第9夜 大人は分かっちゃくれない
こんばんは。
枕崎 純之助です。
いよいよ「平成」も残すところあとわずか。
5月1日から元号が「令和」に変わりますね。
でも最近、何でもかんでも「平成最後の~」とか言い過ぎだと思いませんか?
平成最後の生放送、平成最後の大セール、平成最後の……
もういいから!
もう分かったから!
言いたくなるのは分かりますが、「平成最後」という言葉に僕はもうオナカいっぱいです。
思えば昭和が平成になった時も、20世紀が21世紀に変わった時も、そんな大した変化はありませんでした。
大晦日が元旦に変わった瞬間に世界が変わるなんてこともありません。
いつもと変わらぬ1分1秒が流れていくだけです。
ですから皆さん。
心を平静に保ち、粛々と元号の移り変わりを見守ろうではありませんか。
え?
もし平成最後の日に僕の小説のブクマがドドドッと大幅増になったらどうするかって?
もし「令和」に変わった瞬間に僕の小説のPVがガガガッと大上昇したらどうするかって?
……。
来ぉぉぉぉぉぉぉいっ!
平成最後のブクマ大幅増来いやぁぁぁぁぁぁっ!
PV令和スタートダッシュ・カモォォォォォォン!
……コホン。
と、取り乱してすみません。
夜も遅いことですし粛々と久々のPillow Talkを始めましょうか。
さて皆さん。
公文式ってご存じですよね。
古来より日本全国津々浦々の子供たちが勉強するためのあの鉄板ツール。
僕も子供の頃に公文で勉強をしていました。
その頃、僕の周りの友達たちは町内にある公文の先生のところまで通って勉強していましたが、僕は少し事情が違っていて、習い事の関係で元々知り合いだった隣の市に住む公文の先生が、僕の家へと教えに来てくれていたのです。
というのも、その公文の先生は自分の娘さんをピアノ教室に通わせていたのですが、そのピアノ教室が僕の家のすぐ目の前だったのです。
娘さんがピアノを習う1時間の間、お母さんであるその先生がついでに僕の家に公文を教えに来てくれたのです。
ついでとはいえ、ありがたいことです。
さて、僕が「大人は分かっちゃくれねえよ」と思った出来事が起きたのは、まだ暑さが本番になる前の初夏のある日のことでした。
いつものように自宅に来てくれた先生が僕の弟にアイスを買ってきてくれたんです。
このPillow Talkでも幾度か紹介している6歳年下の弟です。
当時、弟は5歳くらいで、先生からアイスをもらうと喜んでいました。
僕ももう小学校高学年でしたから、弟にアイスをくれた先生に対してお礼を言います。
「先生ありがとうございます」
幼い弟が良くしてもらったんだから、兄としてお礼を言うのは当然のことです。
いやまあ格好いいことを言いましたが、まだ小学生の僕が精一杯の背伸びをして大人の真似をしただけなんですけどね。
だけど先生はキョトンとした顔でこう言ったのです。
「え? 純之助くんの分はないわよ?」
「……え?」
いや知っとるわ!
別に僕も自分の分がもらえると思ってお礼を言ったわけではなくてですね……。
そう説明しようとしましたが、うまく言葉が口から出てこず、僕はアタフタするばかりです。
くっ!
いかん!
このままではまるで僕が自分の分のアイスも期待して「ありがとうございます」って言っちゃったみたいじゃないか!
そしてアイスがもらえないからガッカリしているみたいじゃないか!
僕はそんな駄々っ子じゃないぞ!
何とか言い訳せねば。
先生にうまく説明しようと悪戦苦闘する僕の横では、幼い弟がノンキにアイスを食べています。
弟よ。
兄はおまえのためにお礼を言ったのだぞ。
ガリガリ君食べててもいいから、せめて兄のがんばる姿を見てくれ。
「いや、あの、そうじゃなくて……」
「ごめんね。弟君の分しか買ってなくて」
「いえ、それは別に……」
「純之助くんもアイス欲しかったの? ないわよ」
「はぁ。いや、いいんです」
先生は明らかに僕がアイスを欲しがっていたと思っている様子です。
納得いかねぇぇぇぇぇ!
アイス欲しくないから!
全然ガッカリしてないから!
でも小学生の僕ではそこまでがコミュニケーション能力の限界でした。
大人の先生に対して、自分の考えを順序立てて説明できるスキルはありません。
多分、先生はまだ11歳程度の子供である僕が、弟への親切に対して兄として礼を言うなんて思ってもいなかったのでしょう。
先生。
僕は兄として振る舞っただけなのです。
まあ今にして思えば弟の分だけアイスを買ってくる先生もどうかと思いますが、その時の僕は別に自分の分のアイスがないことは何とも思いませんでした。
ただ、弟が親切にしてもらったことに兄として感謝しただけ、というのを先生に分かってほしかったんですね。
くっ。
大人は分かっちゃくれねえよ。
でもこれは今ではすっかり大人になった僕自身に対する戒めのような出来事として記憶に残っています。
子供って大人が思っている以上に物事を見ているし考えていますよね。
見た目以上に大人の思考ができる子供もいるんです。
子供だからって侮ってはいけませんよね。
だから僕は相手が子供であっても、ちゃんと1人の人間対人間として接することを心がけようと思っています。
そんな出来事でした。
結局、先生に対して自分の考えを主張することは出来ないまま、それからしばらくして先生は家に来なくなりました。
なぜなら……僕はその公文の訪問教室をクビになったからです!
クビですよクビ。
「はっ? クビ?」って思うでしょ?
教え方が下手な家庭教師の先生が、生徒側の親からクビを言い渡されることはあるかもしれません。
ですが月謝を払っている生徒の方が先生からクビにされるとか、よほどの問題行動を起こしたのかと思いますよね。
枕崎おまえは一体何をやったんだよと読者の皆さんもお思いでしょう。
僕は何もやってません。
そう。
何もやらなかったのです。
単に僕はマジメに課題をやらなかっただけです。
次までにこのプリントを何枚終わらせておいてね、という先生からの宿題をことごとくやらなかったので先生も時間の無駄だと思ったのでしょう。
先生は僕の母親と話をして、もう来なくなることが決定しました。
こうして僕は「兄として弟がアイスをもらったことへのお礼を言ったんです!」と先生に主張する機会を永遠に失ったのです。
言わないで!
自業自得とか言わないで!
そんなんだから先生からアイスを欲しがる子供だと思われたんだとか言わないで!
その後、親にこっぴどく叱られた僕は、街の学習塾へ強制的にブチ込まれました。
その先生の公文教室をクビになったのは後にも先にも僕くらいのものでしょう。
今でも公文という言葉を聞くと思い出すのはガリガリ君です。(オイ)
先生に教わった勉強のことは一切思い出せません。(コラ)
先生!
せっかく来てくれたのにマジメに勉強しなくてごめんなさい!
だけど今、声を大にして言いたい!
僕の弟にアイスを買ってきてくれて、ありがとうございました!
そして僕は決してアイスを欲しかったわけじゃありませんから!(しつこい)
さて、久々のPillow Talkにお付き合いいただきましてありがとうございます。
そろそろ皆さん眠くなってきた頃ですかね。
「令和」の足音もすぐそこまで近付いてきました。
皆様にとっての新時代が良きものとなりますよう、心よりお祈り申し上げます。
また、いつかの夜にお会いしましょう。
おやすみなさい。
以上、平成最後のPillow Talkでした。(オイコラ)