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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
9章 彼らが行動を始めた状態から真実を知り始める解明譚
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117話 通話

 レジスタンスは突然、その場を後にした。

 その日、班員たちはそれぞれでレジスタンスの能力を共有し合った。

 サーシャの不器用な能力、シャイニの運任せな能力、バードルードの多重人格など、彼らやその能力に難ありだったと結論付けた。



   *



 解散の流れとなり、美羽みうは部屋に戻った。スマホの画面を見ながら、ゆったりと自分のベッドに腰掛ける。


 今日は色んなことがあった。

 優貴ゆうきの実母であるのぞみが来たり、サーシャがレジスタンスを連れてきたり、なによりあの有名アイドルのシャイニと連絡先を交換できたり。


 ──美羽は慣れた手つきで画面に指を滑らす。その後、耳を覆う髪をかきあげてその耳にスマホを当てる。



『んあ、どした?』

「ごめん菜々子(ななこ)、今大丈夫?」


 すぐに、スマホから菜々子の声が流れた。



『あたしは平気だよ。真理奈まりなが来るまで二人で話してるか』

「うん、そうだね!」



 二人で雲のような雑談をする。

 そこから程なくして、真理奈もその通話に参加した。



「あっ、真理奈来た?」

『うん。ちょうど一区切りついたから、満を持してここにやってきたよ』

『一区切りってことは、小説でも読んでたのか? どうせなんか難しい小説だろ?』


 真理奈はいつも複雑なトリックのある推理小説を好む。以前、菜々子はそれを四ページ読んで頭から湯気を出していた記憶がある。

 だからか、菜々子は言葉を投げ捨てるような興味の無さを前面に出して話していた。



『ううん、難しくないよ。『あまりによどんだきみおと』っていう恋愛小説を読んでたよ。天才ピアニストの男子高生が、生まれつき声が出せない女子高生と出会うっていうあらすじ』

「わっ、それいいねー! 今度買いに行かなくちゃ! タイトルもなんだか素敵だしね!」

『そうか? ただの悪口にしか思えないけど……』

『いやいや、このタイトルは絶対どこかで伏線回収されるはずだよ……って私の話は置いといて。そういうお二人さんはどういった日々を?』


 菜々子は「うーん」と一言もらす。



『そろそろ大会も近いから、あたしはそれに向けての調整中。なのに、最近の大学の課題が本当にめんどくさくて参るよ。満足に練習もできねえよ』

「陸上の大会って、こんな状態でもやるの?」

『まあな。よく分からんけど、大学よりも参加人数が少ないからやるんだと思う』

『へえ……。本当に危なくないのかな?』

『ま、平気だろ! いざとなったらこの脚で逃げてやるさ!』


 菜々子の声は活気に満ちる。少なくとも、本気でそうしようと思ってはいるらしい。



『……そして、美羽は? 最近の仕事はどう?』

「仕事はなんとか、生きてるよ」

『じゃあ、何があったんだ? なんか、いつもと調子が違う気がするけど……』


 美羽はこういう時毎回、菜々子は妙に鋭いと思っている。



「実はね──私、あのシャイニちゃんと連絡先を交換したの!」

『シャイニ……って、あのアイドルの? れ、連絡先!?』

『仕事で会った──としたら、シャイニが何かに巻き込まれてるってことか?』

「それは──いや、どちらかと警察の仕事でね……」


 シャイニが罪人とばらす訳にはいかない。この二人なら周りに言うということはないが、本人が傷つくかもしれないからだ。



『そして、何か連絡したの? どこかで遊ぶ予定は?』

「そ、そっか。真理奈ってシャイニちゃんのファンだったね」


 だからグイグイくるのか、と美羽は苦く笑う。



「いや、あっちも忙しいだろうし……こっちからはあまり連絡しないことにしたよ。でも…………」

『でも?』

「──急なんだけど、来週の土曜日集まれる?」

『あー悪い、あたしはその日に大会あるんだ。その日の次の日曜日ならオッケーだけどな』

『私はオールオッケーだけど……どうして?』

「それは……集まってからのお楽しみで!」


 美羽は、サーシャが話していた『シャイニの誕生日』を忘れていなかった。

 その日に、三人での遊びを兼ねて彼女への誕生日プレゼントを買おうと心の中で決めていたのだ。



   *



 その後も盛り上がりを見せた会話は、日をまたぐ前に幕を閉じた。本当は集まって遊びに出かける話をするだけだったのだが、結局長話をしてしまった。

 美羽は寝る支度を始める。


 優貴ゆうきが消えたこと、芽衣の両親が死んだこと、少しずつ罪人の真実が暴かれつつあること。──狩魔かるまに連れていかれる直前のシャイニが、寂しそうな顔をしていたこと。

 美羽はこれらを含めた不安は心の中にしまうことにした。絶対に、親友にも打ち明けないままにしとこうと思った。


 二人の声を聞くだけで、安心が少しずつ体を包んでくれる。


 今は、これだけで十分だった。



「……くるみ先生、私は今、あなたに近づいているかな? あなたみたいな、素敵な人に」


 美羽の、眠る前の口癖だった。こうすることで、今日の自分の行動を認めることができた。


 ゆっくりと、その眼を閉じた。

 ご愛読ありがとうございました。


 次回も宜しくお願いします。

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