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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
9章 彼らが行動を始めた状態から真実を知り始める解明譚
110/174

110話 親子

 優貴と希の話です。

 彼は閉じていた目蓋まぶたをゆっくりと開く。ひたいを触った後の指を確認しても、これといったことは無かった。



「……ここは?」


 まず彼はそれが気になり、周囲を見渡した。そこはまるで和室のようだった。

 畳の床、障子、花の屏風。さらに目を引いたのは、縁側えんがわから見る和風の庭だった。白い帽子を被る岩が楕円状に連なっており、枝に雪を実らせている木がそんな彼らを見守っている。



「分かっておるくせに。わっちの意識の中じゃ」


 大人びた声と共に、障子の向こうから赤い着物の女性が部屋に入室する。着物の上からでも体のラインが確認できるほど、彼女は男性の目を釘付けにする体の持ち主だ。

 しかし彼──優貴ゆうきはそんなものに興味が無さそうな目で、ただ彼女──のぞみにらんでいる。



「次は、何の用だ?」


 彼の問いに答えることはなく、希は淡々と彼の元に歩み寄った。終始彼の獰猛どうもうな視線をものともせず、彼の顎を人差し指で持ち上げてじっと目を合わせる。


 彼が抵抗することは無かった。しても無駄だと知っていたからだ。



「どれどれ……ああ、ある程度『成って』おるな。目の赤さがそれを物語っておる。ならば一言──」


 彼女は顎から指を離すと、数歩後ろに下がる。寂しいような嬉しいような──本人しか真意の分からぬ笑顔を浮かべると、彼に告げた。



「──おかえり」

「……『ただいま』とは返さないからな。俺だって喜んで来たわけじゃない」


 彼はそう言って突き放す。それでも彼女の笑みは消えぬままで、どことない気味の悪さや気迫を感じる。

 そのことを悟られぬように、優貴は彼女を見つめたまま質問することにした。



「聞いてもいいか? 俺を呼び覚ましたのはあなただろ。何のために?」

「はて、記憶にないのう。わっちがいつ優貴を呼び覚ましたと?」

「……屋敷の外、風が吹いてるぞ。ごまかすなよ」


 彼女は庭を見る。優貴の言う通り、外はそよ風より少し強い風が雪を乗せて通っている。

 それが彼女の意識が揺らいでいる証だった。



「はあ……お主()()()それを望んでたではないか。ほれ、結果オーライというやつじゃ」

「『だって』、か。何か望んでて俺を醒ましたんだな。じゃあ何を望んだ?」

「……本来は、プロ・ノービスを倒した段階で終わっていた。じゃが今は、明らかに終わっておらぬ。わっちだって、どこまでが範疇はんちゅうの中なのか分からないのじゃよ。まあ要するに、イレギュラーを起こしたかったのじゃ」

「……そうか」


 優貴がそう返答した瞬間、気まずい空気が胡座あぐらをかき始めた。そのせいで辺りに沈黙が漂う。


 再会してこれはまずいだろうと、希はその空気をかき消すために会話を続行した。



「次はわっちから聞こう。届称かいしょう眼音まおの館で何をしておった?」

「RDB側についたことを報告した」

「ほう、それだけか?」

「ああ」


 優貴がそう返事した瞬間、沈黙が再び始まる。周囲の音が暇そうにしている中、同様に希が口を開く。



「……ところで優貴。これからわっちのことを『お母さん』と──」

「呼ばない、それくらい分かるだろ」

「…………冗談じゃ」


 からかっていると彼は思い、眉をしかめて返す。

 彼女は言葉を詰まらせた後、彼から視線を逸らす。


 彼女の様子を見て良心が傷んだのか、頭を掻いて話す。



「ただ後々を考えると、本当にこのマフラーは感謝してる。忍び込んで盗ってきてくれたんだろ?」


 希は視線を彼に戻す。彼は先程の彼女のように視線を逸らしている。

 彼女は、自然と口角が緩んだ顔を浮かべる。



「なに、礼には及ばぬ」


 彼女はこのままのいびつな関係でいいと感じた。むしろそれこそが救いであるとすら感じてしまった。



「さて、そろそろ時間じゃ。わっちもそろそろ行かねば怪しまれるからのう。……ああそうじゃ、『RDBはそろそろ撤退する』ぞ。お主の出番がないまま()()かもしれぬな」

「ふっ……あの人たちがそう簡単に諦めると思うか?」

「諦めない……と? ならば取締班を全て壊滅するしかないのう」

「それは、やめてほしい」


 彼の言葉に、希は目を丸くした。彼はまだ完全に『こちら側』に染まった訳ではない。彼女はそのことに、安心と不安が半々に混ざり合う心を抱く。



「私情か?」

「私情だ」

「それで()()()()()よいのか?」

「……それで終わらせないために、俺がここに来たんだ」


 優貴の瞳の奥には確かな『闘志』があった。誰に対するものなのかは分からなかったものの、希は静かに頷いて能力を解除した。



   *



 景色は無機質で趣のないものになった。路地裏のような、そんな薄暗い通路の中に二人は居た。


 彼はひたいを触った後の指を確認する。そこには和也による外傷から溢れ出る血がこびりついていた。

 また少し遅れてしまいました、申し訳ございません。


 ご愛読ありがとうございました。次回も宜しくお願いします。

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