序
遠い遠い昔、日本が倭と呼ばれていた時代の話。
その国は、もともと男子をもって王としていた。
王は100余の国の上に立ち、国々をまとめていた。
しかし倭国は乱れ、国々は互いに攻め合うようになった。
そのため人々は術に優れた女王―卑弥呼を立てる。
卑弥呼はよく国を治めた。
卑弥呼は乱により分かれた100余国をまとめていった。
女王卑弥呼の下、連盟をなしていった邪馬台連合。
その加盟数30カ国。
倭国はまだ戦火の中である。
―邪馬台国―
女王ヒミコ(卑弥呼)は愁え気な面持ちで空を見上げる。
夕日に焼けた空が血を連想させる。
現在邪馬台国は南の敵国、狗奴国と戦争下にある。
30の国を束ねる邪馬台国と互角の力を持つ狗奴国とは衝突が絶えない。
戦争を避け平和的解決をよしとするヒミコにとって狗奴国の存在はいつも頭痛の種である。
「私は歳をとった・・・」
最近は強くそう思うようになった。身体が言うことをきかない。
自分の命が長くないのもわかる。
「ナシメ(難升米)の報告が聞けるだろうか・・・」
ナシメは中国に派遣した使者の大使である。
彼はそろそろ中国の天子への謁見を終えて帰る頃だ。
しかし命ある時が短い以上跡取り問題は懸念すべきことである。
ヒミコは弟であり彼女の辺りで唯一の男性であるホミキとイヨ(壱与)を部屋によんだ。
イヨは同族の女であり、ヒミコの教え子の中でも一番の術者である。
ヒミコは二人に向かって話し始める。
「私はもう老い先短いであろう。私が死んだらイヨを女王としてたてよ。」
二人は驚きを顔に表す。
ホミキは姉であり女王であるヒミコを尊敬し、その言葉に従ってきたがこの言葉には反論した。
「しかし姉上。イヨはまだ十三歳ではありませんか。邪馬台連合どころか邪馬台国一つまとめられないのではないですか。」
イヨも同じ事を考えていたらしい。
イヨはホミキに同意するような面持ちをした。
「確かにイヨは若い。しかし、残念ながらこの国には頼むに足りる男がいないのだ。イヨならば邪馬台国を治め、邪馬台連合をまとめ、倭国を統一することもできよう。」
ヒミコの意外な言葉にイヨは謙遜することも奢ることも忘れ呆然としてしまった。
ホミキはヒミコの評価に疑問をいだく。
「イヨにそこまでの力がありますか。」
「必ず」
ヒミコの言葉は強い。
ここまで邪馬台国を治め、連合をまとめ上げてきたヒミコの言葉である。
ホミキはヒミコの言葉に従うことにした。
ヒミコは国民の前に姿をあらわさない。
ヒミコが王となって以来、その姿を見たものはイヨなどの従女と弟ホミキだけである。
ヒミコの言葉はホミキを通して伝えられる。
ホミキはこの後継者決定を国民に伝えなければならない。
空にあった太陽は落ち、空は黒色に染まった。
狗奴国との争いは終結せず、明日に持ち込まれただろう。
ヒミコは少し安堵する。
これで今日は死者がでることもないであろうと。
ヒミコが生きて姿を人に見せたのはこれが最後であった。