126話 空間の分離
本日は短めとなります。
翔とバードルードは、希とサミュエルに出会う。
* * * *
サミュエルは翔とバードルードに優しく微笑みかけた。
「貴方がたには、懺悔すべきことがありますか?」
「答える。無いって言ったら?」
「そう仰ると、貴方は嘘をついたことになる。人間は誰しも、悪事無しで生きてゆくことはできないのです」
翔は怪訝な表情を向ける。
「理解できない。じゃあどうして、懺悔があるか聞いたの?」
翔は無駄話で時間を稼ぐことで、脳内で最適な策を練っていた。どのように命令すれば良いのかを。
「私が聞きたかったのは、懺悔の『存在』ではなく『程度』です。貴方の罪の重さによっては、神罰を下さなければなりません」
「これこれサミュエルよ、お主は神父じゃぞ? 神気取りはよせ」
「──そうでした。私としたことが、神罰を下せる立場にあると妄言を」
サミュエルは咳払いを一つする。その瞬間──
「……ここ、は?」
「神罰をくださるのは、あくまでも我が主。故に、主様にお見せしましょう。彼の者の罪を」
サミュエルの背後には、一年はもちそうなほど大きい蝋燭と、圧倒的な存在感を放つ祭壇がある。そして両隣には、木製の長椅子が列になって並んでいる。
翔は、なぜ自分が『教会』に連れてこられたのか理解できなかった。恐らく、これがサミュエルの能力なのだろう。
「懺悔を聞くなら懺悔室なのでしょう。しかし、ここが最も主様がお聞きしやすい。さあ、貴方の罪を告白しなさい」
ステンドグラスの逆光に照らされたサミュエルの顔は、先程まで無かった冷酷が滲み出ていた。
*
「し、翔、さん?」
「サミュエルは随分と張り切っておるな」
バードルードの目の前で、翔とサミュエルが消えた。奇妙な現象に、彼の意識は霞んでいく。
「そこまで驚かなくてもよい。いまや、能力は複雑化しておる。そのような能力もあるのじゃ」
「し、しん、だ……?」
「今は死んでおらぬじゃろうな。じゃが、あやつの能力は相当に蘞い。いくらあのリアムでも、耐えられんと思うがのう。さて──わっちらも向かうとするか」
希は赤い傘をさす。刹那、二人は希の作った空間にたどり着いた。
「……あ」
ついに、バードルードはその場に気絶した。
「ん? 随分とうぶな子じゃのう」
「……確かに、こいつはうぶだな。だが、俺様はどうだぁ?」
突然バードルードは立ち上がると、希の首を掴んで床に叩きつける。
「た、確かに……お主は乱暴者じゃのう」
「おい、こっから出さねぇと殺すからな」
「やってみるといい」
逆鱗に触れたのか、バードルードは首を絞める力を強めた。
「はっ。なら死にやがれ、ババア」
バードルードは、その場で希を窒息させた。次の瞬間、希の死体が一瞬で消失した。
彼は何が起きたのかと辺りを見渡すが、特にこれといった異変を見つけられなかった。ただ、障子の向こうから足音がするのを除いて。
「……あ?」
「本当に乱暴な子じゃのう。苦しかったぞ?」
障子を開けて希は入室した。
「……何でもありか?」
「よく気がついたのう。この場にいる限り、わっちもお主も死ぬことは無い。当然、こういうのもありじゃぞ?」
希は開いた傘の先を彼に向ける。傘は突然、強風が吹いた時のように外側に紙を翻させる。そして、大口の怪物となって彼の頭を飲み込む。
「ぐっ!?」
彼の足は床から離れてゆく。腕や脚で必死に暴れるも、傘は彼の頭を離さない。
希は蛇のように動く柄を、持ちにくそうに何度か握り直す。
「心理学の観点から見ると、お主の多重人格は何やらの自己防衛に見える。……じゃが、随分と面白いのう」
「なに、がだよ……!」
希はくすりと口を抑えて笑う。
「お主、そっちが本当の人格なのじゃろう?」
「っ……!」
「お主の過去で何があった? なぜ、あの気弱な人格が産まれた?」
バードルードは動かなくなった。
「黙秘はわっちが悲しく……ああ、すまない。窒息してしまったのか」
傘に咥えられたバードルードの死体は、その場から消失した。
今回は短めでしたので、どこかで埋め合わせしたいと考えております。
ご愛読ありがとうございました。
次回も宜しくお願いします。