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ある戦記

ラストダンスを君と

「急げ」

ダンゾウが皆を急かす。

城はそこらかしこから轟音が鳴り響き、床や壁は振動している。

この城がもうすぐ崩壊することを周りの全てが告げていた。

僕らは走って城の出口を目指す。


ようやく城の出口が見えたところで、出口の前に人影を見た。

前を走っていたダンゾウがペースを落とし、そして立ち止まった。

「イザーク...」

ダンゾウがそう呟くのを聞いて、目の前の血まみれの人間が

"イザーク=デルタリッパー"であることが認識できた。

彼は精確に言うなればその体の半分以上を機械の体とする"機械人形"なのだった。


イザークは鋭い剣に改造されたその右手をゆっくりと前に出す。

どうやら交戦は避けられそうにない。

僕は両手で剣を構えた。隣にいたナノハ、その奥にいるタルムも同様に武器を構える。

しかし、目の前のダンゾウは手を広げて僕たちを制止した。

「...ここは俺に任せてくれ。アイツは俺と戦いたいだけだろうからよ」

「そうだよなぁ。イザーク。」

ダンゾウが声を張り上げる。

イザークはコクリと首を縦に振った。

「ダンゾウ...」

僕は崩壊する城に残ろうとするダンゾウが心配だ。

ダンゾウのやろうとしていることを制止する必要がある。

ナノハがポンと僕の肩を叩いた。

「あのイザークって奴もう長くないよ。あの傷だもん。」

「なんだかこれは水を差すべきじゃなさそうだよ」

ナノハは僕に呟く。

僕は救いを求めてタルムを見たが、タルムは僕に向けて"諦めるように"と首を横に振った。

僕は唇を噛んで、あふれ出る感情を抑えた。

もしここで、ダンゾウが死んでしまったら...

僕は気を振り絞って吠えた。

「ダンゾウ。こんなところで死んだら許さないからな。」

「早くアイツを倒して、こっちに来るんだぞ」

ぼくはハァハァと肩で息をする。

ダンゾウはこちらを振り向くとニヤリと笑った。

「了解だ。リーダー。すぐに追いつく。」


僕らはダンゾウを置いて、イザークの横を通り過ぎ、出口を目指す。

イザークはじっとダンゾウの方だけを見ながら、一歩一歩進んでいる。


------



(アイツらは城を無事に出たみたいだな。)

城はもうじき限界を迎える。

人を踏み潰すのに十分な石片が天井から幾つも降り注いでいる。

イザークはダンゾウの10歩ほど前まで来ると、足を止めた。

「俺の何勝何敗だっけか?」

ダンゾウが尋ねた。

「ふん」

イザークが鼻を鳴らす

「俺の28勝29敗だ」

イザークが面白くなさそうに答える。

「じゃあ、これで俺の勝ち越しだな」

ダンゾウがニヤリと笑う

「ほざけ。」

イザークの周りの空気が振動を始める。

やがて、その振動は切れ味を持つ無数の小さな刃となった。

その刃はダンゾウの頬を掠め、ダンゾウの頬から薄っすらと血が滲む。

「もうあまり時間がないのでな。」

「一撃で決めさせてもらうぞ」

イザークのこの技をダンゾウは知っていた。両手の刃を全快の魔力で振動させることで、

発生する衝撃波でどんな防御をも打ち砕く。

イザークの奥義である"エアショックウェーブ"だ。

当たれば防御力の高いダンゾウでも木端微塵となってしまうであろう。

今のイザークには、手加減をするなどという気持ちは一切存在しなかった。

ただ決死の覚悟だけがそこにあった。

(分かってるよ。イザーク)

ダンゾウは避ける気などさらさら無かった。

(全力で受けて立つ)

ダンゾウは背負っている身の丈よりも大きい棍棒を構えた。

そして、自身の魔力を振り絞る

「"鬼気来来"」

ダンゾウの全身の筋肉は隆起を始め、体は漆黒に変わる。

両顎から長い牙が生え、頭からは闘牛のような角が生える。

2周りほど大きくなった体で、ダンゾウは棍棒で居合の構えを取った。

イザークの周りから発生する衝撃波は床を削り、壁を削り、落ちてくる石片を砕く。

ダンゾウの鋼より硬い表皮にも無数の傷を付けている。

そして、イザークの目の前には、空気で作られた巨大な鋭い刃が発生していた。

「いくぞ。ダンゾウ。」

イザークが吠える。

「来い。イザーク」

ダンゾウは上体を沈みこませ、更に気を高めた。

イザークの前にある巨大な魔力の塊が解き放たれる時が来た。

「エアショックウェーブ」

イザークが叫ぶと同時に尖刃はダンゾウを目掛け、一直線に飛んできた。

「うおおおおおおおおお」

ダンゾウは棍棒を横に勢いよく凪いだ。。。。


-----------


「城が、、」


城から少し離れたところで、僕とナユハとタルムは城が完全に崩壊するのを見ていた。


僕はその場にへたりこんでしまった。


「ダンゾウ...」


僕が絞り出すように声を出すと、タルムが僕の頭を優しく撫でた。




暫くそうしていると、城の方から小さな人影が歩いてくるのが見えた。


ダンゾウだ。


僕は、涙を流しながらダンゾウの元へ駆けた。





--------




イザークがダンゾウの膝の上で息絶えようとしていた。

「そんな技、、いつ覚えたんだ、、」

「あいつらと旅してるうちにな」


イザークの放ったエアショックウェーブはダンゾウの渾身の居合抜きで跳ね返した。

跳ね返した尖刃はイザークを切り裂いた。


「これで俺の勝ち越しだな」

ダンゾウが寂しそうに言う。

「まあ、、そういうことになるな」

イザークがニヤリと笑う。


「すまなかったな、、ダンゾウ。最後まで付き合わせて、、」

「なあに。別にいいよ」

ダンゾウはイザークと過ごした幼少期のことを思い出さずにはいられなかった。

あの凄惨な日々を抜け出すために、お互いを高めあって生きてきたことを


「なあ、、ダンゾウ」

「...なんだ。」

「俺がいなくなっても、お前、、大丈夫か、、」

「ああ。あいつらがいるからな」



「そうか」



「なら、よかった」



イザークが息を引き取るその瞬間まで、ダンゾウはイザークの傍を離れることは無かった。





ラストダンスを君と  -終-












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