102話 真実に近づく二人
遅れてしまい、申し訳ございません。
サーシャと話した後、椿は喫茶店『エンカウンター』を後にした。
初めにゆったりと進んでいた足は、徐々にその勢いを増して罪人取締所まで駆けていく。
──そんな予感はしてた。班員の中で一番、本心が分からなくて自分のことを話さなかった人。才能とかで片付けられないほどの知識も持っている……彼しかいない
執務室の扉を開ける。椿が乱した息を整えて言う。
「……教えてくれるよね、翔くん」
その場の全員の注目を浴びる中、彼はゲーム機を下ろしてソファーから立ち上がった。
「提案する。全員、会議室に集まろう」
*
その場に集まったのは椿と翔の他に、聖華、美羽、和也、天舞音、菫も居た。
むしろその場に居ないのは、病院で療養中の芽衣のみだった。
「謝罪する。ここに集めたのは僕だけど、僕は全てを話せるわけじゃない」
「ちょいと待ちなよ。そもそも全てってなんだい? 翔は何を知ってる?」
「そこは俺が話すよ」
椿は、今までサーシャという少女と接触していたこと、RDBにおけるレジスタンスの存在、そして先程彼女が話した『無法騒動』と『七人の学者』の関係性を全て話した。
結果は当然……混乱だった。
「ひとついい? お兄ちゃん、そのサーシャって人と会ってるなんて一回も──」
「ま、そんな怖い顔してもしょうがないだろ? つまるところ、あたし達を危険を及ぼさないように遠ざけたかったんじゃないのかい?」
「でも俺たちは、もともと危険なことばっかりやってんだぞ? 今さらどうってことはないだろ?」
「そうですよ! それに、班長に万が一のことがあればどうするんですか!?」
班長の行動に、疑問を持つ者、ある程度支持する者、批判する者が言葉を行き交わせた。
「ごめんね。でもこれが俺にとって、せめてもの罪滅ぼしだと思ったんだ」
「罪滅ぼしって?」
天舞音の問いに、上手い言葉が出てこなかった。それでも自分の気持ちを、椿は最大限話そうと思った。
「……俺がスパイになった日から、ずっと自分が恥ずかしくて情けないって思ってた。そんな俺の前にサーシャが来て、レジスタンスと協力体制を作り始めたときにチャンスだって思った。せめて少しでもRDBのことを知って、後々の戦争に役立てたかったんだ」
「っ……サーシャもあまり乗り気じゃないだろうけど、本当はその計画を止めたかったんだと思う。だから班長の前に表れたんだと思う。だから……ごめん、僕のせいだ」
「いや、翔くんが謝ることじゃ──」
「反論する。僕が謝ることだよ。あの時あいつを止めてれば、こうなってないんだから……」
椿は翔の顔を見る。苦虫を噛み潰したような顔をしていた彼は、その時のことを本当に後悔していた。
一つ震えた深呼吸をすると、彼はいつもの表情に戻って話す。
「……僕から話せることは、残念ながら一つだけ。それは、サーシャの言った七人の名前だ」
サーシャが言った七人とは、まさしく無法騒動によって集められた七人の学者のことだ。
「列挙する。まず僕の本当の名前は『リアム・レンジャー』。……知ってると思うけど、日本人じゃないんだ」
「いや、いやいや、今初めて聞いたよ!? 顔立ちも日本人っぽいから疑いもしなかったよ!?」
天舞音は思わず口を挟んだ。この場にいる全員、今まで彼が日本人であることを疑わなかった。
しかし、その場で一番驚いていたのは翔だった。
「……驚愕した。誰も知らなかったんだね。でも、翔っていう名前が気にいってるから、呼び方は変えなくてもいいよ」
「はあ、今日は新情報の特売日だねえ。頭がズキズキするよ」
「翔さんが外国人ってことは……これから英語めっちゃ教えてもらえば英語ペラペラなんじゃね!?」
和也の言葉を否定する気力もない翔は、代わりにため息を残す。
「……続ける。班長が話してたサーシャは、『アレクサンドラ・プラヴダ』、あとは会いに行った人もいる『郭届称』──日本語読みで届称だね。そして美羽達が接敵したらしい、『ルドラ・ダブラル』。そしてRDBの長、『ノア・カステルノー』」
「ん? 眼音さんって今言ったっけ?」
「っ……ここからが、核心に触れるから、よく聞いて欲しい。残り二人が、君たちにとって一番真実に近づく人物だ。それは、『来藤眼音』と『上浦希』だ」
「ちょっと待って……! 来藤と上浦って……!」
驚く美羽を無視して、翔は和也の顔をじっと見る。
「っ……和也、君は届称と眼音の子だ」
短くなってしまい申し訳ございません。代わりに、今週の水曜日18時に投稿させていただきます。
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