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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
9章 彼らが行動を始めた状態から真実を知り始める解明譚
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112話 レジスタンス

 のぞみが執務室を後にする。その時に緊張の糸が切れたのか、天舞音あまねは脚の力を全て抜いて椅子に勢いよく腰掛けた。



「はぁーっ! 本っ当にびっくりしたよ!」

「……ふふっ、そうだね」


 椿つばきは彼女にならって肩の力を抜く。──と同時に、何事も無かったことに安堵する。

 しかし、すみれは未だに表情を険しくしたままだった。



「……さっきしょうが言ってた『そんな人には思えない』って何?」

「答える。さっき自分で言ってたように、希は戦闘は好まない人。だから、単身で敵地に身を乗り出すような行動をするはずないんだ」

「じゃあ、皆はなんでそんな安心してるの? そんな行動をしたんだからもっと怪しむべきでしょ。あの人が外で能力とか伏兵を使ったりして、今から攻撃することはないの?」


 彼女の言い分も一理ある、と椿は思った。

 もし希がそんな人だとしたら、『優貴ゆうきの職場だった所を見たかった』と誤魔化して何か企んでいる可能性がある。


 しかし彼女の言葉を受けた翔は、柔らかく首を横に振る。



「推測する。多分、それはないと思う。彼女がここを攻撃すれば、警視庁もさすがに黙ってない。それは戦争後に言っていたRDBの行動理念である、『仲良く共存』と逸れちゃう気がする。──まあ実は、彼女がここに来た理由は分かる気がする。だって……」

「……だって?」

「──だって、彼女は極度の『親バカ』だから」


 彼の一言で辺りがしんと静まり返る。

 それは否定の静寂ではなかった。むしろ納得の静寂だ。

 今思い返せば、希は優貴のことを中心に話していた。



「……あぁ、うん。何となく理解できた」


 菫は、あまりにも分かりやすく呆れた顔を見せた。

 あの傍若無人であるRDBの幹部に人間味を感じた、貴重な時間だった。──椿はそう思うことにした。



   *



 彼女が退出してからおよそ二時間後のことだった。突然、執務室の扉が開いたのは。



「皆、大丈夫!?」


 扉の奥からそんな声が聞こえた。か弱い小鳥が叫んだみたいな声が。

 その正体は、椿にとってもはや馴染み深い人物だった。



「サ、サーシャ!? どうしてここに──」

「どうしてもこうしてもないよ! 希が来たんでしょ? 何かされてないの!?」


 彼女は珍しく焦った表情を見せている。

 他の班員とは顔すら合わせたことがないというのに、その者らを心配するのは恐らく偽りのない彼女の優しさだろう。



「大丈夫さ。あいつはただ、優貴の()職場を見たがってただけらしいよ」


 サーシャとは打って変わって、聖華せいかは妙に落ち着いた素振りを見せた。

 もはや聖華だけでなく、()()()()の班員が戦闘態勢をとることは無かった。全員がレジスタンスであるサーシャの存在を知っているからだ。

 唯一、戦闘態勢を取ろうと立ち上がる和也かずやも、周りを見てすぐ椅子に座った。



「そ、そっか。まあ、あの人ならそうするだろうね。……さっそく本題に入るけど、君たちに紹介したい人がいるんだ。入って来て」


 苦笑いのサーシャがそう言うと、取締所と外を繋ぐ扉から人影が二つ見えた。

 その人影はやけに──疲れているように見えた。



「はぁっ、はぁっ……ちょ、サーシャ、速すぎだってばぁ……!」

「……帰りたい」


 二人はそんなことをボロボロ言いながら、執務室に入る。



「もうっ! 可能性を変えられる身にもなって考えてよっ! いくら速く着くとは言っても、死んじゃったらダメでしょ!?」

「二人はこのぐらいで死なないから大丈夫だと思ったから、『ここに時間通り着く可能性』を限りなく大きくしたけど……ダメだったかな?」

「ダメだよ! ダメダメのダメージジーンズだよっ! おかげで体力無くなっても走り続けることになったんだよっ!」

「……の、割に元気そうだね。さすがアイドル」


 サーシャの言葉に頬を膨らませて、彼女はパタパタと地団駄を踏む。

 ラメ入りの短いスカートにフリルが多めの白いトップス、金色の短いツインテールが特徴的な女子だ。純粋なハートを連想させるほどに、明るい桃色の眼がキラキラと光っている。

 『アイドル』と言われても納得するほど、彼女からはそんなオーラが発せられていた。



「あれ? もしかして……シャイニさん!?」

「あっ、私のこと知ってる人がいた! 嬉しいなっ! あ、そうだ! ね、後で連絡先交換しよ!」

美羽みうさん、知ってるの?」

「むしろ知らないんですか!? 色んな番組に引っ張りだこの、あのシャイニさんですよ!?」


 美羽は『シャイニ』という女子に影響されたように、少し大げさに驚いた。

 芽衣めいや菫、天舞音、翔までも知っているようで、椿の発言に目をぱちくりさせている。



「うっ……何だか冷たい視線が」

「だ、大丈夫だよ班長。あたしもさ。はあ、テレビ見ないツケが回ったねえ……」

「すまん! 知らん!」


 聖華と和也かずやの反応も見たサーシャはちょうど良い機会だと、なかば呆れ気味に話し始めた。



「……じゃあ、とりあえず自己紹介と能力の説明を」

「はーいっ! RDBのラッキーガールこと、シャイニでーすっ!! 『賭博罪とばくざい』っていう、その時の運によって色んな力が出る能力です! よろしくねっ!!」


 もしこれが小説だとしたら『!』が多くつきそうな元気の良さが、彼女の性格の大部分なのだろう。

 さらには、まるで太陽のような明るく可愛らしい笑顔。テレビで大人気なのも頷ける。



「まあ、本名は枕木まくらぎ恵子けいこ。純正日本人だよ」

「ちょっと、サーシャ!?」


 恐らく既出情報ではないのだろう。なので美羽は「そうなんだぁ……!」と関心を抱いていた。


 サーシャは続いてもう一人のほうを指さす。



「こっちは『バードルード』。本名は無いから自分でつけたらしいよ。……せめて自分で言ったほうがいいと思うんだけど?」

「──皆、こっちを見てる。怖い、怖い……」

「……とまあ、こんな性格。『外国国章損壊罪がいこくこくしょうそんかいざい』っていう能力を持ってる……らしいけど、能力も教えてくれないから分からないんだよね」

「あっ、ううっ……」


 彼の顔はやせ細っていて、体型は黒い大きなジャンパーによって隠されていた。あおい目は常に泳いでいて、肌は青白く染まっている。


 聖華はその二人を見てから、落ち着いたままサーシャに尋ねる。



「……結局、この二人はあんたの何なんだい?」

「この二人こそ、まさしくレジスタンスのメンバーだよ」

「えっと……もしかして、今のレジスタンスは三人なのかい?」

「いや、あと五万人くらいは──」

「さすがに嘘だねえ」


 聖華はぎこちなく笑う。

 サーシャはため息をついて、「この三人だけだよ」と話し、紹介を終えた。

 遅くなり、申し訳ございません。


 ご愛読ありがとうございました。次回も宜しくお願いします。

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