参
―伊都国―
伊都国の国王以下首脳陣は議論を終えた。
邪馬台国の件については誰にも援助せず、静観することを。
伊都国へは、イヨ一行以外にも援軍の要請が来ていた。
その全てに応えず、邪馬台国の内乱に手出しをしないことに決めたのだ。
イヨ一行にもそのことは伝えられた。
「援助は受けられなかったか・・・。」
ホミキは落胆した。
「しかし、手出しをしないことに決まったのは不幸中の幸いですな。他勢力への援助が決まっていれば我々は殺されていた。」ナカテが言う。
「しかし、これからどうしましょう。我々に他からの援助の要請があったと伝えられたということは、こちらの所在も他勢力に明らかになったということになります。」
イヨは落ち込んだ声で言う。
「えぇ、ここに留まるのは危険ですね。移動しなければなりません。」
ナカテは少し強い口調で言った。
「しかし、ドコへ?」ホミキは困惑しつつ言った。
「私は投馬国がいいと思う。」
ナカテは自分の意見を述べる。
「投馬国!?」
イヨとホミキは驚いた。
投馬国は邪馬台国の北西の隣国であり、狗奴国とも国境が接している。
邪馬台国に次ぐ大国で、邪馬台国側と狗奴国側に分かれた倭国において、どちらにも組せず中立を保っている国である。
しかし、邪馬台国側にも狗奴国側にも友好的な外交に成功している点、戦火の外にある国とも言える。
「投馬国王は我が国とも狗奴国とも友好を保てるほどの力量を持っていらっしゃる。このまま邪馬台国が崩れれば投馬国にも戦火が及ぶことになることもわかっていよう。また、物事を見抜く眼を持っていらっしゃるからイヨ様の力量をわかるはずです。」
「しかし、危険が多すぎやしませんかな?投馬国が力を貸してくれるともかぎらない。それならば連合国のどこかのほうがよくはないですかな。」
ホミキは反論した。
「他に頼れる国はないでしょう。伊都国が静観すると判断した以上、連合国は皆この判断に従うでしょう。」
ナカテはさすがに若くして実力者の一人になっただけのことはある。
世の中の動向が読めていたと言えよう。
イヨは悩んだ。
自分には、投馬国王に援助を出させるほどの力量があるとは到底思えない。
しかし、ここにいては命が危うく、投馬国以外に頼れる国もない。
その時イヨは何者かにささやかれた気がした。
「投馬国に行けば道が拓ける。」と。
術士であるイヨが森羅万象の言葉を聞く能力に長けている。
しかし、この言葉ほど強く確信させるものは今まで聞いたことがなかった。
イヨは投馬国に行くほかないと感じた。
「わかりました。投馬国に行きましょう。」
イヨは決断した。
―狗奴国―
狗奴国王ヒコミコは投馬国に使者を立てることにした。
邪馬台国を共に攻めるためである。
内乱にある邪馬台国を攻め、邪馬台連合を崩せば倭国統一は目の前である。
そうなれば当然、投馬国も狗奴国側に組することとなる。
「今しかない。」
それが国王ヒコミコの考えであった。
この使者団の大使には、長男であり太子のホギが務める。
副使にはカヒトが選ばれた。
五男であり、狗奴国首脳陣から疎まれているカヒトだが、投馬国王はカヒトを気に入っている。
それが、カヒトが副使に選ばれた理由だった。
それだけ狗奴国はこの戦闘に賭けているのである。
カヒトは思う。
「倭国に平和をもたらすための使者、か。狗奴国の政治体制でいったい何人の民を幸せにできるというのだ?」
しかし国王直々の命令ならこの国に住まう者として従わなければならない。
それに投馬国王に会えることは嬉しい。
子供の頃、カヒトは父について何度か投馬国を訪れたことがある。
投馬国王イマジはカヒトに底知れぬ者を感じ、カヒトを気に入った。
イマジは国を中立に保っているが、思想はヒミコに近いものをもっている。
ただ自国を中立に保つことで行き場を失った難民の受け入れ場としての役割をなすことにしているのである。
イマジの本心はそこにある。
投馬国は中立を守り通すだろう。
「難しい使いになりそうだ。」
そう思いながらもカヒトは投馬国王に会うのを楽しみにしていた。
使者団は狗奴国を出て、投馬国を目指す。