引き金を引く。その銃弾は針状に変形し、天井に突き刺さった。エネルギーを一点に受けた天井は、ひび割れて崩壊した。

 瓦礫がれきの雨は、壁の内部にも降り注いだ。



「っ……!」


 届称は壁を解除する。とっさに準備をしていた和也は、「《発動》」と能力を発動する。



「【五蕾ごらい災雨さいう】!」


 足を上向きにすると、瓦礫を一つひとつ的確に蹴り飛ばしていく。

 しかし、全てはさばききれなかった。いくつかのものは届称や眼音に直撃した。

 その二人は動けるものの、大きな傷を負った。



「じゃあね、皆」


 床に大きな穴が開く。ノアは三人を下の階に落とすつもりなのだ。



「っ……ノアぁ!」


 届称の叫びは下へと吸い込まれていった。

 ノアは穴へ近づいていき、覗きこもうとした。瞬間、ノアにとって予想外の攻撃が急襲した。



「俺は……落ちてねえぞ!」

「うっ!」


 和也の蹴りはノアの腹に直撃した。『暴行罪』の影響もあり、彼は大きく吹き飛んでいった。

 穴が開いた直後、和也は端にしがみついていたのだ。



「まだいくぞ!」


 和也は大きく跳び、ノアの胸を狙った一撃を食らわせようとした。



「がっ……!」


 次は和也の体が大きく弾かれた。強い打撃を受けた和也の脇腹は悲鳴を上げていた。

 これはノアの能力ではないことを瞬時に理解した。この打撃が誰のものかも、理解した。



「っ……覚悟は、できてるんだよな。優貴」

「できてなかったら、今頃ここには居ない」


 優貴にならって、和也も体勢を整える。



「今度こそ、聞かせてもらうぞ」

「……ああ」


 拳に汗が染みる。心臓が怖いくらい動いている。

 知っている、お互い様だ。



「【五蕾ごらい厄燕やくつばめ】!」

「【堕罪の反抗(ドロップ・レジスト)】……!」


 風のような出来事だ。和也の脚と優貴の拳がぶつかる。



「くそっ……!」


 力負けした和也の脚が弾かれた。隙を逃さない優貴は脚を振り上げる。

 その脚は和也の顎に直撃し、彼の体は後ろにる。



「悪いが、負けられないんだ」


 優貴の言葉を聞きながら、和也は再び体勢を整えた。



   *



「……ここ、は」


 届称と眼音は穴から落ちた後、辺りを見渡した。そこはやけに広い空間だった。

 先程の部屋の真下はこの部屋ではなかった。建物の構造を把握している二人は、そのことを知っている。



「ノアに誘導されたか。……いざとなれば私たちを殺せたはずだ。そんなチャンスがあってなお、まだ戦う気が無いのか、ノア」

「……ねえ、あなた。本当に、本当に私たちは戦わなくてはいけないの? 確かに彼らRDBは命を奪いすぎた。だけど、善悪を維持することも必要なことじゃ……」

「眼音、君はその場に居なかった。だけど、これはノアとの約束なんだ。だから私も、リアムもサーシャも、ノアに対抗するんだ」



『僕はこれから作戦を実行するつもりだ。だけど、もし──』

『──もし僕がやりすぎてしまったら、僕の言う事を無視して全力で止めてくれ』


 届称がそんなことを考えていると、壁だと思われた箇所が扉のように縦に開く。

 そこには、無数の罪人が居た。恐らく、RDBの下っ端だろう。



「眼音、君は先に行ってくれ。私は、彼らを食い止めよう」


 眼音は何か言いかけたが、口を閉ざして出口に向かっていった。

 ご愛読ありがとうございました。


 次回も宜しくお願いします。

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