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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
10章 彼らが真実を知ってから全てを終わらせる終焉譚
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121話 作戦と戦争

 戦争が、始まる。

 * * * *





 今の状態は万全、と言えば嘘になる。何しろ昨日いきなり戦争の作戦を立てられて、その次の日にそれを決行しているからだ。

 美羽みうは、プロ・ノービスとの戦争はあちらから仕掛けたのに対し、RDBとの戦争はこちらから仕掛けると思わなかった。



「どうもお、要件はぁ?」


 気伸びした狩魔かるまの声。美羽やその他の班員、そして届称かいしょう眼音まおはバレぬように息を潜める。どうやら、まだ彼女にはバレていないらしい。



「もうすぐ撤退するんだろ? ならボクらも本部に戻らないとね」


 サーシャはそう言って、一歩後ろで見ていたシャイニとバードルードに目を配る。

 バードルードはいつも通り、辺りを警戒して落ち着かない様子だ。しかしシャイニもまた、何一つ笑わないで狩魔を睨んでいる。


 一週間前に美羽が感じた、別れ際のシャイニへの違和感。それは、実の姉に対する抵抗、恐怖の表れのようだった。



「えっとぉ、残念だけど、みんなとはここでお別れなのぉ。言ってなかったっけぇ?」

「……それはまるで、ボクらが裏切り者っていう扱いだね」

「確証はないらしいけどぉ、ほぼ決まりらしいねぇ」


 サーシャの予想は合っていた。RDBは既に、この三人を裏切り者だと見抜いていたのだ。

 サーシャは肩をすくめて首を振った。



「そうか……『サイコロを振れない』」

「えっ……?」


 狩魔の短い言葉と同時に、彼女のポケットに穴が空き、そこに詰められていた大量のサイコロが自由落下した。

 美羽は既に、両手を地面に付けていた。その後ろでは、天舞音あまねが深呼吸をしている。



美羽みうくん! 今だ!」

「《発動》!」


 美羽はサーシャに返事をすることもなく能力を使う。瞬間、美羽と狩魔の位置が入れ替わる。

 狩魔が状況を整理する前に、天舞音は狩魔の体に触れる。



「《発動》! いけたよ!」


 天舞音の声が美羽の背後で聞こえる。まず、初めの作戦は成功したようだ。

 息を潜めていた班員や来藤らいとう夫婦は物陰から身を出す。そして全員、天舞音と狩魔の元に近づく。



「うぅん、どうやらやられちゃったみたいだねぇ」

「……抵抗、しないの?」


 その言葉を発したのはシャイニだった。妹に声をかけられたからか、驚きと嬉しさを露呈した笑顔で狩魔は話す。



けいちゃん……さすがに、こんな大勢相手に立ち向かうほど勇敢じゃないよぉ? 多分これからこの子の能力を使って、本部に行くんでしょぉ?」

「なぁぁっ!」


 この子と呼称された天舞音は、優しく撫でる狩魔の手を乱暴に振りほどく。能力の欠点で、少しイライラしているようだ。

 前々から感じていたが、彼女の態度はいつもフレンドリーで、つい気を許してしまいそうになる。プロ・ノービスの戦争の時には感じられなかった一面だ。



「……とにかく、これを受け取れ。なに、単なるおりだ」


 届称がそう言って狩魔に触れる。次の瞬間、彼女はその場から消えてしまった。

 しかし、その場から狩魔の声がする。



「これじゃあ出られないねぇ……。能力が復活してもサイコロがないから参ったよぉ」

「戦争が終わり次第、解除する予定だ。……倫理的な理由で、周囲からは見えないようにする」


 どうやらその場から消えたと言うより、狩魔が景色と同化する壁に囲まれたようだ。



「今から音もシャットアウトする。さらばだ」

「話し相手も居なくなっちゃうのかぁ、それは残念」


 狩魔はその声を最後に存在を消した。



「なんか、少し心が痛い気がするね……」

「班長、敵に情を移すのはやめな。そんなんじゃ()()()不安だよ」


 椿つばきに言葉を返したのは聖華せいかだった。彼女は本部に行くことはないが、別れの挨拶はしたかったらしい。

 なぜかそれが最後の別れみたいな表情で、椿は聖華さんの顔を見た。



「ははっ、なんだいその辛気臭い顔は。んじゃ、あたしはそろそろ行くね」

「……気をつけて」

「分かってるさ。……死ぬなよ」


 聖華の気持ちがこもった一言。それを残して、彼女は振り向くことなくその場を後にする。

 彼女を見送った後、天舞音は目を閉じて狩魔の能力を確認している。



「ん、この能力……?」

「天舞音くん、サイコロだよ。これで凱旋門まで移動できるかな? ボクらも狩魔の能力は分からないから、君だよりになってしまうね」

「……多分大丈夫! じゃあみんな捕まっててね……《発動》!」


 美羽は落ちていくサイコロを見た。いつもより遅く落ちているような、揺れて落ちているような気がした。



   *



 突然、地面の色が変わった。自分が一瞬で凱旋門の前に着いたことを理解するのに数秒かかった。



「ワープできるのは知ってましたけど……体験しても本当とは思えませんね……」


 芽衣めいは辺りをキョロキョロと見渡している。

 美羽もフランスのパリを見る。皮肉にも、彼女にとってこれが初めての海外旅行だ。



「もたもたしている暇はないよ! この宝石モドキの効力が失われる前に行かないと!」


 サーシャに急かされ、四人グループを三組作る。その組の中のレジスタンスを中心に、凱旋門の中を潜る。




 ここから戦争が始まる。犯罪への対処で体は動かせる。されど心の準備などできていない。

 家族や親友に送った『今までありがとう』というメッセージ。その返信は見ていない。未練ができないように。


 それでも戦争に参加したのは、無差別に命を奪った怒り、RDBに行ってしまった優貴ゆうきへの心配。

 それを、晴らすために。

 ご愛読ありがとうございました。


 次回もよろしくお願いします。

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