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エンドロールは28年後に  作者: たな
ライ編
1/19

01 12歳、冬の日のパーティー会場にて

よろしくお願いいたします。


「ライ、待ちなさい!」


制止の声を無視して、会場内を駆け回る。

堅苦しい形式ばかりの挨拶をして回るなんて冗談じゃない、走りにくいドレスのスカートを裂いて少女──ライ・シャレットは窓の外へ飛び出した。


はて、今日は何を名目にしたパーティーだったか?

いや、いい。知ったところで分かりはしない。

なんせ、ライはこの王都には先日来たばかりだ。

兄の留学に引っ付いてやって来た彼女にとっては、どんな理由であれ「ふーん」の一言で興味も持たぬことだろう。


「なんだあの娘は!」

「なんて問題児だ。」

「元気で可愛らしい子供だねぇ?」

「ははは! なんだあれは。」


会場からは先ほどのライを指して笑う声が聞こえる。

逃げ回り、柱を登り、シャンデリアの上を走り……エトセトラエトセトラ。

まぁあれだけ目立つ行動をしたのだ、騒がしくならない方がおかしいと言うもの。

……今頃兄は頭を抱えている頃だろうか?

ふふん、と小さく笑ってライは屋根からテラスへと身軽に下り立った。


「あ、」


下りてから、人が居たことに気が付いた。

美しい、少年だ。

年齢はライよりも上だろうか。

まだ幼さをそのまま残した輪郭、雪のように白い肌、照明の明かりを受けて艶やかに輝く焦げ茶色の髪。

夜空を閉じ込めたような瞳は大人びた光を携えており、すらりと伸びた手足は細く、しなやかであった。

その少年の美しさは、率直に言うのであれば、人間とは思えぬ美しさだった。

芸術品、そう説明されれば素直に信じてしまうだろうくらいに、その美しさは無機質だった。



「……君は、」



声をかけられて、初めて彼がすぐ近くまで歩み寄ってきた事に気がついた。

なんてことだ!

パーティーをボイコットしている最中の彼女にとって、少年とここで話すことは避けたい案件だ。

人を呼ばれたら困る、小言を言われたらむかつく、とにかく良いことなど何もない。

ここは逃げるが最善手、とすぐ近くの階段を下りて中庭を目指した。


が。


「待て、腕を擦りむいているじゃないか。」

「え? ああ、本当ね。」


手首を捕まれては逃げられない。

何より、ハンカチを取り出し傷を手当てしてくれる少年には、敵意のようなものを感じなかった。

少年にはきっと、おそらく、ライを嘲笑したり

、叱ったりなどをするつもりはないのだろう。

そのことに、ライはひどく安堵した。


「……どうした?」

「ふふ、ごめんなさい。」


表情も声色も変化ないが、笑うライにきっと不思議に思ったのだろう。

そう思う。


「私、叱られるのだと思って。身構えちゃった。」

「叱るのは後だ。」


間髪いれず、少年が答える。


「あれだけ騒げば、ご両親はさぞ頭が痛くなっているだろう。

だがそれについての小言は後だ。

まずは、君のドレスをどうにかしなければならない。

君は、そんな姿で歩き回る事がどれほど常識外れなのか理解して──」


矢継ぎ早に続けられる言葉を半分も聞いていなかったが、ライは理解した。

前言撤回、この人もまわりと同じだ。


「結構よ、離して!」

「な、」


ライ・シャレットの性格を簡単に話すと、彼女は大層甘やかされて育った、ワガママな娘だ。

舐めかけの飴玉、子供のかんしゃく、予測不能の嵐。

それらを全部混ぜ込んだような人間性をしている。


「え? あっ、……!」



ライ・シャレット。

12歳、冬の日のパーティー会場にて。



「やだ、えっと、誰かー! 誰か来てーー!」



後に婚約者となる少年、キネヤ ヒムロを階段から突き飛ばして怪我を負わせる。



そう、物語はここから。

はじまり、はじまり。


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