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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
9章 彼らが行動を始めた状態から真実を知り始める解明譚
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113話 アイドル

 レジスタンスの二人の自己紹介を終えた。

   *



「……へぇ、美羽みうちゃんって言うんだぁ! 可愛い名前だねっ!」

「あ、ありがとうございます……!」

「ん? もしかして美羽ちゃん、緊張してるの? 大丈夫だよ! ほら、私達って同い年っぽいでしょ? 敬語も使わなくていいよ!」


 美羽はソファーの端に追い込まれる。対してそれでも詰めよろうとするシャイニ。美羽は、彼女が物理的にも距離感が近い人物だと感じた。

 当然、美羽の視界では彼女の小顔が大半を占めていた。星空のような輝きを放つクリクリの目。つい気を許してしまうような、優しくて活気溢れる笑顔。さながら、無邪気で探究心のある子どもを彷彿ほうふつとさせる。

 きっとこれが、大人気アイドルである所以ゆえんなのだと感じ取った。


 ふいにシャイニは懐から携帯を取り出すと、それを慣れた手つきで操作する。



「……はいっ! これ私の連絡先だよ! いつでも連絡していいからね!」

「えっ!? ほ、本当にいいんですか?」

「敬語! 出てるよっ!」

「あ……えっと、ありがとう!」

「こっちこそ!」


 美羽は連絡先を貰って内心喜ぶ反面、気軽に連絡して迷惑をかけたくないと思った。


 突然シャイニは、何か思いついたように手を一つ叩いてすっと立ち上がる。



「そっかぁ! どうせ仲間になるから、みんなとも連絡先交換しなくちゃ!」


 そう言うと彼女は、丁寧に一人ずつの班員と連絡先を交換し始めた。


 まるで行動力の塊みたいな人だと感心していた美羽に対し、向かいのソファーに腰掛けていたサーシャが声をかける。



「彼女と話して、どう感じたのかな? 美羽さんは」

「ふぇっ?」


 突然話しかけられたので、つい変な声が出た。恥ずかしさをまぎらわせるために、下手くそな咳払いを一つする。

 含み笑いのような笑みを浮かべる彼女に、美羽は答えた。



「えっと──優しくて明るくて……まさに、テレビで見たまんまだと思います」

「そうだね。これはボクの偏見だけど、素の性格でテレビに出ている人は少ないと思ってるんだ。彼女はその例外の一人だね」


 その言葉を聞いて、美羽は少し安心する。心のどこかで、アニメなどでよくある『怖い裏の顔』があったらどうしようと心配していた。しかし杞憂だったようだ。

 その安心を確実なものにするため、美羽は彼女に質問する。



「シャイニさんはいつも明るいんですか?」

「……ボクたちの前ではね。彼女も『罪人』だ、一人で苦しんでる時もあるかもしれない。ボクから見れば君も明るい人だけど、笑えない日もあったろう?」

「それは──当然あります」


 美羽は『アイドル』という言葉にどこか特別感を持っていたのかもしれない。でも本当は──



「アイドルとは言っても、シャイニは一人の女の子だ。君と同じように苦しむ時も、悲しむ時もある。あと、ここだけの話だけど──」


 サーシャはシャイニに聞こえないようにするためか、シャイニの方向から隠すように手を口元に寄せる。


 美羽もシャイニの方向へ後頭部を見せるように、サーシャの口に耳を近づけた。



「──自分の口から言ったことないけど、あの子は寂しがり屋さんなんだ。だから君みたいな同年代の友達ができて、内心跳ね上がって喜んでるんじゃないかな」

「……そう、なんですか?」

「だから、いつも見守ってくれると嬉しいな。ほら、同じレジスタンスだとしても、ボクは年増だしバードルードは……控えめに言って論外だからさ。君が身近な人物になって、いざという時に彼女を助けてほしい」

「あっ! コソコソ話してる! ねえ、何話してたのっ!?」


 美羽は慌ててシャイニの方を向く。彼女は不機嫌そうな顔をしていたが、あどけなさが残るせいで恐ろしさとは感じなかった。



「ほら、君の本名をこっそり教えてたんだよ」

「また嘘ついてる! さっきなんのためらいもなく話してたじゃん!」

「……本当は君の好きなものをこっそり教えてたんだよ。ほら、君ってもうすぐ誕生日でしょ? シャイニ好きの美羽も知ってたみたいで、今プレゼントの相談をしてたんだよ。ちなみに候補は──」

「ちょっ、そこまでっ! それ聞いたら楽しみが半減しちゃうじゃん! ──美羽ちゃんは心配しなくても、美羽ちゃんから貰ったものなら何でも嬉しいからねっ!」


 意地でもさっきの内緒話は暴露したくないらしい。美羽もサーシャの話に乗っかるように、シャイニに頷き返した。



   *



 シャイニは満足そうな顔をして、また美羽の隣に座る。どうやら全員との連絡先交換は終わったようだ。


 美羽はそんな彼女を微笑ましく思いながら、話を始めた。



「終わったの? 連絡先交換」

「うんっ! これで皆とも友達になれたよ! みんなも、どんどん連絡してきていいからねぇ!」

「連絡かぁ……。あっ、そういえばシャイニちゃんっていつも連絡出られるの? 仕事とかで忙しいんじゃ……」

「確かに、すぐ返信できないかもしれないねぇ。だけど、絶対返すから!」


 仕事と聞いた途端、聖華せいかに引っかかるところがあったようだ。



「そういや、今日は特に仕事は無かったのかい? それに『引っ張りだこ』のアイドルがこんな場所に居てもいいのかい?」

「ああ、それは──」


 シャイニはちらりとサーシャを見やる。話してもいい内容かを彼女に尋ねたかったのだろう。

 彼女がこくりと頷くのを確認すると、シャイニはまた話し始めた。



「──実は私の専属マネージャーもRDBで、『今日活動する』って言ったら仕事を減らしてくれたの。……さすがに都合が良すぎると思うから、私の業界のお偉いさんもRDBと繋がってるのかも」

「ほんと、RDBは色んな形で溶け込んでるねえ。とてもじゃないけど、探し当てるのも厳しいのか……」

「でも減らしただけだから、あともう少ししたら行かないと……。ううっ、美羽ちゃんとお別れしないといけないんだぁ」


 シャイニは美羽の腰の上をぎゅっと抱く。美羽の予想に反して、強めの抱擁ほうようだった。

 さすがに予想できなかったので、美羽はソファーの肘掛けに倒れ込む。



「うわっ! だ、大丈夫、また会えるからっ! ね?」

「……うん。絶対、また会ってね?」


 このやり取りを通して初めて、美羽は彼女が『寂しがり屋』であると想像ついた。



「じゃあ、ボクもバードルードも今回はここらで──」

「ちょっと待って。私に考えがあるんだけど……」


 途端に、すみれが話を遮る。



「私の能力で、そのバードルードって人の能力を見れるかもしれないけど、どうする?」

「の、能力を、見る……!?」


 先程からずっと執務室の角にいたバードルードは、怯えた表情をする。


 しかしそんな彼とは打って変わって、サーシャは落ち着いた口調で話す。



「ん? それなら大丈夫だよ。君たちは実際に見ることになるから」

「実際に、ってどういうこと?」

「そのままの意味だよ。さっきシャイニも言ってたでしょ? 『今日活動する』って」

「……うそ、でしょ?」


 天舞音あまねはあからさまに引きつった顔をする。


 その場のほとんどがサーシャの言葉を理解した頃、彼女はダメ押しで言い放つ。



「ボク達三人と君達で、戦闘を始めようと思う」

 (今回で水曜日投稿は終わりになります)


 ご愛読ありがとうございました。次回も宜しくお願いします。

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