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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
9章 彼らが行動を始めた状態から真実を知り始める解明譚
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106話 いずれ会える

 和也と聖華は、優貴と闘うことになった。

 聖華せいかは欠陥のある覚悟を決めている。その欠陥の穴を怒りや憎しみという感情で無理やり埋め立ててまで、優貴はこの場で仕留めないといけないのだ。


 その覚悟に感化された和也かずやは、優貴ゆうきに顔を向けながら靴の側面に触れる。



「優貴、俺達は……()()戦わないといけねえのかよ? 本当に、それがお前のしたいことなのか?」


 和也は、今まで一度たりとも優貴に感謝を忘れたことはない。自分が洗脳されたあの時、傷ついてまで助けることを選んでくれた彼には。

 だから聖華のように──割り切って心を鬼にできなかった。


 優貴は顔を下の方に傾けてから、ゆっくり目をつぶる。



「……お前や聖華さん、そして取締班の皆と出会う前に、すべきだったな。これは論理的じゃないが」

「っ──《発動》!」


 和也は能力を使用して優貴に飛びかかる。自分が感情に毒される前に。



「【五蕾ごらい凶鐘きょうがね】!」

「っ……」


 胸辺りを狙う和也の膝蹴りを、優貴は腕を重ね合わせて受け止める。

 しかし、その衝撃は腕だけで解決しないものだった。優貴は脚に体重を乗せるものの、後ろへ吹き飛ばされる。



「《発動》、【憤懣ふんまん脚薙きゃくし】!」


 優貴が着地する隙を見て、聖華は彼の脚を薙ぎ払うために障壁バリアを地面に這わせて素早く展開する。

 聖華の思い通り、彼はすね辺りに障壁が接触すると体を宙に浮かせる。


 和也は障壁の上を走り抜けて優貴を追う。

 障壁が優貴側に展開しているのもあるのでわずか数歩でたどり着く。



「前も言ったけど──」


 優貴が障壁上で体勢を整える前に、和也は脚を振り上げる。



「──お前のこと、もう何にも分かんねえんだよっ!! 【五蕾ごらい禍槌かづち】!」


 優貴のうなじに和也の足が振り下ろされる。金槌よりも強烈な一撃に優貴は声を出すこともできず、下に体を叩きつける。

 その衝撃の強さは下の障壁が壊れることで証明された。



「何にも分からないから──そもそもお前が何も話してくれないから、こんなことになったんじゃないのかよ!?」

「──そんな簡単じゃない」


 優貴は斜め後ろに飛び起きる。頭に血を流しながら立ち上がると、攻撃を仕掛けるために一歩ずつ近づいて来る。



「じゃあ、俺にも分かるように説明してくれよ! お前は、いつからそうなっちまったんだよっ! 【五蕾ごらいやくつば──」

「【免罪の闊歩アクィッタル・ステップ】」


 和也の迎撃を横に飛び込んで避けるだけでなく、流れる動作で視覚外に入る優貴。



「和也、危ない!」

「【断罪の拳ジャッチメント・フィスト──」

「うぐっ……!」


 とても言い表せない衝撃が後頭部を襲う。和也は先程の優貴のように、地面に倒れ伏した。


 聖華はあらかじめ、和也に注意をうながした時に障壁を展開していた。和也を攻撃するために跳んでいる優貴には防御手段はない。

 ところが、和也を殴った衝撃で跳ね上がっていることに聖華は気がついた。そのため胴体に目掛けていた障壁は狙いが外れて足元になっていた。

 聖華は当たれば良いと考え、障壁の展開を続けた。



「【激昂げっこう掌底しょうてい】!」

「──平等フラット】」


 優貴は空中で身をひるがえし、聖華に正面を向ける。そして和也を殴った時と同じように障壁を殴る。

 結果的に障壁は、彼の拳以外のどこにも触れずに散った。



「くっ……!」


 聖華は汗をぬぐって苦悶の表情を浮かべる。今のを無駄なく対応されるとは思わなかったのだ。

 すかさず聖華に体を向けて歩き出す優貴に、彼女も対応しようと障壁を出そうとした。

 しかしその時──



「《発動》。うちの敷地で暴れるのは、そこまでにしてくれないかい?」


 優貴と聖華をへだてるように、大きな壁が展開される。声の先を見ると、眉をひそめる届称かいしょうの姿があった。

 優貴も聖華もこの壁が壊れることはないと知っているため、戦闘態勢を解いた。


 優貴は呼吸を整えて、また青いマフラーを口元まで伸ばす。



「終わりだな。和也、そして聖華さん、ありがとう。取締班の皆にも、よろしく伝えてくれ」

「待て、よ……優貴」

「俺たちはまた、いずれ会える。話の続きはその後だ」


 優貴はそう言い残して、その場を後にした。



   *



「いたたたっ!」

「こらこら、暴れないで。ふふっ、まずは消毒しないと、ね?」


 向こうで眼音まおが和也を手当てしているのを、聖華はじとっと見ている。



「眼音って、最初からあんな感じだったかい?」

「ははっ……なぜだろうね」

「隠さなくてもいいよ、実親なんだろ? しょうから聞いた」

「翔……? ああ、恐らくリアムだね。そうか、今はその名前なのか」


 届称は目をゆっくり閉じて安らかに笑う。過去の出来事を懐かしむように。

 しかしすぐに意識を()へ向けると、楽しく笑いながら消毒液を付ける眼音を見た。



「あの笑顔も口調も、全部彼女の無意識なんだ。子を目の前にすると、親はああなってしまうだろう?」

「さあね。生憎、そういうのにあんまし興味持てなくてねえ」


 聖華は薄目を開いて紅茶を飲み干す。



「……そうかね。まあそれは置いておくとして、私たちを尋ねたのは七等分の真実を聞くためだろう?」

「話が早くて助かるよ。あんたは何を話せるんだい?」

「私は──」


 彼は神妙な面持ちを顔に出す。聖華が見る中、彼は間を空けて話す。



「──罪の能力がどうやって人々に伝染したか、だ」

 今週の水曜日にも投稿したいと思います。


 ご愛読ありがとうございました。次回も宜しくお願いします。

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