11話 案内と相談
優貴が起床した所から始まります!
視点変更は
優貴→美羽
です!
まずは着替えをする。昨日確認した袋の中から、スーツ一式を手に取る。
……というより俺の身長やら知っているのだろうか、と思うとゾッとする。
スーツを着こなし、ネクタイも孤児院の授業を少しずつ思い出しながら、何とか結ぶことができた。
丈は本当にピッタリだった。……まあいいか。
持ち物は特に無くて、部屋の鍵だけを持って外に出た。
*
「優貴くん?」
俺を呼ぶ鳥の囀りのような声に振り向くと、そこにはそこそこ大きいリュックを背負った美羽がいた。
「そうか、大学に行くのか」
「あっ……うん」
やはり気まずかった。彼女の素っ気ない態度は昨日のことが原因だろうか。……本当に気まずい。
*
寮を出ると何事もなく美羽と別れた。取締所と大学は別方向らしい。
やりきれない気持ちのまま、俺は俺の仕事場へと向かった。
*
「おはようございます」
部屋に入ると俺は口だけで挨拶をした。その声に真っ先に反応したのは聖華さんだった。
「おっ、優貴おはよう! スーツ姿似合ってるねぇ」
「あ、ありがとうございます……」
少し照れて席に座る。おもむろにパソコンを開くが、何をしたら良いか分からずに閉じる。
そういえば菫さんが居ないようだ。隣の聖華さんに尋ねてみた。
「菫さんはどこにいるんですか?」
「菫ちゃん? あっちで朝ご飯を作ってくれてるよ!」
実は俺は少々家事ができる方だ。腕が鈍らないうちに菫さんを手伝いたいのだが……。
「朝ご飯できたよ」
昨日と同様、水色のエプロンを着た菫さんが室内に入ってきた。また班長に静止されて俺は席で座って待つことになった。
*
「優貴さん」
食事が終わり、席で暇を持て余してると、凛さんが俺を呼ぶ。
俺が彼女のほうに向き直ると、彼女と目があった。
改めて見ると真っ赤なフレームの眼鏡と黒いスーツが良く似合う女性だな、と思う。こういう格好が似合うというのは珍しいが。
「なんでしょう?」と返すと、彼女は立ち上がって俺の元へ寄ってきた。
「今日はここの案内を、と思いまして。宜しいでしょうか?」
ちょうど部屋の名前が分からない所だったので、ベストタイミングの彼女だ。
「はい、是非」
改まってそう返すと、彼女はどことなく上品な笑みを浮かべる。彼女の前世は王女だったのか、と思うほどに。
*
彼女は退室した部屋を手のひらで指す。指で差さないあたり、礼儀正しい人柄が伝わる。
「今わたくしたちが居た所は『事務室』です。警察庁の方々の書類の手伝いをするための場所です」
「……どうして手伝いを?」
昨日の刑事のことを思い出すと反吐が出そうだ、そんなやつらの手伝いなどまっぴらごめんだ、と思っての質問だ。
彼女は感情を顕にせず、淡々と説明する。
「居場所のないわたくしたちを保護して下さっているので、ご恩と奉公という感じです」
「ご恩と、奉公……」
要は恩を返すということか? ……少々モヤモヤとした気持ちが胸の中を漂うが、何も言わないでおいた。
話が解決し、彼女は事務室に背を見せた。俺もそれに倣って後ろを向くと、正面の出口を除いて四つの扉があるのと一つの階段があるのを確認できた。
今思うと廊下の広さはそこそこで、横幅は人がだいたい4人分、縦幅はその3倍ほどくらいか。
彼女はわざとらしい咳払いをすると話し始めた。
「まず手前の右手にありますのは『台所』です。そこで菫さんが調理して下さってます」
その部屋の奥では水が勢いよく出ている音とカチャカチャと言う音がリズム良く聞こえてくる。
朝食の後片付けをしているのだろう。
「そして手前の左手にありますのがお手洗いです。さらにそことその奥の部屋は繋がっており、奥の部屋はシャワー室となっております」
「そこのシャワーは使ってもいいんですか?」
俺の問いに彼女は振り向いて答えた。
「まあ使ってもいいですが、今はそこまで使われていませんね。皆さん寮の個室とかのシャワーを使いますし」
確かにここのを使えば、場合によっては気まずいなんてもんじゃない不幸があるかもしれないからな……。
「まあそれは置いておくとして……奥側の右手には『会議室』があります。たまに会議をしたりするので、よく覚えてくださいね」
(画像はイメージです)
彼女は眼鏡のブリッジをチャキ、と上げる。眼鏡をかけることになれば、たまにそれをやらないといけないのだろうか?
「それでは2階へ行きましょうか」
俺と彼女で、会議室と調理室の間にある階段を登った。
*
上に登ると手前に2つ、左右に1つずつ扉が見えた。
「まあ登ってもらいましたが、基本的には過去の事件などが集まっている資料室です。ですが左の部屋だけはテーブルと椅子だけの簡素な部屋となっています」
(画像はイメージです)
そこは昨日の俺と班長、そして菫さんと一緒に行った部屋だ。……まあ、何が起きたか回想はしない。
「罪人取締所は以上ですね。特に何の変哲もない施設です。……何か質問は?」
凛さんがそう告げる。質問か……ああ、一つあるな
「じゃあ一つ。もし俺たちが、仕事が終わって寮で寝ていて、その間に罪人が来たらどうなるんですか?」
「事務室とか寮の班長の部屋には電話があります。その電話とかけてきた被害者の方の電話が繋がります」
電話……そういえば班長の机とかにあった気がするな。
そして寮にもあるのか。眠りを邪魔されないといいけどな……。
俺の引きつった笑みを見ることなく彼女は続ける。
「さらに、逆探知などの技法を用いてかけてきた方の居場所を大まかに特定することができます。緊急事態で被害者の方が場所を伝えられないときに便利ですね」
「なるほど……やはりしっかりとしてますね」
「これでも、一応警察の組織なので」
彼女はにこっ、と上品に可愛らしく笑った。
*
彼女から『お手伝い』を嫌々だが教わって、何とか班員らしくなってきた。
正直パソコンは授業以外では使ったことがないので、今はキーボードをぎこちなく打つまでだ。
エプロン姿の菫さんが入ってきたのはそれから間もないことだった。
* * * *
学校の食堂は相変わらず混雑していた。そんな中でも上手く席を取れた3人は雑談をしながら昼食タイム。
「四講目の外国語本当にダルかったんだけど……。三講目の体育の延長で良かったってー!」
黄緑の髪の毛を一つに束ねている菜々子は机に突っ伏して愚痴っていた。
まあ彼女はただでさえ運動好きなのに授業が走る競技だったからなぁ、陸上部の血が騒ぐって感じだね。
「体育は体壊しかねないから二講続きはダメ。むしろ三講目が国語のほうが良かった」
黄色のボブカットの真理奈は机に乗っている菜々子の頭を軽く小突いた。
彼女は菜々子と違って運動が大の苦手な文学少女だからね……。走って眼鏡落としそうだったし。
で、こうなるとだいたい……
「「美羽はどっちがいいと思う……!?」」
と私に聞くんだよね……予想通り。本当、好みも真逆なのにどうしてこういう時は仲良いんだか。
「ふ、二人とも好きな教科が平等に一回ずつあったから、私はいい思ったけどねぇ……」
苦い笑みを見せないように、顔を逸らしてそう言った。
二人はギュッと私に抱きつく。私は板挟みになってもうめちゃくちゃ。
「やっぱり美羽は優しいな! うんうん、そうだよなぁ!」
「……やっぱり性格の良さが滲み出てる。流石だね、美羽」
菜々子の腕の強さやら脇腹辺りの真理奈の胸やらでとても苦しい。
……何なの、この茶番。
「どうせ、また私をからかってるんでしょ!? からかわないでよぉ、もう!」
さっきの喧嘩は演技で、私を困らせたいというのが最近の二人の遊びらしい。
……あれは本当に演技なのかな?
*
「ということで、今日は美羽の悩みを聞いてみよー!」
急にどうしたの菜々子。ということでってどういうことなの。
続けざまに真理奈が話す。
「美羽、最近の悩みない?」
悩み? そういうのなんてある訳……いや、あるっちゃあるなぁ……。
「真面目な話だけど、いい?」
二人はこちらを熱い眼差しで見て頷く。……場の雰囲気を壊したくないけどね。
私は小さな声で聞く。
「……二人はさ、『罪人』についてどう思う?」
二人が一瞬、凍りつく。ああ、やっぱり話さないほうが良かったかな……?
私が後悔していると菜々子は頬杖をして話す。
「大人たちはさ、犯罪者とか言ってるけど本当にそうなのかなぁって思うよ。だって深い理由があったのかもしれないからな」
菜々子……そんな賢いこと言える人だっけ?
真理奈も菜々子の語尾を追いかけるように話す。
「菜々子に賛成。だって人を殺した意識があって罪人になるけどさ、サイコパスの人とかは意識しないで殺してそうだもん。罪人よりよっぽど怖い」
確かに……。
全く違う観点の二人からの意見。罪人を肯定している訳じゃないけど、罪人を見下したりしてない。
どことなく、二人の言葉に温かみを感じる。
「して? どうして美羽は急にそんな話するの?」
うっ、ど、どうしよう……!
流石に私が罪人だから、なんて言えるわけないし……。何で菜々子今日に限ってそんなにするどく攻めるの……!
そうだ!
「じ、実は今日、私が罪人になる夢を見たんだぁ……。あは、はは……」
苦肉の策だけど……どうか上手くいって!
「……そっか! 美羽が罪人ねぇ、何かギャップって感じだな!」
「むしろ、それくらいの優しさなら人を殺っちゃっててもおかしくない」
「あはは……」と苦笑いを続けることしかできなかった。だって強く否定できないし……。
「って違う違う!」
菜々子が急に声を張り上げる。胸がドキリとする。
何が違うの……?
「そうじゃなくって、こういう悩みってやっぱ恋でしょ!」
「こ、こ……!?」
恋!? いやいや、私好きな人なんて……好き、な……。
『間違いなく美羽は……優しいよ』
彼の声が頭に響く。その時私がとった行動は『停止』だった。
「これは……来たね」
「ふふっ」と笑いながら真理奈は言う。
「で!? 誰誰! どんな人?」
ぐいぐいと菜々子は押し寄せる。真理奈も距離を詰めてくる。
「……ご」
「「ご?」」
「ご飯の時間終わっちゃうよ! ほらほら、早く食べないと!」
私は目の前の食べ物を次々と口にほおりこんだ。
初めて日常編を入れてみましたがいかがだったでしょうか?
くどい、寒いと思われたらごめんなさい!
次回は再び優貴視点から始まります!
もし宜しければ、次回もよろしくお願いします!