肆
―投馬国―
投馬国では狗奴国の使者団を迎えるための準備が進められていた。
先んじて投馬国に着いた狗奴国からの文で使者団の来訪理由は知っている。
投馬国はこの誘いに乗る気はもうとうない。
しかし、この使者団への対応を誤れば狗奴国と戦争になる場合もある。
外交手腕が試される時である。
イマジの顔にも緊張が見て取れた。
そんなときである。
イヨ一行来訪の知らせを受けたのは。
イヨは愕然とした面持ちで座っていた。
無理もない。
イヨ一行が通された部屋は、あろうことか従女が使うための部屋だった。
他国からの訪問者、しかも次代王候補なら貴賓室に通されてもおかしくはないはずである。
「私たちはここまでのようですね・・・。」
落胆したイヨの声が部屋に響く。
ホミキはもう言葉もでないようだった。
しかしナカテは
「この扱いは我が国を侮辱するものである。投馬国王はこのようなことをするような方ではないはずだが。」と疑問を抱いていた。
「我々はそれだけ低く見られている。」
イヨはそう思う。
これでは援助などとても出してはくれないだろう。
いや、今は殺される心配をしなければならないのか。
「しょせん私にはここまでが限界か・・・」
そう思っていたとき、一人の男が部屋に入ってきた。
イマジである。
「私が投馬国王イマジです。はじめに無礼をお許し願いたい。」
そういってイマジは頭をさげた。
老年に入りかけたその頭には白髪が目立つ。
「もうすぐ狗奴国から使者団が我が国にまいります。貴女方がここにいることがバレないようにするためには、こうするほかなかったのです。」
イマジの言葉を聞いてイヨとホミキはホッとした。
しかしナカテは逆に顔を強張らせる。
「その使者団の目的は邪馬台国共攻の誘いですか?」
「おっしゃる通りです。」
イマジは隠さずに言った。
「そんな!イマジ様はその誘いに乗るおつもりですか?」
一気に顔が強張ったイヨが問う。
「その気はもうとうありません。」
その言葉にイヨ一行に安堵の色がでる。
「しかし、使者団にいるある者がその策を進めた場合は考え直すかもしれませぬ。」
再びイヨらに緊張の色が走る。
「その方とは何者ですか?それに使者団にいるということは、策を進めに来るということではありませんか。」
イヨの問いにイマジは笑って答える。
「イヨ殿。その者は国にとらわれず倭国大安を夢に描く者です。狗奴国のために、とは考えない。しかし倭国のためにこの策を受けよ、と言われれば私は再考するでしょう。」
イマジの言葉はイヨ達にとっては半信半疑のものだった。
やはりこの部屋に捕らわれているのでは、とも思わせた。
しかし、狗奴国使者団の来訪を聞きイマジが部屋を去ってからは、従女によって最高のもてなしがされた。
投馬国王の好意が感じられる。
「では、倭国大安を夢に描く方の話も本当なのでしょうか?」
イヨは思う。
「その方が実在するならば、会ってみたい。」と。
使者との面会の部屋に行く途中、イマジは心の中で笑っていた。
「先代ヒミコ女王が13歳の少女を後継者としたのは本当であった。」と。
イマジはイヨの中にただならぬものを見た。
あの少女は鳳凰の雛よ。
まだまだ未成熟で自分の力量もわかっていない。
むしろ、今回の事で自信は持てず、自分を過小評価しすぎている。
しかし、あの少女は間違いなく偉人になる。
「邪馬台国の首脳陣でそれが見抜けたのがナカテ殿だけとは、邪馬台国もヒミコ様だけで守っていたということだ。」
イマジは思う。
「しかし、あの少女ならヒミコ様の代りを果せよう。いやそれ以上もあるいは・・・」
そしてイマジはついに声に出して笑った。
「今この国には臥する龍(臥龍)と鳳凰の雛(鳳雛)がいる。この二人を出会わすことができれば、倭国大安も夢ではないかもしれない。」
臥龍と鳳雛はお互いをまだ知らない。