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アスペルガーな母親の好奇心

作者: 増田和崇

アスペルガーな母親の好奇心は尽きない。その瞬間、瞬間で思ったことをまっ直ぐに口に出してしまうアスペルガー症候群の母親の日々の暮らしを面白おかしく描いてみた。

アスペルガーな母親の好奇心


実家に久しぶりに帰った際に、母親がなんかニヤニヤして僕を見る。


なんか嫌な予感がする。ビール飲みながら食事していると「エミちゃんのお母さんとデパートでバッタリ会っちゃたんよ〜」とニヤニヤしている。


もう別れて20年も経つ元彼女の現状報告を今だにしてくるのである。今までも年に数回は僕に「報告」をして僕の反応を見て喜んでいるんだ。まったくもってイヤラシイ性格である。


「で?どうしたの」

「最近結婚してオーストラリアに行ってるんだって」

「ヘェ〜そうなんだ」

「なんか横浜の方の人と結婚したらしいよ」

「そうなんだ……」

「なんで横浜の人と出会ったんだろうね」

「うーーーん……見合いでもしたのかな」

「そうなん!?」

「知らねーよ!」


エミは僕と別れてから、僕の友人の友人と付き合ったという噂や不倫していたとか、市内のどこの店で働いていたとか、ちょいちょい噂を聞いていた。狭い街なので情報がよく入るのである。


僕が実家に帰った時に、「嫁とうまくいっていない」と言うことを聞くと「エミちゃんまだ結婚してないんだって」とよくぶっ込んでくる母親なのである。そして、その時の僕の反応を見て喜んでいるのである。何て母親なんんだ。


よく男は付き合った人をExcelのファイルのように順に記憶していく生き物であり、女はwordの白紙のページに上書き保存していく生き物と言われる。


男としては、昔の彼女が40にもなるまで地元の市内にある家で、親に寄生して今だに独身なんだという情報は、喜んで良いのか悲しんで良いのか複雑な感情がずーっとあったのである。


そして、母親は面白がって「早く離婚してエミちゃんと一緒になれば」とか「会ってみれば?」「この前エミちゃんのお母さんとバッタリ会っちゃって、エミちゃんあそこで働いてるんだって」

とあおるような事も言ってくるのである。


エミの母親とウチの母親は昔同じ場所でパートしていたので、ある程度面識があった。

僕とエミは20歳から23歳まで付き合った。僕もエミも初めて真剣に長く付き合った人だった。一週間に4・5日僕の家に仕事帰りに寄ったり、食事も普通に僕の家で食べていたりしていて、皆んな僕らが結婚するもんだと思っていた。

当然母のパート先の人達も皆僕らの関係を知っていた。


「どこで知り合ったら横浜に嫁ぐのだろうね」

「そう言えばお婆ちゃんが横浜の方にいると聞いたことがあるな……館林がいずらくなったから環境を変えるために横浜に引っ越して、そこで知り合ったかなんかかな」

「なんでもしばらく横浜に住んでいたらしいよ」


まったくアホらしい。こんな事を推理して何が楽しいだ?僕からすれば過去の思い出を引き出しから出されブチまけられたような気分になる。


「まあいいんじゃないの。幸せに結婚できてオーストラリアにいるんだから」とその場は終わった。


後日兄貴と飲む機会があって、その出来事を話したら「マジで?あのババアやっぱし言いやがったな!」

「え!?兄貴知ってたの?」

「ああ。この前エミちゃんのその話を俺に楽しそうに話してたよ」

「それで俺は言ったんだぜ。お前には黙ってろって」

そしたら「なんで聞いちゃダメなん?」と言うから「昔の彼女のそんな話し聞かされたら気分がセンチメンタルになるだろうが」

「そうなん?なんでそうなるん?」

「昔の恋人の情報なんてほろ苦いでしょうが!」

「そういうものなん?」

「そうなの!」

まったく人の気持ちがわからない、アスペルガーな母親である……


「だから俺は言ったんだよ。お前には言うなよって。あいつはそう言うの気にするタイプだからってさ」そしたらあのアスペルガーなんて言ったとおもう?


「だっておもしろいがね」


笑えるハウスコメディーである。どこまでも無神経で人の気持ち、特に息子たちの気持ちが解らない痛快な「アスペルガーな母親」の物語である。

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