表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
10章 彼らが真実を知ってから全てを終わらせる終焉譚
127/174

127話 着火

 聖華は外に出た。

 罪人取締所の外は騒然としていた。派手な祭りが開催されているように。



「おお、聖華せいかか!」

京之介(きょうのすけ)じゃないか。それに和葉かずはも……一体どうしたんだい?」

「緊急事態だ、RDBが日本に攻めてきた、君も対応してくれ!」


 和葉はいつも以上に早口で聖華に言った。



「なるほどねえ。ま、おかげで退屈はしないさ」

「それじゃ退屈なあの世まで行こっか? 行こうね!」


 聖華はとっさに後ろに跳ぶ。首に鋭痛が走る。

 首元を手のひらで押さえつつ着地する。聖華を切った男の手には、刃が赤く染まったナイフが握られていた。



「っ……」

「今の回避できるなんて、やっぱり日本ってすごい! ねえねえ、オレと闘おっか? 闘おうね!」


 聖華はその男を見る。見た目は高校の制服を着ている、至って普通の高校生だった。その邪悪な笑顔を除けば、だが。

 聖華は首から手を離す。鮮血が手にこびりついている。



「回避が間に合わなかったら……とは考えたくないねえ」

「悪ぃ、ちと痛がってくれ」


 銃声が二回。それは聖華の後ろで聞こえた。

 弾は彼の両脚を貫いた。



「おっとっと! 日本でも法を破って銃は使っていいの?」

「悪いが、正義の心なんざ、椿つばきを救えなかったあの日に落として来た。だが……この場で銃を引けねえ奴は、もはや正義すら語れねえ」

「俺たちは法すら牙を向けてやろう、もう二度と何も失わないように」


 男は応急処置で止血をしながら話を聞いていた。



「法を守らない警察って面白いね! ねえ、オレの仲間にならない? なろうか!」

「あんた、どういう能力だい? 両脚を銃で撃たれてんのに、何で立ててるんだい?」

「ああ、オレは無痛病なんだ。痛いって思えないから立ててるんだよ!」


 聖華は神経切断などといった話は置いておいた。生産性の無い話だ。



「ねえ、痛みって何? 何をもって痛みとしてるの? 教えてくれない? 教えようね!」


 瞬間、彼の姿が消えた。聖華は考えを巡らせながら右足で地面を踏む。



りんみたいな能力か……でも、姿を消したまま攻撃はできないみたいだねえ)

「《発動》! 【激昂げっこう掌底しょうてい】!」


 障壁バリアは前方へ一直線に伸びていく。短い声とともに、塀と障壁に挟まる彼の姿が見えた。

 京之介と和葉は、彼の頭に狙いを定める。



「まずいまずい! 死んじゃうね!」


 彼は笑いながら冷静に言う。直後──



「残念だったな、おっさんども!」


 低い女性の声と共に、二人の手から銃が消えた。塀の入口から入ってきたのは、パンクな格好と人形のようなドレスを着ている女性二人だった。



「にしてもアダム、お前先走りすぎだっての。お前だって不死身ってわけじゃねえんだから」

「まあまあ、喧嘩しないでよ。ほら、お手製のぬいぐるみあげるから」


 ドレスの娘はそういって、ポーチの中から小さな熊のぬいぐるみを手渡す。

 その娘は、京之介と和葉のほうに駆けていく。そして、純粋無垢な笑顔でこう言う。



「あなたがたもどうぞ。ちゃんと、みんな平等です」

「悪いが、そういうのは趣味じゃないんでね」


 一瞬戸惑った京之介はそう言って、彼女の首に手刀しようと振りかぶる。

 するとその時、彼女の額に雨粒が一滴当たる。



「きゃっ!」


 彼女は驚いてその場にしゃがみ込む。奇跡的に、彼の手刀をかわした。

 直後、辺りに強い雨が降る。



「そうだ! 皆さん傘は──ぎゃっ!」

「がっ……!」


 彼女は心配そうな表情で立ち上がる。その彼女の頭が、京之介の顎を砕いた。

 彼女はより一層心配そうな顔をする。



「ご、ごめんなさい! 私ドジで……いま急いで手当てを──」

「必要ねえよ、フローリー。死にはしねえさ」

「アタラ、でも──」

「それより、アダムを助けにいこうぜ。ほら、争いを止めるために」


 明後日の方向を見る『アタラ』と呼ばれたパンク風な彼女の言葉に、『フローリー』と呼ばれたドレスの娘はひとつ頷く。



「あ、あの……アダムが怪我をさせてしまったことは謝ります。なので、アダムを離して頂けませんか? 私たちの、大事な仲間なのです」

「……あんたら、RDBなんだよな?」

「はい、私はRDBのフローレンス。気軽にフローリーで構いません」


 聖華は、フローリーをつくづく変な奴だと思った。全くもって敵意のない立ち振る舞いが、むしろ怖かった。



「と、とにかく手当てさせてください! 首の出血は危険ですから!」


 フローリーは、包帯を前面に突き出しながら走ってきた。聖華は警戒して、右足を踏み鳴らす。

 『《発動》』と言って、フローリーの進行方向に障壁を設置した。


 すると、アタラは二本の銃を構えて障壁めがけて発砲した。フローリーを防ぐことができないまま、それは破壊された。



「おいおい、ちゃんと手当てはしてもらったほうがいいぜ?」

「アタラの言う通りですよ! 少し乱暴ですが、手当てを──きゃっ!」


 先程の通り雨で濡れた地面に足を取られ、フローリーは聖華の眼前で転んでしまった。

 聖華の首にあてがわれた包帯は、未だフローリーが持っていた。



「ぐあっ!」


 聖華は包帯に引っ張られ、後ろへ体勢を崩す。そして後頭部を壁に激突させた。

 意識が飛びそうになるのを必死にこらえた。



「わ、私また……! ごめんなさい! そこも手当てするのでそのまま居てください──あれ、上手く起き上がれない……?」


 包帯に力がこもる。呼吸が上手くできない。

 それでも右足を地面に打ちつける。



「っ……! は、《発動》!」

「きゃっ!」


 障壁で彼女の体を吹き飛ばす。彼女は宙を舞ったあと、地面に背中をつける。



「けほ、こほっ……危ないねえ。ドジなんてレベルじゃないよ」

「ホント、フローリーはドジだなあ」

「ご、ごめんなさい……」


 気がついたら『アダム』と呼ばれた男の拘束が解かれていた。聖華はそこまで意識を向かせることができなかったのだ。



「和葉、京之介は大丈夫かい?」

「俺は何とも言えない、しかし状況的には退いた方が良さそうだ、銃もあの女に奪われた」

「奪われた……? あいつの握ってる銃って──」

「当たりだ、あたしがおっさん共の銃を奪ったんだよ」


 アタラは慣れた手つきで二丁の銃を操る。



「にしても、日本の警察は随分と使いにくい銃を持ってるんだな」

「それに、そっちは大丈夫? あの人達居なくなったら三対一だけど」

「アダム! 私は戦うつもりないよ!」


 聖華は口角を上げる。



「余裕だねえ。むしろ、まだハンデが足りないならもっと足してやれるよ?」


 聖華の闘争心には、もうとっくに火がついていた。

 ご愛読ありがとうございました。


 次回も宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ