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嗅ぐ女  作者: 七月 夏喜
第4話 生ける屍(前編)
27/63

その3


 アメーバ状の細胞が向かった先には、黄白物よりも新しい白物があった。しかもまだ付着する細胞の破片が残っている。貪欲に触手を伸ばした。それに触れた瞬間、生への止め処もない欲求力が漲った。同時に研ぎ澄まされた感覚を呼び覚ます結果となる。活性化の勢いに任せて、細胞は白物とその破片の全てを取り込み始めた。ここでもまた破壊と成長を繰り返していく。ただ古い黄白物の時と再生の速度が違っていた。もともとこの白物の為にアメーバ細胞は存在していたかのようである。再生分裂して生エネルギーの充足とともに、感覚がより鋭くなっていく。細胞の繋がりを強固にして白物の堅い組織が伸びていき、管が出来上がる。その中に液体が通りだすと何処からともなく、トクンと一拍鼓動が聞こえてきた。


 それから長い時間を経て赤黒く腫脹した物体が、土の中に出来上がっている。表面を見ると細胞が蠢いていた。遂に穴が開くと、袋状のものが拡がった。途端に苦しさが込み上げ、細胞は何かを動かす。五つに枝分かれた細い棒が土の中を上方に向かって伸ばした。

 土を払いのけた先には違う空間があった。かつて漂っていた時にあった、緩やかな空気の流れを掴む。今度は別の細胞の塊に命令を与える。蠢く塊から延びた物が、ずるりと動き出した。その物体は少しずつ這い上がっていく。丁度丸くなった白物を土中から少し出した。穴からその空気が入り込んでくる。穏やかに袋に貯留していくと、少し気が落ち着いた。白物は別の物にも動くように命ずる。生長する細胞は次第にある物に形成していく。


 白物に強い衝撃が加わった。鋭い先で突く物体がいる。それは黒い被いを持っていた。一部の細胞がその先に引き剥がされた。土中から蠢くが、そのスピードにはついていけない。数回突かれた後、別の方向から同時に突かれた。白物を覆う細胞が引き千切られていく。『生』の危機に細胞は次の突く先端に纏わりついた。そのまま増殖していく。黒い物が地面に落ち、もがきながら口から泡を噴いていた。引き剥がされた他の細胞たちも一斉に締めつける。一部の細胞は淡い光を発していた。次々に落下したそれらは、黒い物を引き連れ元の場所へ戻ってくる。再び融合し、まだ終えぬ過程を継続し始める。『生』と『死』の歓喜だった。


 少しずつ形作る物体に莫大なエネルギーが費やされる。供給はただひとつだけ、白物が取り囲むように守っていた勾玉まがたまである。細胞の活性化は正にこの玉から発するエネルギーそのものであった。但し、細胞はこれを分解取り込むことは出来ない。勾玉自体が意志を持って融合する拒み、許さなかったのだ。


 再生を繰り返して次々と物質化していき、やがて様々な感覚が生まれてくる。そこへ―。


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