116話 VSレジスタンス 後編
報告もなしに一時間遅れてしまいました。ごめんなさい。
シャイニと美羽、聖華のシーンから始まります。
「これが、『五』の力だよ! すごいでしょっ!」
「うん、すごい……すごいよ、シャイニちゃん!」
シャイニは美羽の言葉に目を輝かせて頬を紅潮させる。表情で分かりやすい人なのだと、美羽は何となく理解できた。
「……にしても、そのエグい銃を使うつもりかい? いかにもルールに反しそうだねえ」
「うん! これはすごく危険だから、今は絶対に使わないっ!」
「そうだね、それでルールが破られたら元も子もないからねえ」
何よりシャイニに装備された機関銃の威力は、そのイカつい見た目が物語っていた。
「じゃ、待っててねっ! 今解除するから!」
シャイニがそう言うと、彼女の腕についていた機関銃は再び光の帯になり、ダイヤモンドダストのように宙に舞って消えた。
「それは自分で解除しない限りずっと続くのかい?」
「ううん、時間経過で勝手に消えちゃうよっ! それがなかったら凄いのにねっ! すごすごの巣ごもりだよねっ!」
「──さっきも言ってたけど、流行ってるのかい? それ」
シャイニは先程同様、ピースを天に向けてウインクする。
「じゃあもっかいいくよっ! 来てっ! 【☆可憐賽☆】!」
彼女がそう言う度に天から光るサイコロが来るらしい。それを人差し指と中指で挟む。
彼女が振る動作を美羽はまた、両手を地面につけてタイミングを見計らう。
「さっ! 次は『四』出てっ!」
──美羽の能力が発動することなく、サイコロが地面と着地した。
「……やっぱりダメだ。あれ、位置を交換できない」
「美羽の能力が? 地面と独立してるし、視認もできてるのに。……ってことは、あれはやっぱりこの世に存在しない物体ってことだねえ」
シャイニは期待を含んだ目で、落ちたサイコロを覗く。
「さてさて……げっ、『六』だっ!」
またサイコロが光の帯になる。それがシャイニの腕に絡みつくと、それはみるみるうちに膨らんで──
「へぎゅっ!」
大きな金属の塊となって、シャイニの腕を地面へ引き込む。重りに耐えきれずに、シャイニは地面と頭を激突した。
「だっ、大丈夫!?」
「は、早く解除しなっ!」
「『六』と『一』は勝手に解除できないんだぁ……。ふえぇっ、何もできないよぉ……」
*
一悶着あった後、シャイニの腕の枷がようやく剥がれた。
「お、重かったよっ……! 辛すぎるっ!」
「ほ、本当にギャンブルだねえ、その『賭博罪』。戦闘中だったら隙が丸見えだよ」
シャイニが立ち上がったその瞬間──
「お疲れ様ぁ、恵ちゃん。じゃあ、帰っちゃおっかぁ」
シャイニの傍から、妖艶な女性の声が聞こえた。美羽が忘れることもできない、狩魔の姿がそこにはあった。
「っ……!」
途端、シャイニの顔が変わっていった。
「じゃ、まったねぇー」
シャイニのその顔は──
「待って! シャイニちゃんっ!! なんで──」
──なんでそんな助けて欲しそうな顔をするの。
差し伸べた手が彼女に届くはずがなく、彼女は狩魔と共に姿を消してしまった。
美羽には、彼女からも小さく手を差し伸べたように見えた。
その場所には、狩魔の投げたサイコロだけが残った。
* * * *
天舞音は距離をとって、バードルードを睨みつけた。ルールガン無視野郎だ、と彼女は思った。
しかし、彼はそんな視線を完全に無視する。
「……決めた、まず処理すべきは貴様だ、赤交じり」
「赤交じり……って私ですか? 私には芽衣って素敵な名前があるので、是非そっちで呼んでください」
芽衣はそう言った直後、天舞音に錐を投げた。
「芽衣ちゃん? これ……」
「痛いと思います……ですが、それで能力を!」
バードルードの能力は、自分の血液を参照にして発動する。ということは──
「……じ、じゃあこっちだって、君の能力を使わせてもらうよ!」
とは言っても、天舞音は自分に向けた錐が震えていることに気がついた。
仕方がないとはいえ、芽衣はいつも自傷行為をためらいなくしている。しかし、こんなにも根気がいるものなのか、と天舞音は絶句した。今ここで、彼女の凄さを再実感することになるとは思わなかった。
「……いっつ!」
天舞音は──芽衣ほどではないが──手の甲に錐を刺す。自分で痛みを発生させることに、謎の後悔と罪悪感がのしかかる。
彼女の血液がゆったりと地面に落ちていく。その瞬間、その血が紋章となって地面に浮かび上がる。
「っ!?」
バードルードの表情が歪む。まさか、彼女が実際に自分の能力を使えるとは思っていなかったのだろう。
「これ、で──」
「はい、終了だよぉー」
一瞬だけ狩魔の声が聞こえた。
「おい、俺はまだ──」
バードルードの声が終わる間もなく、サイコロが落ちると共に狩魔と共に消えていった。
効果範囲外に消えたため、天舞音から彼の能力が消えた。
「……なんだよ、あいつ」
狩魔に向けてかバードルードかには天舞音自身にもわからない、複雑な言葉を発した。
* * * *
「っ……やっぱりサーシャの能力は──ゴホッゴホッ、厄介だね」
「だ、大丈夫? 翔さん、あまり無理して声を出さないでね」
椿は心配から、翔の背中をさする。
彼の言葉に、翔はただこくりと頷く。
「おい! 話してる場合じゃねえぞ! 早くたす──じゃねえ、早く倒せ!」
和也は蜂の大軍に追いかけられながら、慌てた声を出した。
彼の言葉に反応して、椿は足を触る。和也版の『暴行罪』の発動条件が満たされた。まるで和也のように、そして弾丸のように飛び出した。
「《発動》! 【五蕾・厄燕】!」
「『攻撃が当たらない』」
両肩を上げるサーシャの言葉とほぼ同時に、椿は最小限の力で蹴りかかろうとした。しかし、
「ケホッ……っ!? サーシャ!?」
「っつ!」
サーシャの上に植木鉢が降り注ぐ。衝撃で彼女の上半身が落ちたため、椿の攻撃が当たることはなかった。
どこから落ちたのか気になった椿だったが、今はそれどころじゃなかった。
「いや、俺の攻撃よりも痛いんじゃないの!? 大丈夫!?」
「……うん。頭がグラグラするけど、平気だよ。ほら、本調子以上だ」
「さすがに俺でも分かる嘘だぞ……」
サーシャの後頭部から艶やかな血が溢れている。打ちどころが良かったのか、応急処置でこと足りる傷だった。
椿は急いで、自分のハンカチを出血部分に強く当てて止血を試みた。
初めは彼女の能力を厄介、強力だと思っていた椿だが、案外そんなこともないのかもしれない。
可能性を満たすための手段は問わない……裏を返せば、味方や自分すら巻き込むこともある能力なのだ。
*
「全く……ボクの能力でルールを守るなんて無理だね。こんなルール作った人の顔を見てみたいよ」
「指摘する。鏡があれば顔を見れるんじゃないかな」
翔は呆然と口に出す。
何とか出血は治まってきたが、まだ油断はできない怪我だ。なのにも関わらず、嘘みたいにケロッとして椿の顔をのぞき込むサーシャ。本当に嘘だと思いたい生命力だ。
「……どうしたの班長。随分と思い詰めた顔だね。ほら、お姉さんに何でも相談するといいさ」
「お姉さん……? ああいや、少し気になったことがあって……今更だけど、なんでサーシャは『《発動》』と言わなくても能力を発動できるの?」
「ああ、それは──」
その時だった。二拍子が聞こえたかと思うと、三つの人影がサーシャの背後から現れた。
「はぁい、お疲れ様ぁ。サーシャ、すごい頑張ってたねぇ」
「っ!? 狩魔!」
椿の声を、狩魔は笑顔で流す。その隣で、気まずそうな顔をしたシャイニと、意外にも不機嫌そうな顔をしたバードルードがいた。
「にしても、サーシャ──本当に手こずってたぁ? なんかままごとみたいだったけどぉ……」
「──罪人取締班班長。あのこと、よく考えておいてね。そっちの返事次第では……本気でやるからね」
サーシャが作り話をしていることを、椿は一瞬で理解した。
「俺たちの答えは、もう決まってる」
「そう、じゃあまたね」
狩魔は首を傾げながらも、自分とシャイニ、サーシャの三人を瞬間移動させた。
こうしてレジスタンスとの戦闘は呆気なく、そして突然終わった。
ご愛読ありがとうございました。
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