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第8夜 入院-それは人生の交差点- 後編・リア充退院しろ!

 こんばんは。

 枕崎まくらざき 純之助です。

 今夜は昨夜の入院話の続きをしましょうか。


 僕が入院し始めた時、その大部屋の真向かいのベッドには若い男子が入院していました。

 年齢は多分、僕と同じか少し上くらいでしょうか。

 彼は僕が退院する少し前に先に退院していくことになるのですが、僕は入院中、この男子と一度も口をきくことはありませんでした。

 というか話しかけるタイミングがなかったのです。


 なぜなら彼の隣には付き添いとしてほぼ1日中……女子の姿があったからです。

 何だあれは……?

 もしかしてあれは彼女か?

 もしかしなくてもそれは彼女でした。


 入院のお見舞いに彼女きてんの?

 ふーん。

 いいねー。

 その頃には無かった言葉ですが、今で言うリア充です。


 いや、別に彼女がいるのをひがんでその彼氏クンと口をきかなかったわけじゃないですよ。

 「彼女いる奴となんか話してやんねえからな」なんて1ミリも思っていません本当です。

 口をきかなかったのは、その彼氏クンには常に彼女がくっついていて2人だけの世界を作り上げていたため、話しかけるすきがなかったからなんです。


 実際その彼女は面会時間をフルに使って朝から夕方まで彼氏クンのお世話をしていました。

 お世話っていったってそんなに四六時中やることがあるわけじゃないので、要するにずっと一緒にいてイチャコラしていたのです。

 僕の真向かいのベッドでね!

 もちろん病院の大部屋ですし、そんな変なことはしてないと思いますよ……見える限りでは。

 ただ、常に目の前でキャッキャウフフとやられると、少々イラッとくることは否定できません。


 個室でやれ個室で!

 ここは大部屋だ!

 あっコラッ!

 だからといってベッドの周りのカーテンを閉めるな!

 陰に隠れるな!

 まったくけしからんよ最近の若い者は!


 ですよねぇ?

 脱腸だっちょうのオジサン。

 そう思って隣を見ても脱腸だっちょうのオジサンはいつも通りニコニコ。

 この人は仙人なのかもしれない。


 とにかく看護師さんが来ようと怒髪天どはつてんおじいさんが騒ごうと、カップルの世界は揺るぎません。

 彼らは構うことなくイチャイチャします。

 まあ今にして思えば仕方ないんですけどね。

 若い男女だし、何よりも入院という特殊な状況が2人の恋を燃え上がらせたのでしょう。

 甲斐甲斐かいがいしく彼氏のお世話をする彼女と、そんな彼女に大事にされてご満悦の彼氏。

 10代のカップルになかなかそんな状況ないですしね。


 だが、この俺とていつまでも指をくわえて見ているばかりではないぞ!

 真向かいのカップルめ!

 「お向かいさん毎日ボッチでかわいそう~。物欲しそうな目でこっち見ないでキモ~い」とか思うのもそこまでだ!(被害妄想)


 入院して4日目。

 ついにこの俺の元にも女人にょにん降臨こうりんした。

 え?

 枕崎まくらざきのことだから、どうせ母親だろって?

 残念でした読者の皆さん。

 お母さんではありません。









 おばあちゃんです!!!


「純之助。アイス買ってきたけど食べるかい?」


 ありがとう今は亡きおばあちゃん(涙)。

 そしてこの日はおばあちゃんだけでなく、親戚しんせきのおばさんも一緒です。

 どうだ真向かいの彼氏クン!

 2対1で俺の勝ちだな!


 そんな僕をあわれんだのかどうかは知りませんが、僕が入院して6日目の朝にカップルは晴れて退院していきました。

 そうだそうだ。

 リア充はさっさと退院しろ!


 しかしその彼女は最後までえらかったです。

 退院の日も朝イチから来て、彼氏の荷造りを手伝っていました。

 もうオマエラ結婚しろ。


 そして、僕も翌日の退院が決まったのですが、1日早く隣の脱腸だっちょうのオジサンが退院することになりました。

 脱腸だっちょうのオジサンは最後までニコニコしながら僕に挨拶あいさつをしてくれ、余ったお見舞い品の高級プリンまで僕に全部くれました。


 ありがとう脱腸だっちょうのオジサン。

 色々と殺伐さつばつとした入院生活だったけど、オジサンの笑顔は僕のいやしでした。

 脱腸だっちょう治って良かったね。

 僕は感謝の気持ちで脱腸だっちょうのオジサンを見送りました。


 しかし……話はこれで終わりません。

 最後の最後でヤバい奴が入院してきたのです。

 カップルがいなくなった僕の真向かいのベッドに入れ替わりに入って来たのは30代くらいの男性でしたが、その異様な風体に僕はギョッとしました。


 その男は顔にグルグル巻きの包帯を巻き、三角巾で右腕を吊り、片足にはギプスをはめていました。

 大ケガじゃねえか!

 どう見ても普通じゃありません。


 絶対これケンカでボコボコにされた人だよ。

 物腰もチンピラっぽいし。

 こ、抗争に負けたのかな?

 包帯男は僕を見るとニヤリと笑みを浮かべて言いました。


「青年。メシの時間は何時かね?」


 青年なんて人生で初めて呼ばれました。

 包帯グルグル巻きの顔でそう言う男の迫力に圧倒され、僕はシャキッと背すじを伸ばしてご飯の時間を伝えます。


 カップルがいて甘々だった昨日までの雰囲気とは打って変わり、目の前にはガラの悪い包帯男。

 そして隣にいてくれたいやしの脱腸だっちょうオジサンはもういません。

 僕にとって人生初の入院生活はそんな奇妙な緊張に包まれて幕を閉じました。


 翌日、僕は無事に退院を迎えました。

 もしあと数日退院が遅れていたら、包帯男にトドメを刺しに来た鉄砲玉の襲撃に巻き込まれて僕は命を落としていたかもしれません。

 ふぅ。

 危ないところだったぜ。


 以上が僕が高校生の時に初めて入院した時の話です。

 正直もうだいぶ前のことなので記憶が曖昧あいまいになっている部分もありますが、今でも色々と思い出す入院生活でした。

 皆様ももし入院することがあれば、その際は良い同室者と巡り合えるといいですね。

 その病室に怒り狂うおじいさんやイチャつくカップルや抗争に敗れた男がいたとしても、生温かい目で見守ってあげましょう。

 まあ入院しないのが一番ですが。


 さて、久々のPillow Talkにお付き合いいただきまして、ありがとうございます。

 またいつかの夜にお会いしましょう。

 おやすみなさい。

 いい夢を。

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