第6話
第6話 最悪の結果?
合格発表の日の放課後、シノサビ対策支部。
私は、2度目に挑んだ撃冥士試験の合格発表の貼り出しの前で、超感動の最中にあった。
私はついに、撃冥士試験に合格したんだ。
ヤバい、嬉しさが止まらない。
ついに……やったんだ!
やっぱり琴葉たちについて来てほしかった!
そしたら存分に泣きつけたのに!
今すぐ電話で知らせたいけど、それはよせと言われてるから、到着する20分後を楽しみに待つ。
と、そこで、建物内をフラフラしていると、目に入ったものがあった。
撃冥党のパンフレット、そしてポスター。
そうだ、私、䋝田切君と賭けをしてるんだった。
このパンフレットを手に取るかどうか。
そして、私は手に取らないほうに賭けたので、このまま取らなければ私の勝ち、晴れて䋝田切君の撃冥党『キマイラ』に内定が決まる、ということになってる。
でも、結局それだけで内定決定なのかな。
それともやっぱり別の狙いが……?
ここにいるかもと思って1人で先に来たけど、どこにいるんだろう。
とりあえず、私はこれを取らない。
さあ、どう出る䋝田切君………!
「やっぱ取らなかったな」
背後から声。
その声は、聞き間違いようのない印象度を存分に発していて、私の緊張は一層強まった。
「……䋝田切君」
「よお」
振り向いた先にいた䋝田切君は、軽く片手をあげると、今度はその手をポケットにしまい、すっと私を見据えて来た。
「その様子だと、試験にはうかったらしいな。とりあえずおめでとさん」
「あ、うん。ありがとう」
この男からこんな気の利いた言葉が出てくるとは……
軽く戸惑いながらとりあえずお礼を言った。
「ま、多分うかるだろうとは思ってたけど、いざ聞くと驚いたな。ちなみに点数はもう聞いたか?」
何点でうかったかは、受験番号を受け付けの人に提示すると教えてくれる。
「356だった。でも点数は関係ないんだよね?うかれば」
早く賭けの本当の目的とか、ホントに入れてくれるのかとか聞きたくて、早々に話題を入党の件に移す。
「うちに入るって話か?もちろん。うかりさえすればうちとしても合格だ。入党おめでとうと言いたいんだが、時間あるなら俺らのアジトに移動してからでいいか?」
……………………………は?
入党?おめでとう?アジトに移動…………?
「え、でもあの、賭けは……?」
「あ、すまん忘れてた。それが先か」
……ぬか喜びさせないでほしい頼むから。
「つっても何も賭けてなかったしなー、参ったな……まーとりあえず貸しにしとけよ。何かあった時のために」
…………いやだから、何言ってんの?
なんかもう、話が全然噛み合ってない。
「いやそうじゃなくて、私が賭けに勝てばキマイラに入れてくれるんじゃ……?」
「は?何言ってんだお前?」
それはこっちのセリフだよ。
「え、だってこないだ、キマイラに入る条件として、賭けに勝てばって……」
すると䋝田切君は、私がまるで的外れなことを言ったかのように訝しげな顔をすると言った。
「ち、が、う。俺は条件として賭けをしようぜっつったんだ。うちに入る条件は、賭けの勝ち負けじゃなくて、賭けに乗ることそのものだったんだよ。つまり、賭けに勝てなくても乗った時点でお前は内定決まってたんだよ」
な……………
じゃあ……最初から………何の意味もなく……………?
賭けに勝ったら入れるっていうのも、私の思い違いで………………………?
「ええええええええええええええええ!!?」
「はっはっはっはっはっはっはっは!!」
なにそれえええええええええ!!?
「はっはっはじゃないよ!私そのことでこの1週間ずっと悩んでたのに!」
私の必死の抗議に対し、䋝田切君は全く悪びれず笑いを噛み殺しながら答えた。
「いや、そりゃ悪かったけどさあ………俺そんなことひとっ言も言ってねーだろ?」
「それは……!」
確かにそうだけど、そういう問題!?
あんな言い方じゃ、そうとしか思わないっての!
「まあとりあえずそれは悪かったな。とにかくいいじゃねえか、入れるんだし。それともこんな常識なさげなやつがリーダーのとこには入りたくなくなったか?」
……正直それは考えた。
こんな人が認めたって人たちも、ホントに大丈夫なのかな。
てゆかまだちょっと笑ってるし。
何がそんなに面白いんだか。
でも、他に入る党を探してたら、シノサビ退治に乗り出せるのが遅れるし、今はこの党に入って、やっぱり無理そうなら転党の機会も伺える。
「ううん、確かに勝手に勘違いしたのは私だし、䋝田切君とこ強いみたいだから。でも、偉そうに言うけど、気が合わなそうなら辞めるかも」
すると䋝田切君は、どこか釈然としない表情で頷くと、ポケットから出した二つ折りの紙を差し出した。
「とりあえず明日の放課後、ここに来い。俺たちのアジトだ。メンバーを明日全員集めて歓迎会やるから、親には晩飯は要らねっつっとけ」
「あ、うん…」
紙を受け取ると、何となくその場で開く。
何か遠そうだなあ。
電車かバス、調べとかないと……
「んじゃ、明日っからよろしくー」
ポン、と私の肩を叩くと、私の横をすり抜けて支部を出た。
と思ったら、ドアの前で振り返ってた。
「ああそれとさ」
「なに?」
怪訝に思って私も振り返る。
「俺の特技さ、人の嘘を見抜くことなんだよね。覚えといて」
突如言われたその言葉は、不可解ではあったけど、なぜか私にはギクッときた。
聞き返そうと思ったけど、䋝田切君はもう行っちゃってきけない。
入りたくなくなったか?って聞かれた時、否定したけど、実際はそうだったことがバレたのかな……
どこか腑に落ちない言葉に戸惑っていると、琴葉たちが到着した。
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「えー!?じゃそれだけのことで入れたの!?」
大声で驚く凛ちゃんを、人差し指を口の前で立てて静止する。
今日は改めて合格祝いということで、お寿司屋さんに来てる。
お寿司の皿が5枚ほど積み上がったところで、その話題はスタートした。
「うん、なんかただ賭けをしただけだって。勝ったのなら借りにしとくから、何かあったら言えって」
「言え…ってなにを?」
隣で、注文してたラーメンが届いたのを嬉しそうに、琴葉がきいてきた。
お寿司屋さんに来てまでそれ(ラーメン)食べるか……
「わっかんない。何でも言うこと1つ聞くってことなのかな……明日きいてみる」
「でもさー、もしそうだったら何て頼む?ボクだったらね、最新型のエレキギター買ってって頼むよ!」
凛ちゃんが急に聞いてもないことを弾んだ声で話し出した。
凛ちゃんは中学時代から軽音部員なんだ。
峰南高校に軽音部はないけど。
「ホントギター好きだなー凛ちゃん。まー私は欲しいものとかないしなー……てゆか、ギターって高くない?」
「大丈夫だよ多分。なんかすごいお金持ってそうだったし」
あー…それは確かに分か……ん?
「て、持ってそうだったって、顔見たの?」
「うん、チラッとだけど。ねー琴葉」
「そう、私たちが支部に入る時、すれ違ったんだ。凄いかっこよくなかった?銀髪の人でしょ?」
「ま、まあそーだよ。まーけど確かにお金持ちな感じはしたなー……神子ちゃんは?何頼む?」
ここに来てほとんど喋ってない神子ちゃんに、いきなりふってみる。
「え…えっと…」
しばらく口ごもっていたけど、やがて口を開く。
「神子なら、ぬいぐるみとか欲しいんじゃない?家にすっごい数あるし」
ちなみに、口を開いたのは凛ちゃん。
「「ぬいぐるみ!?」」
私と琴葉がハモって驚きを口にした。
てっきり何か、難しい小説みないなのをシリーズ丸ごととかいうのかと…神子ちゃんいつも大人しいし。
「あう……えっと……あの……」
あれ、なんか神子ちゃん顔赤い?
ぬいぐるみっていうのが恥ずかしかったのかな。
「その…やっぱり…変…?」
「え、変って?」
「だって…私が…その…」
あー、やっぱり恥ずかしかったのか。
まあちょっとだけ意外ではあるけど、別に変なんてことは……
「まー確かにねえ。神子ちゃんってあんまそんなイメーじゃいた!?」
空気読めない発言が完成する前に、とりあえずチョップで琴葉の言葉を遮る。
「い、いや変なんかじゃないよ。ちなみにどんなぬいぐるみ?」
琴葉の槍のような言葉が届いたか焦ったけど、幸い落ち込んだ様子もなく、ほんのり笑顔を作ってくれた。
……やっぱり可愛いなー…胸も私よりあって羨ましいばかりだなぁ…………
その顔を見てると、ぬいぐるみの趣味も完全にマッチしてるとしか思えない。
「お気に入りのお店に新しいのが出たの……すごく高いけど……」
声の最後のほうだけなんか元気がなかった。
よっぽど欲しいんだなぁ……そしてよっぽど高いんだなぁ……
「へー…それってどれくらい?」
「……38,000円」
「はあ!?」
たっか!!
もはやぬいぐるみの値段とは思えない。
「何でそんなに高いの!?あ、すっごいおっきいとか?」
身を乗り出してきく私に、神子ちゃんは少し怯えてた。
あー、ちょっと興奮しちゃったな。
「なんか…素材がすごい良いらしくて……デザインも可愛いし……すごいふわふわなの………」
やっぱり元気のない声。
欲しいものをベタ褒めして、余計悲しくなっちゃったんだな。
「ま、まあ私欲しいものとかないし、買ってくれるって言ったら頼んでみるよ。あー琴葉は?」
神子ちゃんが落ち込みすぎないうちに、話題すり替えよう。
「んー……特になし。てゆうかありすぎるって言ったほうが正しいかな」
「あーなるほど。それはわかる」
結局その後、私は皆のおごりだということで、お金をほとんど気にせず食べた。
結果、皆は10枚前後だったけど、私だけ18枚。
皆には思わぬ出費となった。ごめん………
帰り道、膨れ上がった胃袋を皮膚を挟んでポンポン叩きながら、満足度100パーセントの発言を連発した。
「あー美味しかったー!ごちそーさまー皆」
「ふふっ、よかった」
苦笑を浮かべつつ、凛ちゃんが嘆息気味に言う。
「明日から私も撃冥士だ!ライセンスも貰ったし、頑張らなくちゃ!」
「じゃあさ、冬になったら大分行かない?温泉行きたいって言ってたじゃん!撃冥士がいなきゃ危険だってうちの親が言ってたけど、柚莉愛がいれば安心だしさ!」
「あ、いいね!てかまだ早すぎ……うわあ!?」
ぎょっとして、凛ちゃんが叫んだ方向を見る。
シノサビだ、2体。
今までなら、非力な自分に嘆くしかなかったこの光景だ。
努力実らず撃冥士になれず、そんな実力も示せないヒヨッコだった私なら。
でも、今はもう逃げなくていい。
何でだろう、緊張は微塵もない。
それどころか、とても清々しくさえ思える。
撃冥士としての初仕事に、ぴったりなこの数。
不安に思う皆を救える自分もいる。
私はひらけた道に2体のシノサビが出るのを待つと、二本の愛刀を抜く。
あまりいい業物というわけではないが、二本合わせて100万円を超える、お父さんの最高のプレゼントだ。
今日うかることを信じてお父さんが貯めていたお金で、今日早速買った逸品だ。
自分でも恥ずかしいくらい、不敵な笑みを浮かべているのがわかる。
でも、それもどうでもいい。
ゆっくり二本をひっさげ、こっちに標的を定めて走りだしたシノサビ2体を確認すると、私は猛然と愛刀のほとばしらせる月光の反射をシモサビ達に突進させ、いつかの撃冥士たちのように、首を一斉に跳ね飛ばした。
シノサビを倒すのはこれが初めてだった。
奇声と倒れる音が消えた数秒後、琴葉たちが歓声をあげて駆け寄ってきた。
「すごいじゃん柚莉愛!なんか、やっぱり撃冥士になった感がすごいよ!」
「え、えへ?そ、そうかな……」
なんか照れちゃうなー。
まーしょうがない、えへへ。
喜んでいると、神子ちゃんはオロオロと私の体を確認し出した。
「だ、大丈夫?噛まれてない?」
急にすごい流暢な声になって、今にも泣き出しそうな顔で私の体を見回す神子ちゃん。
「だいじょーぶ。噛まれてないよ」
神子ちゃんを安心させるべく、できるだけいい笑顔で答える。
私の言葉で安心しきれなかったのか、念入りに私の体をチェックして、ようやく深いため息。
3人で神子ちゃんの神経質に少し笑ながら、私たちはまた歩き出した。
笑いながら、私は少し誇らしくもあった。
だって、皆を守れたんだから。
明日からは、本格的に撃冥士としての仕事が始まる。
基本は見かけたシノサビをやっつけるくらいで、たまに対策支部から仕事が来るくらいだけど、それでも少し武者震いがする。
色々災難もあって、この1ヶ月頭を痛くして悩みまくったけど、入る党も決まって、急なシノサビにも臆することなく倒せた。
とてもいい撃冥士デビューを飾り、明日から違って見える世界を楽しみに、親友たちと夜道を歩いた。