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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
9章 彼らが行動を始めた状態から真実を知り始める解明譚
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119話 買い物中のアクシデント

 椿はサーシャに電話をかけようとした。

 椿つばきがサーシャに電話をかけようと決めたと同時のことだ。『サーシャ』の文字と共に、コール音が執務室に鳴り響いた。



「もしもし、サーシャか? 丁度よかった、俺からも──」

『班長、緊急事態だ! 今日の正午に全員集めてくれ、ボク達も行くから!』

「えっ、サーシャ!?」


 彼女はそう言って、一方的に通話を切った。彼女の焦燥しきった声、通話を続ける気のない態度。

 彼女に感化され、椿は胸をより一層騒がしくする。


 今、執務室には誰もいない。仕事開始時間の二時間前だからだろう。椿はRDBのことを考えてから、気が気でなかった。だからか、今日も早く来てしまった。



「……そろそろ、積もり重なったちりが暴れる時か。見ててくれてるのかな、りんさん。あの時言ったからには、頑張らないとね」


 椿は胸元のタイとシャツの上に、右手をそっと置いた。





 * * * *





 今日は取締班を休んだ。その理由は、そろそろここに来るはず。



「おーい美羽みう!」

菜々子(ななこ)! 真理奈まりな!」


 今日は、三人で買い物に行く日だから。



「びっくりしたよ、予定よりも早く集まるなんて……」

「本当にごめん! 正午から仕事が急に入っちゃって」

「ん、ならしょうがないな。昨日は全力出して走ったから、疲れて早く寝て良かったって思うぜ」

「あっ、そういえば昨日大会なんだっけ? 私は行けなかったけど、どうだった? 大丈夫だった?」


 美羽は、今の情勢で大会をすることに疑問を持っていた。菜々子がここにいる時点で無事なのは間違いないのだけど、それでも心配してしまう。



「大丈夫だったぞ? 特に速いやつもいなかったから、いつも通りぶっちぎってきた」

「さ、さすが菜々子……」

「それよりもあたしは、美羽の言ってた『集まってからのお楽しみ』が気になるけどな」

「あっ、それ私も気になってた」


 菜々子と真理奈が視線を向ける中、美羽は『シャイニの誕生日プレゼント』のことを話した。



「へぇ、誕生日なんだな。シャイニって」

「そ、それってどこ情報!?」

「ま、真理奈なら知ってると思ってた……。やっぱり誕生日って非公開だったの?」

「全然知らないよ! それ、本人から聞いたの!?」


 美羽は苦笑いを浮かべる。本当はサーシャの嘘から出た真のような情報だが、さすがにそこまでは言わなかった。



(……今思ったら、サーシャさんがわざわざあんな嘘ついたのって、私にシャイニちゃんの誕生日を教えるため──いやいや、まさかね)


 美羽はそんなことを考えながら、二人とデパートの中に向かった。



   *



「…………なあ。買うって決めたはいいものの、何買うか決まってるのか?」

「うっ、そ、それは……」


 デパートの入り口でたたずむ美羽を見て、菜々子はがく然とした様子で話す。



「確かシャイニちゃんって、ぬいぐるみが大好きだったような……いや、あくまでも()()()かもしれないけど」

「そういうところは、何というか──ドライなんだねぇ」

「アイドル業と私生活は切り分けてるって私は思ってる。……ファンなのに、変かな?」

「いいんじゃねえか? ファンの全員が同じ考え方ってわけじゃねえだろ。ファン以前に人間なんだから」

「──菜々子って、ときどき核心突く発言するよね」


 真理奈がそう言ったのを、菜々子は複雑な表情で受け止めていた。



   *



「ぬいぐるみを売ってるのはここだね」

「でも、ぬいぐるみだったら何でもいいわけじゃないだろ?」

「それはそうだね。一応可愛いって思えるやつがいいと思うよ」


 そう話しながら店の中に入ろうとした、その時だった。



「いいですよねぇ、こちらの化粧品。何と言うか、品が出る感じがしませんかぁ?」


 普段なら、何気ない店員と客の会話として聞き流すだろう。しかし、三人の足は店の前で停止した。

 息がつまる。山の頂上に来たみたいだ。

 胸が絞まる。緊張からか、変な汗も流れ始めた。


 錆びたロボットのように、美羽は左を向く。会話は、化粧品店の入り口に置かれた机と椅子から出ている。

 そこにはこなれたように化粧品を紹介する──



「あっ、菜々子!」


 美羽も動けなかったのにも関わらず、菜々子は堂々と彼女に近づく。そして彼女と客を分かつ机を、力いっぱい叩く。

 客が怯え、彼女も驚いた表情を見せる中、菜々子は彼女を睨みつけている。



「なんで、てめえがここにいんだよ!」

「……すみませんお客様ぁ。一度私は離席するので、担当を変わらせて頂きます」


 彼女は、菜々子を含めた三人を店の中に手招きした。



   *



 彼女は結っていた長い髪を解いて、頭を何回か振る。事情を知らなければ、色気のある、グラマーな女性だとしか思わなかっただろう。

 その者が──狩魔かるまでなければ。



「あらぁ、どうしたのぉ? お客さんを怖がらせないで貰えるかしらぁ?」

「何が『どうしたの』だ! いいか! あたしはまだ、真理奈を蹴ったこと忘れてないからな!?」

「そんなこと覚えてたのぉ? あなたって執着心が強いのねぇ、可愛い子」

「そんなことだと、てめえ……?」

「お、落ち着いて菜々子!」


 美羽は、一歩前に出た菜々子の肩を掴む。



「離せよ美羽! 警察としても、こいつを野放しにしたくねえんだろ!? だったら今ここで──」

「だめ! ……だよ」

「美羽ちゃん、だっけぇ? あなたはいい子ねぇ。私を刺激したら、このデパートがめちゃめちゃになるって思ってるのかしらぁ?」

「っ……!」


 美羽もここで捕まえたい、と思っていた。しかし狩魔の言う通り、ここで戦闘を始めたら悲惨な末路を迎える。



「じゃあ……何も、できねぇのかよ……?」

「──ねえ、あなたはなんでここで働いてるの?」


 口をつぐんでいた真理奈は、決して譲らない姿勢で狩魔を見て発言した。



「もしかして、私が何か企んでるってぇ? ないなぁい。私は二ヶ月前からずっとここで働いてるんだよぉ?」

「じゃあ、なんで?」

「怖い子。じゃあ、話そっかぁ。あのね、RDBって──」


 三人は固唾を飲んだ。この先にある重要な事実への緊張、あるいは期待から。



「──給料が出ないのぉ」

「……は? 給料?」

「そうそう。要は、ボランティア? みたいなぁ。だから働かないと暮らしてけないでしょぉ?」

「よし美羽、やっぱりこいつ半殺しにしよう」


 美羽は菜々子の肩をより一層強く掴む。闘牛のように暴れだしそうな菜々子を抑えるために。

 狩魔はただ首を傾げるばかりだった。



「じゃあなんだよ! 本当にただ働いてただけか!?」

「うん。この際はっきり言うけどぉ、警察側はRDBのメンバーが社会に溶け込んでるって思ってるらしいけどぉ、正確に言えば給料欲しさに働いてるだけなんだよぉ」


 美羽はその後の言葉をどうすればいいか分からなかった。



「……と、とにかく! あなたを警察に連行するから!」

「してもすぐ逃げれるし、多分私は暴れるよぉ? いい情報一つあげるから、ここは見逃してよぉ」


 三人の返答も待たずに、狩魔は顔を近づけてヒソヒソと話し始めた。



「実は、恵ちゃ──シャイニが好きな物って()()なのよぉ? あの子、嗅覚が良くてねぇ。好きな匂いはとことん嗅いでいないと気が済まないのぉ。まるで子犬みたいで可愛いでしょぉ?」

「嘘つかないでよ! そもそも、なんでシャイニちゃんのこと知ってるの!?」

「え? だってあの子は──」

「と、とにかく! そんな情報を聞いたぐらいで見逃すわけには──」

「じゃあねぇ」


 狩魔は途端にその場から姿を消した。床にはサイコロが一つ落ちていた。



(油断した! 顔を近づけられたから、いつの間にか目線をあの人の顔に誘導されてた!)

「くそ、またどっか行ったのかよ!」


 三人はサイコロをじっと見つめながら、やりきれなさをあらわにしていた。



   *



 それから少しして、菜々子が美羽に聞いた。



「なあ、なんでシャイニのこと知ってたんだ?」

「えっと、それは……多分、あの狩魔って人は色んな業界と繋がってるからだと思う」

(菜々子、真理奈、ごめん。シャイニちゃんがRDBだってことは言えないの)

「そもそも、ほんとか嘘かも分からないし……ね?」

「それは……もしかしたら本当かも。ね、念の為香水を買っといていいかな? それから、ぬいぐるみ見に行こう!」


 美羽はその場を押し切って、菜々子と真理奈に反論を言わせないようにした。

 ただ、シャイニが俗に言う()()()()()というのは何となく信じることができた。



(シャイニちゃんって、やけに距離を詰めてくる人だなって思ってたけど……あれって、ひたすら私の匂いを──)

「ん? 美羽、顔赤いけどどした?」

「い、いや! 何でもない何でもない!」


 美羽は、少なくとも今はそれ以上考えないことにした。

 ご愛読ありがとうございました。


 次回もよろしくお願いします。

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