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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
9章 彼らが行動を始めた状態から真実を知り始める解明譚
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116話 VSレジスタンス 後編

 報告もなしに一時間遅れてしまいました。ごめんなさい。


 シャイニと美羽、聖華のシーンから始まります。

「これが、『五』の力だよ! すごいでしょっ!」

「うん、すごい……すごいよ、シャイニちゃん!」


 シャイニは美羽みうの言葉に目を輝かせて頬を紅潮させる。表情で分かりやすい人なのだと、美羽は何となく理解できた。



「……にしても、そのエグい銃を使うつもりかい? いかにもルールに反しそうだねえ」

「うん! これはすごく危険だから、今は絶対に使わないっ!」

「そうだね、それでルールが破られたら元も子もないからねえ」


 何よりシャイニに装備された機関銃の威力は、そのイカつい見た目が物語っていた。



「じゃ、待っててねっ! 今解除するから!」


 シャイニがそう言うと、彼女の腕についていた機関銃は再び光の帯になり、ダイヤモンドダストのように宙に舞って消えた。



「それは自分で解除しない限りずっと続くのかい?」

「ううん、時間経過で勝手に消えちゃうよっ! それがなかったら凄いのにねっ! すごすごの巣ごもりだよねっ!」

「──さっきも言ってたけど、流行ってるのかい? それ」


 シャイニは先程同様、ピースを天に向けてウインクする。



「じゃあもっかいいくよっ! 来てっ! 【☆可憐賽(ハッピーダイス)☆】!」


 彼女がそう言う度に天から光るサイコロが来るらしい。それを人差し指と中指で挟む。

 彼女が振る動作を美羽はまた、両手を地面につけてタイミングを見計らう。



「さっ! 次は『四』出てっ!」


 ──美羽の能力が発動することなく、サイコロが地面と着地した。



「……やっぱりダメだ。あれ、位置を交換できない」

「美羽の能力が? 地面と独立してるし、視認もできてるのに。……ってことは、あれはやっぱりこの世に存在しない物体ってことだねえ」


 シャイニは期待を含んだ目で、落ちたサイコロを覗く。



「さてさて……げっ、『六』だっ!」


 またサイコロが光の帯になる。それがシャイニの腕に絡みつくと、それはみるみるうちに膨らんで──



「へぎゅっ!」


 大きな金属の塊となって、シャイニの腕を地面へ引き込む。重りに耐えきれずに、シャイニは地面と頭を激突した。



「だっ、大丈夫!?」

「は、早く解除しなっ!」

「『六』と『一』は勝手に解除できないんだぁ……。ふえぇっ、何もできないよぉ……」



   *



 一悶着あった後、シャイニの腕のかせがようやく剥がれた。



「お、重かったよっ……! 辛すぎるっ!」

「ほ、本当にギャンブルだねえ、その『賭博罪』。戦闘中だったら隙が丸見えだよ」


 シャイニが立ち上がったその瞬間──



「お疲れ様ぁ、けいちゃん。じゃあ、帰っちゃおっかぁ」


 シャイニの傍から、妖艶な女性の声が聞こえた。美羽が忘れることもできない、狩魔の姿がそこにはあった。



「っ……!」


 途端、シャイニの顔が変わっていった。



「じゃ、まったねぇー」


 シャイニのその顔は──



「待って! シャイニちゃんっ!! なんで──」


 ──なんでそんな助けて欲しそうな顔をするの。


 差し伸べた手が彼女に届くはずがなく、彼女は狩魔と共に姿を消してしまった。

 美羽には、彼女からも小さく手を差し伸べたように見えた。


 その場所には、狩魔の投げたサイコロだけが残った。





 * * * *





 天舞音あまねは距離をとって、バードルードを睨みつけた。ルールガン無視野郎だ、と彼女は思った。

 しかし、彼はそんな視線を完全に無視する。



「……決めた、まず処理すべきは貴様だ、赤交じり」

「赤交じり……って私ですか? 私には芽衣めいって素敵な名前があるので、是非そっちで呼んでください」


 芽衣はそう言った直後、天舞音にきりを投げた。



「芽衣ちゃん? これ……」

「痛いと思います……ですが、それで能力を!」


 バードルードの能力は、自分の血液を参照にして発動する。ということは──



「……じ、じゃあこっちだって、君の能力を使わせてもらうよ!」


 とは言っても、天舞音は自分に向けた錐が震えていることに気がついた。

 仕方がないとはいえ、芽衣はいつも自傷行為をためらいなくしている。しかし、こんなにも根気がいるものなのか、と天舞音は絶句した。今ここで、彼女の凄さを再実感することになるとは思わなかった。



「……いっつ!」


 天舞音は──芽衣ほどではないが──手の甲に錐を刺す。自分で痛みを発生させることに、謎の後悔と罪悪感がのしかかる。

 彼女の血液がゆったりと地面に落ちていく。その瞬間、その血が紋章となって地面に浮かび上がる。



「っ!?」


 バードルードの表情が歪む。まさか、彼女が実際に自分の能力を使えるとは思っていなかったのだろう。



「これ、で──」

「はい、終了だよぉー」


 一瞬だけ狩魔の声が聞こえた。



「おい、俺はまだ──」


 バードルードの声が終わる間もなく、サイコロが落ちると共に狩魔と共に消えていった。

 効果範囲外に消えたため、天舞音から彼の能力が消えた。



「……なんだよ、あいつ」


 狩魔に向けてかバードルードかには天舞音自身にもわからない、複雑な言葉を発した。





 * * * *





「っ……やっぱりサーシャの能力は──ゴホッゴホッ、厄介だね」

「だ、大丈夫? 翔さん、あまり無理して声を出さないでね」


 椿は心配から、翔の背中をさする。

 彼の言葉に、翔はただこくりと頷く。



「おい! 話してる場合じゃねえぞ! 早くたす──じゃねえ、早く倒せ!」


 和也かずやは蜂の大軍に追いかけられながら、慌てた声を出した。

 彼の言葉に反応して、椿は足を触る。和也版の『暴行罪』の発動条件が満たされた。まるで和也のように、そして弾丸のように飛び出した。



「《発動》! 【五蕾ごらい厄燕やくつばめ】!」

「『攻撃が当たらない』」


 両肩を上げるサーシャの言葉とほぼ同時に、椿は最小限の力で蹴りかかろうとした。しかし、



「ケホッ……っ!? サーシャ!?」

「っつ!」


 サーシャの上に植木鉢が降り注ぐ。衝撃で彼女の上半身が落ちたため、椿の攻撃が当たることはなかった。

 どこから落ちたのか気になった椿だったが、今はそれどころじゃなかった。



「いや、俺の攻撃よりも痛いんじゃないの!? 大丈夫!?」

「……うん。頭がグラグラするけど、平気だよ。ほら、本調子以上だ」

「さすがに俺でも分かる嘘だぞ……」


 サーシャの後頭部からつややかな血が溢れている。打ちどころが良かったのか、応急処置でこと足りる傷だった。

 椿は急いで、自分のハンカチを出血部分に強く当てて止血を試みた。


 初めは彼女の能力を厄介、強力だと思っていた椿だが、案外そんなこともないのかもしれない。

 可能性を満たすための手段は問わない……裏を返せば、味方や自分すら巻き込むこともある能力なのだ。



   *



「全く……ボクの能力でルールを守るなんて無理だね。こんなルール作った人の顔を見てみたいよ」

「指摘する。鏡があれば顔を見れるんじゃないかな」


 しょうは呆然と口に出す。

 何とか出血は治まってきたが、まだ油断はできない怪我だ。なのにも関わらず、嘘みたいにケロッとして椿の顔をのぞき込むサーシャ。本当に嘘だと思いたい生命力だ。



「……どうしたの班長。随分と思い詰めた顔だね。ほら、お姉さんに何でも相談するといいさ」

「お姉さん……? ああいや、少し気になったことがあって……今更だけど、なんでサーシャは『《発動》』と言わなくても能力を発動できるの?」

「ああ、それは──」


 その時だった。二拍子が聞こえたかと思うと、三つの人影がサーシャの背後から現れた。



「はぁい、お疲れ様ぁ。サーシャ、すごい頑張ってたねぇ」

「っ!? 狩魔!」


 椿の声を、狩魔は笑顔で流す。その隣で、気まずそうな顔をしたシャイニと、意外にも不機嫌そうな顔をしたバードルードがいた。



「にしても、サーシャ──本当に手こずってたぁ? なんかままごとみたいだったけどぉ……」

「──罪人取締班班長。あのこと、よく考えておいてね。そっちの返事次第では……本気でやるからね」


 サーシャが作り話をしていることを、椿は一瞬で理解した。



「俺たちの答えは、もう決まってる」

「そう、じゃあまたね」


 狩魔は首を傾げながらも、自分とシャイニ、サーシャの三人を瞬間移動させた。


 こうしてレジスタンスとの戦闘は呆気なく、そして突然終わった。

 ご愛読ありがとうございました。


 次回も宜しくお願いします。

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