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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
10章 彼らが真実を知ってから全てを終わらせる終焉譚
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124話 都合

 遅れてしまいました。申し訳ございません。


 その他の者も、他の場所に連れてこられていた。

 椿つばきは着地を失敗して、床に腰を打ちつけた。脳天にかけて衝撃が貫く。



「っ……! てて……あれ、みんなは!?」


 椿は体勢を整えて辺りを見渡す。

 この部屋はまるで、空っぽの大きい金属箱の中だ。頭上に何個かの明かりと、目の前にドアが一つあるが、それ以外に物はない。見たところ、そこそこ動き回れる広さだ。



「はぐれたのか。みんな無事だといいんだけど……」


 椿は後ろの金属の壁を右手で触る。手袋越しにひんやりとした感覚が伝わった。それ以外の特徴はなかった。

 先程まで、この何の変哲もない壁が滑り台に変形していた。その滑り台に乗らされて、椿はここに連れてこられたのだ。



(恐らく、あれがノアの能力か。金属……いや、全ての物質を操るのか? だとしたら、俺らを圧死するなんて造作もないはず。やっぱり、ここまで来ても戦う気が無いのか……?)


 椿が考えていると、目の前の扉がゆっくりと開く。それを開けたのは、白いシルクハットに白いスーツを来た男性だった。

 椿はニヒルな笑みを浮かべる。



「何となく、そうなると思ってたんだ。不思議だけどね」

「ん? まあ、よろしくね♪」


 その男、頼渡らいとはスキップするような口調で笑顔を浮かべた。



   *



「恐らく、ここが……ノアのいる場所ですよ」


 眼音まおはそう言って、何の変哲もない扉を凝視する。

 扉には南京錠がかかっている。解錠済みだ。


 懐かしむような目で部屋を見て、届称かいしょうは話す。



「……ここはね、研究室だったんだ。理由までは言えない制約だが、()()()はよくここに来ていたよ。あの日が懐かしいな……」


 和也かずやはその場所を見た。頭の中がくすぐられてる感覚がしたので、慌てて考えるのをやめた。



「……ここに入る前に、一つ聞きたいんだけどさ。いいか?」

「どうしたんだい?」


 嫌な汗が出る。こんなことを聞いても何もならないと自分を押さえつける。

 呼吸を整える。聞かないと気が済まないと自分を奮い立たせる。



「……なんで、二人は俺を孤児院に送ったんだ? なんで、優貴ゆうきの親は優貴を孤児院に送ったんだ?」

「っ……それ、は」


 届称は言葉に詰まった。眼音も口を開かなかった。



「俺とか優貴の親がすげえ人だってことは分かってる。何か難しいこと色々考えて送ったんだって分かってる。けどさ、本当に俺たちのことを大事に思ってくれてたんなら、なんであんな孤児院に送ったんだよ。大人になっても引き取り手が出なかったら殺される孤児院にさ」


 無言になる二人に、和也は詰め寄る。



「正直、俺は親がどれだけ偉くても知ったこっちゃねぇ、って思ってる。だからなんだ、って思ってる。……俺さ、あの時が一番楽しかったんだ。だけど今は、あんま楽しくない。なあ、俺とか優貴が親の都合でこんなに振り回されるのって、それはもう決まってたことなんか?」

「……『弁解の余地もない』と、そんなことを聞きたいわけじゃないのだろう。ただ、私たちには制約があるから真実は話せない。だから論理的ではなく、感情的に話そう」


 届称は和也の身長と合わせるように、床に膝を立てる。そして和也の目をじっと見る。



「私や眼音は、和也のことを忘れたりしたことは無い。今でも、今までも、一秒たりともだ。和也が眼音のお腹から産まれた時、私は人生で一番喜んだ。本当はその小さな手を離したくなかった。……君を、泣かせたくなかった」


 声が震えている。整えようとする呼吸も、震えている。

 届称は涙を堪えているようだ。



「君は、のちに真実を知る。その場に私たちが立ち会えるか分からない。だから、今のうちに伝えたい。……|大《・》の都合で、和也や優貴を不幸にしてしまって、ごめんなさい」


 和也は眼音の方を見る。そして初めて、彼女が泣いているのを知った。表情を隠しているが、指の隙間から涙がこぼれている。



「……俺は、二人の泣く姿を見たくて質問したわけじゃねえんだ。ただ、答えてほしかっただけなんだよ。でも、もう分かった。分かったから、泣き止んでくれ」


 二人が感情を整える中、和也はあることを考えた。



(もしかして俺が難しいことを考えたくないのって……思い出したくない過去が難しいからってことか? ……わかんね)


 彼はまた、考えることを放棄した。



   *



「誘導する。ノアのいる所は分かるから、着いてきて」


 しょうはバードルードと共に他の部屋に飛ばされていた。


 翔はバードルードに手を差し伸べ、立つことを補助しようとしている。

 しかし、バードルードはその手をとることはない。



「あ、あっの、えっと……」

「質問する。どうしたの?」

「めっ、迷惑、です、よね? ぼ、僕なんかと……」

「反論する。そんなことは無い。とりあえず、立って。走れる?」


 バードルードは頷く。そして翔の手を取る。そして翔がいきなり走るのを確認して、バードルードも慌てて後を追う。



「っ……誰かに見つかる前に行かないと」


 翔が右へ左へと曲がる。バードルードも体力のない体で必死に追いかける。


 少しして、広場のような所に出た。



「っ……ここを通れば──」

「ノアの所へ着く……はずじゃな?」


 もはや翔は、声の主を確認するまでもなかった。

 少し遅れてやってきたバードルードは、ノアが全員を移動させる直前まで居た女性が、今ここにいることに怯えた。



「あ、あ、なたはさっき居た……それに、()()()の、人、は?」


 そっちと聞いて、翔は慌てて振り向く。希以外の者が居ると思わなかったからだ。



「わっちはのぞみじゃ。そしてこっちは──」

「巡り合わせに感謝を。私はサミュエルと申す者です。以後、お見知り置きを」


 その男、サミュエルは丁寧なお辞儀をした。神父のような服装を身を包み、金髪のボブカットに赤いツリ目をしている。

 翔はなぜその男に気がつかなかったか理解した。その男は、非常に穏やかな雰囲気をかもしていた。こちらの警戒心を削がれるような男だ。まさに『親しみやすい』と形容できる。



「私はとある街で神父をしています。何か懺悔ざんげしたいことがあれば、いつでも聞きましょう」

「っ……」


 翔はサミュエルから目を離さなかった。

 ご愛読ありがとうございました。


 次回も宜しくお願いします。

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