113話 アイドル
レジスタンスの二人の自己紹介を終えた。
*
「……へぇ、美羽ちゃんって言うんだぁ! 可愛い名前だねっ!」
「あ、ありがとうございます……!」
「ん? もしかして美羽ちゃん、緊張してるの? 大丈夫だよ! ほら、私達って同い年っぽいでしょ? 敬語も使わなくていいよ!」
美羽はソファーの端に追い込まれる。対してそれでも詰めよろうとするシャイニ。美羽は、彼女が物理的にも距離感が近い人物だと感じた。
当然、美羽の視界では彼女の小顔が大半を占めていた。星空のような輝きを放つクリクリの目。つい気を許してしまうような、優しくて活気溢れる笑顔。さながら、無邪気で探究心のある子どもを彷彿とさせる。
きっとこれが、大人気アイドルである所以なのだと感じ取った。
ふいにシャイニは懐から携帯を取り出すと、それを慣れた手つきで操作する。
「……はいっ! これ私の連絡先だよ! いつでも連絡していいからね!」
「えっ!? ほ、本当にいいんですか?」
「敬語! 出てるよっ!」
「あ……えっと、ありがとう!」
「こっちこそ!」
美羽は連絡先を貰って内心喜ぶ反面、気軽に連絡して迷惑をかけたくないと思った。
突然シャイニは、何か思いついたように手を一つ叩いてすっと立ち上がる。
「そっかぁ! どうせ仲間になるから、みんなとも連絡先交換しなくちゃ!」
そう言うと彼女は、丁寧に一人ずつの班員と連絡先を交換し始めた。
まるで行動力の塊みたいな人だと感心していた美羽に対し、向かいのソファーに腰掛けていたサーシャが声をかける。
「彼女と話して、どう感じたのかな? 美羽さんは」
「ふぇっ?」
突然話しかけられたので、つい変な声が出た。恥ずかしさを紛らわせるために、下手くそな咳払いを一つする。
含み笑いのような笑みを浮かべる彼女に、美羽は答えた。
「えっと──優しくて明るくて……まさに、テレビで見たまんまだと思います」
「そうだね。これはボクの偏見だけど、素の性格でテレビに出ている人は少ないと思ってるんだ。彼女はその例外の一人だね」
その言葉を聞いて、美羽は少し安心する。心のどこかで、アニメなどでよくある『怖い裏の顔』があったらどうしようと心配していた。しかし杞憂だったようだ。
その安心を確実なものにするため、美羽は彼女に質問する。
「シャイニさんはいつも明るいんですか?」
「……ボクたちの前ではね。彼女も『罪人』だ、一人で苦しんでる時もあるかもしれない。ボクから見れば君も明るい人だけど、笑えない日もあったろう?」
「それは──当然あります」
美羽は『アイドル』という言葉にどこか特別感を持っていたのかもしれない。でも本当は──
「アイドルとは言っても、シャイニは一人の女の子だ。君と同じように苦しむ時も、悲しむ時もある。あと、ここだけの話だけど──」
サーシャはシャイニに聞こえないようにするためか、シャイニの方向から隠すように手を口元に寄せる。
美羽もシャイニの方向へ後頭部を見せるように、サーシャの口に耳を近づけた。
「──自分の口から言ったことないけど、あの子は寂しがり屋さんなんだ。だから君みたいな同年代の友達ができて、内心跳ね上がって喜んでるんじゃないかな」
「……そう、なんですか?」
「だから、いつも見守ってくれると嬉しいな。ほら、同じレジスタンスだとしても、ボクは年増だしバードルードは……控えめに言って論外だからさ。君が身近な人物になって、いざという時に彼女を助けてほしい」
「あっ! コソコソ話してる! ねえ、何話してたのっ!?」
美羽は慌ててシャイニの方を向く。彼女は不機嫌そうな顔をしていたが、あどけなさが残るせいで恐ろしさとは感じなかった。
「ほら、君の本名をこっそり教えてたんだよ」
「また嘘ついてる! さっきなんのためらいもなく話してたじゃん!」
「……本当は君の好きなものをこっそり教えてたんだよ。ほら、君ってもうすぐ誕生日でしょ? シャイニ好きの美羽も知ってたみたいで、今プレゼントの相談をしてたんだよ。ちなみに候補は──」
「ちょっ、そこまでっ! それ聞いたら楽しみが半減しちゃうじゃん! ──美羽ちゃんは心配しなくても、美羽ちゃんから貰ったものなら何でも嬉しいからねっ!」
意地でもさっきの内緒話は暴露したくないらしい。美羽もサーシャの話に乗っかるように、シャイニに頷き返した。
*
シャイニは満足そうな顔をして、また美羽の隣に座る。どうやら全員との連絡先交換は終わったようだ。
美羽はそんな彼女を微笑ましく思いながら、話を始めた。
「終わったの? 連絡先交換」
「うんっ! これで皆とも友達になれたよ! みんなも、どんどん連絡してきていいからねぇ!」
「連絡かぁ……。あっ、そういえばシャイニちゃんっていつも連絡出られるの? 仕事とかで忙しいんじゃ……」
「確かに、すぐ返信できないかもしれないねぇ。だけど、絶対返すから!」
仕事と聞いた途端、聖華に引っかかるところがあったようだ。
「そういや、今日は特に仕事は無かったのかい? それに『引っ張りだこ』のアイドルがこんな場所に居てもいいのかい?」
「ああ、それは──」
シャイニはちらりとサーシャを見やる。話してもいい内容かを彼女に尋ねたかったのだろう。
彼女がこくりと頷くのを確認すると、シャイニはまた話し始めた。
「──実は私の専属マネージャーもRDBで、『今日活動する』って言ったら仕事を減らしてくれたの。……さすがに都合が良すぎると思うから、私の業界のお偉いさんもRDBと繋がってるのかも」
「ほんと、RDBは色んな形で溶け込んでるねえ。とてもじゃないけど、探し当てるのも厳しいのか……」
「でも減らしただけだから、あともう少ししたら行かないと……。ううっ、美羽ちゃんとお別れしないといけないんだぁ」
シャイニは美羽の腰の上をぎゅっと抱く。美羽の予想に反して、強めの抱擁だった。
さすがに予想できなかったので、美羽はソファーの肘掛けに倒れ込む。
「うわっ! だ、大丈夫、また会えるからっ! ね?」
「……うん。絶対、また会ってね?」
このやり取りを通して初めて、美羽は彼女が『寂しがり屋』であると想像ついた。
「じゃあ、ボクもバードルードも今回はここらで──」
「ちょっと待って。私に考えがあるんだけど……」
途端に、菫が話を遮る。
「私の能力で、そのバードルードって人の能力を見れるかもしれないけど、どうする?」
「の、能力を、見る……!?」
先程からずっと執務室の角にいたバードルードは、怯えた表情をする。
しかしそんな彼とは打って変わって、サーシャは落ち着いた口調で話す。
「ん? それなら大丈夫だよ。君たちは実際に見ることになるから」
「実際に、ってどういうこと?」
「そのままの意味だよ。さっきシャイニも言ってたでしょ? 『今日活動する』って」
「……うそ、でしょ?」
天舞音はあからさまに引きつった顔をする。
その場のほとんどがサーシャの言葉を理解した頃、彼女はダメ押しで言い放つ。
「ボク達三人と君達で、戦闘を始めようと思う」
(今回で水曜日投稿は終わりになります)
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