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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
9章 彼らが行動を始めた状態から真実を知り始める解明譚
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104話 来客

 (この話は先週の水曜日に投稿した話、『真実の写真』の続きです)


 班員たちは、翔の記憶を映した写真を見て戸惑いを隠せずにいた。

 精霊のような物体オブジェクト、怪しく光り輝く宝石、どれも言葉なしでは分からないものばかりだった。

 考察しようにも、常識というかせが外れない。だが枷がついたままでも、ある程度は情報を得ることができた。



「ちょいと、この写真の女の人見とくれ。多分、眼音まおだろ?」

「うん、間違いないね。彼女のお腹も膨らんでるから、この後に和也かずやくんが産まれたのかもね」

「ねえねえ、みんな。こっちには白い髪の女の子がいるよ。この子のことしょうくんやサーシャが言わなかったから、相当重要人物なんじゃない?」

「残りの五人の科学者のうち、誰かがその情報を持ってるってことですよね。届称かいしょうさんと眼音さんのどちらか一方が持ってればいいんだけど……」


 一見すると冷静に分析を進めているように見える彼らだが、全員が困惑を隠せずにいた。


 またその間、和也は無言だった。まだ自分の生い立ちを信じきることはできずにいたのだ。

 だが無言であるそれ以上の理由は、自分に苛立っていたからだ。



わりいみんな。俺がその時のこと覚えてたら良かったんだけど……っああ、もう! なんでこんな大事なことも覚えてねぇんだよっ!」


 和也はそう言うと、自分の頭を何度かはたく。



「だ、大丈夫だよ! 落ち着いて、和也くん。思い出したらその都度教えてくれればいいから。だから自分を責めないで、ね?」

美羽みうの言う通りだよ。そんなに自分に怒ってるエネルギーがあるなら、今日の分のトレーニングをもっとハードにしてやろうかね?」


 美羽と聖華せいかの励ましで、和也は我に帰った。



「そう、だよな。俺がまだ思い出せなくても──」


 和也はその後の言葉をそっと伏せた。


 ──優貴ゆうき、お前は思い出したんだろ? だから、俺がまだ思い出せなくてもお前から聞けばいい。


 彼は心の中でそう思っていた。



「提案する。これだけじゃ分からないから、届称と眼音にも聞いてきて。七分の四も集まればある程度考察できるはずだから……」


 翔の声のトーンは落ちている。そう言ったのは、班員の混乱を解消したいからだろう。


 椿は処理できない情報を頭の片隅に置く。



「翔くんの言う通り、二人に話を聞きにいこう。ここで頑張って考えるよりは、きっとその方がいい」

「それもそうだねえ。ただ今回は、前と違って戦う訳じゃないから人数は絞った方がいいかもねえ」

「──それもそうだね。じゃあ二人で行くとして……」


 彼はぐったりと横たわっている妹の方を見る。



「班長はここに居ていい、あたしが行こう」

「いやでも、この中で車を運転出来るのは俺しか──」

「何言ってんだい、あたしだって免許は持ってるさ」


 椿は他にも何か言いたげだったが、聖華はそれを無視した。



「ま、あんたが京之介(きょうのすけ)和葉かずは、他の人を巻き込みたくないって気持ちは分かってるつもりだ。だけどあたしの運転が信用ならないなら、その二人に連絡取ってもいいよ」

「……いや、聖華さんの運転で行こう。──よし、そしてあと一人は誰が乗る?」


 椿は取り繕った笑顔を見せる。

 一人を除く班員は、嫌な予感がして顔を逸らす。


 和也が手をあげる。



「俺、行ってもいいか? ……もしあの二人が俺の両親なら、会ったら何か思い出せるかも」

「よし! じゃあ早速、あんたの両親のとこに行くよ! 準備しな!」


 聖華は間髪入れずに力強い声を出す。


 天舞音あまねは和也に「ご武運を」と声がけした。



   *



「よっし、着いたね! ……おっ、椿の運転よりも早く来れたんじゃないかい?」


 聖華はそう言って運転席から降り、爽やかな笑顔で体を伸ばす。



「ん? 和也?」


 聖華は車の外から助手席を覗く。そこには青白い顔で意気消沈している彼の姿があった。


 和也はどうにか魂を戻すと、震えた腕で助手席のドアを開ける。

 両親のことが頭から飛びそうなほど、彼女の運転は非常にパワフルだった。

 かすれた、それこそ死んでしまいそうな声で話す。



「あ、RDBの奴らを、車に詰めて運転したら……全部解決するぞ」

「ん、どういう意味だい? ああ、車酔いしたのかい。中に入ったら少し休んでな」


 聖華はそう言って豪快に笑う。そのテンションのまま、インターホンを一回押す。



 しばらくして出たのは、眼音だった。



「ご、ごめんなさい。今来客がいまして……」


 彼女の声は、おどおどとした揺らぎを見せている。そして緊張しているからなのか、声を裏返らせた。

 なにより、いつもは冷静を見せている彼女に似つかわしくない、日本語の不適切さ。


 聖華は緊急事態だと確信した。



「罪人取締班の聖華だ、何があった? 助けがいるなら門を開けてくれ!」

「いえ、助けというより──え? 帰るって……」


 眼音の音声はそこで途絶えた。それと同時に門がひらく。


 少しだけ体調を元に戻した和也は、聖華に問いかける。



「何が、あったんだ?」

「さあ、あたしにもさっぱりだ。とりあえず、家の中に入──」


 聖華は声を詰まらせる。恐怖から、彼女の動悸が早まる。

 眼音が怯えたような声を出すはずがないからだ。翔があんなに評価していたあの眼音が、だ。


 彼女は次に、門の奥からある気配を感じ取った。不確かで奇妙なほど、おぞましい気配を。

 本能が臨戦態勢を取れとうるさく叫ぶ。この先にいるのはよっぽどの強敵だ、と言わんばかりに。



 和也も同様、ある気配を感じ取った。不穏かつ安心するような、そんな不思議な気配を。



 ろうそくは頼りない光を放つ。なので、奥の様子を見ることはできなかった。

 だが『来客』の足音が近づくにつれ、その正体が次第に明らかになっていく。


 灰色のスーツ、黒に近い靴、そして青いマフラー。

 『来客』がゆっくり顔を上げるのに対し、二人は目をゆっくりと開いて動揺を示した。


 『来客』は、口元をおおっていたマフラーを下げる。



「……久しぶり、だな」


 『来客』──優貴は、まるで子どもを見守るような、そんな穏やかな笑みを浮かべていた。

 ご愛読ありがとうございます。


 次回も、次の水曜日(18時)に投稿したいと思いますので、宜しくお願いします。

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