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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
10章 彼らが真実を知ってから全てを終わらせる終焉譚
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123話 確実な死

 ローランはジョニーを呼ぶ。

 ローランが声をかけたのは、邪悪が奇抜な格好をしたような男──ジョニーだった。



「ハイ、サーシャ! ユーはトレイターで間違いないですね!?」


 サーシャは肩をすくめて表面的な笑みを見せる。



「はは……君たち二人でボクを止められるの? 『ボクは逃げられる』」


 能力を発動した。……しかし、何も起こらなかった。



「ああ、そっか。ボクはもうRDBじゃないからね」

「俺様の『略取罪りゃくしゅざい』は、特定の奴らが『発動』と言わずとも発動できるようにする能力。ジョニーの『賄賂罪わいろざい』は恩を感じさせた奴に『恩返し』という体で命令する能力……って悪ぃ、お前はもう知ってるか」

「ああ知ってるよ、煽ってるのかな? ボクが能力を発動すれば、君たちが死ぬ可能性だって跳ね上げられる。そんな余裕がいつまで続くのかな」


 ローランの能力によって、RDBのメンバーは『発動』と言わずとも戦うことができた。

 サーシャがレジスタンスだと確定した瞬間、ローランはサーシャを略取罪の対象外にしたのだろう。



「クハハ、余裕がいつまで続くかだと? それはこっちのセリフだ、サーシャ」

「なに……?」

「いいか、お前は死ぬ。絶対にだ」

「……《発動》。『ボクは君たちに殺されない』……っ!?」


 サーシャは彼の言葉を信用せず、毅然とした態度で肩を竦める。

 しかし言い終わると同時に、サーシャは頭を抑えてうずくまった。


 まるで頭に釘を押し込まれてるような痛み。頭蓋骨ずがいこつがひび割れて、その破片が脳に突き刺さるような痛み。



(い……痛い! な、にが……!!)

「おいおい、どうした? もちろん、俺たちに殺されない可能性を上げたんだろ?」


 ローランの言葉はもう届いていない。痛みの電気信号がガンガンと鳴り響いている。

 突然、彼女の眼球の水晶体に『ERROR!』と表示される。その直後、彼女の頭から痛みがひいていく。


 彼女はゆっくりと立ち、思考能力が回復した頭で考える。



(ERROR……? 一体何が? ここの部屋には何も無いし、彼らの能力ではありえない。ただボクの能力……を……)

「クハハ、傑作だなあ! その死を察した顔をもっと見せろよ! ほら、その絶望した顔を! このカメラに!」


 ローランは大きく開くまぶたから露出する自らの眼球を、『カメラ』と称して指さす。



「ボクに……何をした」

「お前の能力はこうだ。『()()()()()可能性を操作する能力であり、その可能性が零や百のときは発動できない』」

「ありえないだろ……! ならボクは……ボクは、()()()()()()君たちに殺されるって言うのか!?」

「クハハ! だから絶対だと言っただろ?」

「イエス! やはりローランのプランはアブソリュート!」


 ローランはもはや彼女に興味がないのか、監視カメラが映し出す偽物の画面を見る。



「俺様たちRDBはお前のことをとっくに裏切り者だと勘ぐっていた。野放しにするのも厄介なので、いっそお前を殺すことにした。だがお前は『偽証罪ぎしょうざい』の能力者。殺るからには百パーセント殺らねえといけねえ。しかも、お前に気付かれずにな」


 サーシャは彼の話を聞くしか無かった。ここから彼らの所には行けないのに加え、なぜ死ぬのかも分かってないからだ。



「そこでジョニーの『キャンセル』を使うことにした。存在自体はお前も知ってるだろ」

「……『恩返し』に不備やミスがあれば、不正を働いた者の命を強制的に奪うこと」

「そうだ。そして不備を起こしたのはお前だ、サーシャ」

「ボクが? ボクはまだ一度もジョニーの能力を……」


 サーシャの言葉はそこで途切れた。



「お前は『賄賂罪』で、日本中の班長らに『恩返し』させた。お前がアイツらの命を救ったから、警察の情報をよこすようにアイツらに命令した」

「……そこのどこに、不備があるのかな?」

「お前は嘘をついた。『自分が命を救った』とな」

「嘘? それは本当だろう? 彼らは致死率90パーセント、一時間後に効果が出る遅効性の毒ガスを吸っていた。だからボクが可能性を変えて、彼らが死なない可能性にしたんだ」


 人を小馬鹿にしたような笑い声が、ローランの口から聞こえる。



「本当にお前は扱いやすい馬鹿だな。あの場には、()()()()()()()()()()()()()

「っ……」


 サーシャはついに言葉を失った。なぜ『偽証罪』にERRORが生じたのか、ようやく分かったからだ。



「アイツらを殺そうとしたのは、茶に紛れ込んでいたルドラの寄生虫だ。アイツらが死にかけて生き返ったのは、ただルドラが能力を発動しては解除をしただけだ」

「ザッツタイムはとてもファニーでした! サーシャが彼らの命をセーブしたなどとカンチガイして、『ワイロザイ』をユーズしようと!」

「……なるほどね。ボクは彼らの命を救ってもないのに、『賄賂罪』を使った。だからジョニーがキャンセルさえすれば、ボクは百パーセント死ぬってことか」


 サーシャはため息を一つつく。

 ローランは監視カメラ映像を見るのを止め、サーシャの方を見た。



「さっきまで絶望してた奴がやけに落ち着いてるな?」

「痛みで冷静さを欠いてたよ、ボクとしたことがね。にしても、皮肉だね。嘘つきのボクの死因が、無意識についていた嘘だなんて」


 サーシャは不思議と、死を受け入れていた。まだ死ぬわけにはいかないのに、足掻くことが馬鹿らしく思えてしまった。


 そんなサーシャを見たローランは、ジョニーもサーシャも驚くようなことを口にした。



「……生かしてやろうか?」





 * * * *





「天井も壁も床も敵だと思って!」

「にしても、()()はどこにいるの!?」

「ですが、段々と……」


 すみれ天舞音あまね芽衣めいは一度立ち止まって、今いる通路の奥を見た。

 そこには、予測できない動きをする触手が蔓延はびこっていた。


 芽衣はそれらを指さしながら、くるっと二人の方に振り返る。



「ほら、触手が多くなってます。ということは、あちらに本体が──」

「っ! 芽衣!」


 天舞音は芽衣の袖を掴み、彼女の体を自分の方へ引き込む。

 数秒後、触手が天井から振り下ろされる。芽衣が先程まで居た床に激突すると、水を飲む喉のように脈打った。


 三人はそれを避けて奥へ進んでいく。



「ボクたちの能力は本体に触れないと発動できないんだよ! 油断したらおしまいなの!」

「ご、ごめんなさい……!」

「……わざと当たろうとした?」


 菫はそう言って芽衣を見る。疑念と不安が交わっているような目だ。



「わざと当たって自分の痛覚を共有しようとしたの? あの触手に?」

「っ……」

「それなら試したでしょ? 二人の能力は触手には効果がない。触手と本体は別なの、何度も言わせないで」

「菫ちゃん、言葉が強いよ。芽衣ちゃんも焦らなくていいよ。今は敵の隙を──芽衣ちゃん?」


 先頭を走っていた芽衣が突然立ち止まる。肩を震わせている。止まったのは触手のせいではないようだ。



「……菫さんは、なんで来たんですか。戦いもできないのに、人の戦いには文句言ってばっかで……! 菫さんは……菫さんはっ! どうやってRDBを殺せるんですか!?」

「芽衣……ちゃん?」


 天舞音の顔がひきつる。彼女からそんな言葉が出ると思ってなかったのだ。



「それは、そっちも一緒でしょ? 痛覚の共有だけじゃ、RDBを殺せない」

「……もう! 二人とも喧嘩しないで! 今がどんな状況か分かってるの!? 今ボクたちのやるべきなのは本体を探すこと! ……いい?」


 天舞音の言葉で、二人は口を閉ざした。



「……行こう」


 菫の言葉をきっかけに、三人はまた奥に走り始めた。

 ご愛読ありがとうございました。


 次回もよろしくお願いします。

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