122話 ハリボテの地獄
十二人は本部へ突入した。
* * * *
「ローラン! エマージェンシー! 突然、罪人取締班の奴らがカム!」
「クハハ! これは予想外だ!」
「計画にナッシング?」
ローランはジョニーに見えるように指を振る。
「ふっ、いいか? 完璧な計画を立てる軍師はせいぜい二流止まりだ。一流の軍師はな、予想外も計画に組み込むんだよ」
「ではローランはなぜサプライズ?」
「なあに、シンプルだ。ただただあいつらが……バカだと思っただけだ。正面突破が完璧な計画だと思ってやがる」
ローランは慣れた手つきで目の前のキーボードを操作する。壁に貼られたモニターが起動し、監視カメラの映像や団員の位置情報を表示する。
監視カメラには走る班員らとレジスタンスの三名、計十名が映されている。それを見たローランの顔が一瞬だけ歪む。
「……おいジョニー。あいつらはいつ侵入した?」
「アバウト10分ビフォー」
「にしては進行が遅せえ。そうか、そいつらの中に情報を書き換える罪人がいるんだな? 本当はもっと進行してやがる。だが問題ない、『ストラF』のファーストフェイズを適用する」
ストラはストラテジーの略、要は作戦だ。
ローランはレジスタンスを除く全ての団員にそう通信した。
* * * *
「やっぱり連れてきて正解だね。眼音の能力は群を抜いて強い」
「サ、サーシャさんに褒められる程じゃないですよ! ただ、監視カメラの伝達情報を書き換えてるだけで……」
「……俺も眼音さんの能力を使えるけど、そんなことできなさそうだ」
椿はそう言って肩を落とす。
「まあ、眼音のスペックが段違いだか……ら」
先頭を走っていたサーシャは突然足を止める。美羽もサーシャの目線の先を見た。
そこには、三名の人が立っていた。誰も彼も、異質な雰囲気を放っている。そこに居るというだけで視界がねじ曲げられそうな、そんなおどろおどろしい、不気味な雰囲気を。
「やあ、ついに揃ったね。会えて嬉しいよ?」
子どもが話す。紫色と赤色が交互に入り交じっている髪が印象的な子どもだ。機嫌の悪い月のような色をした目は、寒気がするまでこちらを見透かしている。
「ボス……と言うのはもう辞めようか、ノア。ルドラ、希」
「馬禍です、まス、オマえらハ。馬禍には荒ソいの諦義が、まス」
「ルドラ……」
届称は今にも泣きそうな顔で、ルドラのことを見た。それを虹彩で見たルドラは、首のような異物を270度曲げる。
「っ……僕は君たちの狙いが何か、ある程度分かってる。でもダメだ。それは完璧な解決策じゃないことを君なら分かってるはずだ、ノア」
「わっちもそれは同感じゃ。確かにこれは完璧ではない、でも効果が無いわけでもないことをお主なら分かっておるはずじゃ、リアム」
「僕は君たちに、最後のチャンスを与えようと思う。戦う意思を無くし、そのまま敗走してくれないかい? ああいや、僕たちのことを思って退いてくれても構わないよ? 僕らは君たちと争いたくないんだ」
ノアはそう言って、笑みを浮かべた。
翔はとっさに片目を隠し、サーシャは肩を竦める。しかし……
「かはっ……!」
「っ!?」
「荒ソいは菌止、です、ます」
「能力は使わせんぞ? サーシャ」
翔は触手に腹を殴打された。しかし、サーシャに何が起きたか分からなかった。ただ一つ分かるのは、翔とサーシャの能力は失敗したということだ。
突然、地面が振動する。
「すまないね。縁があれば、この素晴らしいハリボテの地獄で再会しよう」
ノアは、そう言った。
*
「……きて」
声がする。可愛らしい声だ。瞼が反応する。
「起きて……! 美羽ちゃん!」
美羽は起き上がる。戦場で気絶するという失態を晒してしまった。
先程まで声をかけてくれていたシャイニの目を見る。今にも涙が零れそうだ。
「ごめん、心配かけちゃったね」
「心配かけすぎだよっ! かけかけの掛け布団だよっ!」
美羽は断片的に記憶を呼び起こす。
「そうだ……急に地面がせり上がって、穴の空いた天井に突っ込んじゃったんだったね。あれ、他のみんなは?」
「多分、みんなバラバラになっちゃったよ……。衝撃が強かったから、美羽ちゃんも気絶しちゃうし……。それにここ暗いし……」
シャイニは不安を次々にこぼしていく。それほどまでに一人は心細かったのだろう。
そして辺りを見ると確かに薄暗い。非常看板に照らされる夜中の学校並だ。
「ここで皆とはぐれるのはまずいね……。とにかく見つかる前に、早く合流しな──」
「そんなに慌てる必要もないんじゃなぁい? 私としばらくここにいようよぉ」
突然明かりがつく。暗闇に慣れそうだった目が眩む。ゆっくりと回復する視界には、鉄の壁と床で覆われた無機質な部屋だった。
「な、なんで……? だって、だって閉じ込めたんじゃ……」
「さぁ……なんで出られたんだろうねぇ? お姉ちゃんにも分からないや」
こびり付くような妖艶な声……そんな声を出すのは、美羽の記憶上ただ一人だった。そう、狩魔だ。
美羽もシャイニと同じ質問をしそうになった。しかし、それは今は重要ではない。
今、一番重要なのは敵に見つかったということだ。美羽は戦闘態勢を整え始める。
幸いなことに、二人がたどり着いた部屋は戦える程のスペースがある。
「シャイニちゃん、大丈夫?」
「……うんっ!」
二人は、余裕そうな態度の狩魔に体を向けた。
*
サーシャはゆっくりと立ち上がる。
(希のやつ、能力の使い方がますます上達してる。一瞬だけ発動して、ボクの発動条件をリセットされた。あの時能力を発動できてれば……!)
後悔後先たたず、サーシャは服のホコリを払う。サーシャは自分がどこに運ばれたのか、なんとなく分かっていた。
「いるんだろう? ローラン!」
「クハハ、そんなに早く会いたかったのか?」
何の変哲もない前方の壁。突然、その上側が機械音とともに開き出す。そこからガラス越しにローランの姿が確認できた。
金色の裏側が白色になっている髪。高身長ゆえに、よくその青色の眼で見下してくる。今回も嘲笑うかのようにサーシャを見ている。
「だけど残念だったね。君の能力は戦闘向きじゃない」
「クハハ! ああ、そうだな。俺様の略取罪は戦闘向きじゃねえ。だけどな……お前は死ぬんだよ。絶対な」
「へえ、なら見せてみなよ。その理由をさ。きっとボクは死なないだろうから」
「クハハ! なめるなよ、一流の軍師を。来い」
ローランはある人物を呼び寄せた。
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