第5話
第5話 2つの意味で、結果やいかに
あれから数日経って、試験当日。
私は、ベストを尽くしきった顔で支部にいる。
今日、ついにの試験がおわった。
試験の内容は、筆記試験と身体力試験と面接。
筆記試験では、シノサビの特徴、クセ、弱点、倒す時の心得とかが問われる。
これは130点満点。
身体力試験では、シノサビ退治にあたっての反射神経、動きの速さ、筋力、体力、それぞれの得意な武器の技術とかが試される。
これは満点はなし。
最後に50点満点の面接。
撃冥士はシノサビ被害をゼロで抑えるのが当然だけど、時には噛まれる人も出る。
そういう時は、撃冥士が殺さなければならない。
その覚悟があるのかということを問われる。
私は、筆記で約110点を、身体力で200点、面接で30点を見込める健闘を果たし、合格発表の日を待ち遠しく思う。
支部を出る時、ふと目に入ったものがあった。
撃冥党のパンフレット。
それを手に取れば、私は賭けに負ける。
私は、まだ迷っている、本当に賭けに勝つべきかどうか。
手に取らないほうに賭けたことはもう撤回できないけど、ここからどう動くべきなんだろう。
簡単な賭けすぎて、他に狙いがあるような気がしてうかつには動けない。
まあ、まだ賭けの日の当日じゃないから、ここで突っ立っててもしょうがないか。
支部を出ると、琴葉たちが待っていた。
とりあえず、今日の健闘を報告する。
「どーだった?」
支部を出るなり、すぐに神子ちゃんがきいてきた。
こんなに身を乗り出した彼女は初めて見る。
「結構うかってそうだったよ。340点ってとこかな」
少し弾んだ言葉に、3人が歓声をあげる。
「よし!じゃあ祝勝会しよう!」
突然凛ちゃんが言い出した。
「い、いや。まだ決まってないよ?」
「いーのいーの!テンカルの割引き券今日までだから、ついでだよついで!」
じゃあ昨日、明日頑張れ会にしてくれればよかったのに。
まあでもありがたい話だし、昨日はどうせテンパりすぎてあんまり楽しめなかっただろうし、いっか。
「オッケー!じゃ行こっか!」
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「おいしー!緊張とれたての焼肉サイコー!」
「でしょ!?ボクに感謝してよね!」
「うん!ありがと凛ちゃん!」
焼肉を3切れほど頬張りながら、今日までの緊張感を排除する。
なんか、そーいえば最近は皆に色々助けてもらってばっかだなー……
「そーいえばさ、結局どーするの?」
急に琴葉の声。
「え?なにが?」
「賭けのこと」
あー……て、このタイミングでそれか。
3人にはすでに、超イミフの賭けを持ちかけられ、それに勝てば『キマイラ』という撃冥党に入れてもらえるということを話してある。
「それが迷いどころで……なんであんなわけわかんないこと持ちかけたのかな。賭け自体はこっちに勝算あるとしか思えないのに」
「もしかしたら、実は絶対にパンフを取らせる策があるとか?凄そうな人だったんでしょ?」
「いや、それはないでしょ……」
「じゃあ…精神的に…揺さぶって…取らせるとか…」
ここで、良識派神子ちゃんの一言。
確かにそれはありそう。
お前には強い意志があるのか、みたいな。
「それはそーだね…じゃあ気持ちを強く持たなきゃ」
その後もかなり口論が続いたが、結局神子ちゃんの意見が一番ありそうってことになっんだけど、夜はなかなか寝付けなかった。
しかもそれは、その次も、またその次の夜もそうだった。
まあでも、その分勉強時間が伸びて、来週に控える中間テストの対策も進んだし、よしとしよっかな。
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合格発表の日。
今回の試験は受験者が多かったからか、合否が出るのが遅い。
その日は朝から何かと上の空になってしまい、髪は結び忘れるしお茶はこぼすしお弁当は忘れるし、散々だ。
その日は琴葉にお金を借りて、みんなで食堂で済ませることにした。
パンを買ってきていつも通り教室で、と思ってたけど、「せっかくだし」という琴葉の一言で食堂となった。
でもホントは、初めて行く食堂で、私の気が少しでも紛れるように計らってくれたんだろうな。
ホント、この子には頭が上がらない。
「で?どーふるか決めは?」
食堂で、カレーを頼んだ凛ちゃんがお水を片手に言ってきた。
食べ始めてからずっと持ってるし、きっと予想以上に辛かったんだろうな。
「うん……今のところは私が賭けたほうに動くつもりなんだけど、どーしたらいいんだろ……」
机に頬杖をつきつつ親子丼をスプーンですくう私に、琴葉がきいてきた。
「ま、どーすべきかわからないんだし、勘で動くしかないよねー……ちなみになんでそうすることにしたの?」
ラーメン大好き琴葉が、ラーメンを冷ましながら聞いてくる。
琴葉はメロンパンもそうだけど、ラーメンがたまらなく好きなんだ。
これを見てると、食堂に誘ったのは、単にここのラーメンを食べたかっただけに見えてきて、なんか笑える。
「うん、あれからよく考えたんだけどね……なんかあの人、嘘をつくように見えなかったっていうか……」
そう、あの日、なにが狙いか分からなくても、嘘をついた感じはしなかった。
まあそーゆー風に見せるのが得意ってだけなのかもしれないけど、後はもうこっちも小細工なしでぶつかってみることにした。
「ま、そんなわけでとりあえず手に取らないで帰る」
「そっか、まーそこは任せるしかないけど、問題はうかってるかだよ。大丈夫なんだよね?」
「う…考えないようにしてたのに……」
まあそっちの方が大事なことではあるんだけど。
午後からの授業もずっと上の空で過ごした。
話なんてもちろん入ってこないし、急に先生にあてられた時はものすごい焦った。
と、そこでふと思った。
そういえば、賭けがどうなったかはどうやって判断するんだろ。
もちろん私は取らなければ勝ち、取ったら負けって分かるけど、䋝田切君はどうやって確認するんだろ。
もしかしたら合否が貼り出される支部に来るのかな。
でも、私に見つかる所にいるのは考えにくい。
いや、てゆうか来なかったら、どうやって連絡するの?
連絡先なんて交換してない。
もしかしたら、前にぶつかったとこに来いってことなのかな。
あーもーわかんないことだらけだよー……
ホント、あの人一体なんなんだろ。
思えば、わけわかんない賭けのこともそうだし、なんか色々冷たかったりちょっとだけ親身だったり、そもそもこの歳のこの時期に駆逐士になってるし、2回目に会った時にもう初対面の時のこと忘れてたし、あの人謎すぎ。
そういえば、初めて会った時からだったなあ……
小さな男の子を救い、6体のシノサビに圧勝したあの時、私はなぜか䋝田切君を引き止めてしまった。
引き止めたはいいけど何も言えず、とりあえずお礼を言ったら、その時䋝田切君は、
「なんだそれ?」
と理解不能な問いを返してきた
「え?いや、なんだそれって……」
私が口ごもっていると、䋝田切君はとうとう立ち去っちゃったんだ。
あの時から思ってたんだけど、あの人なんか引っかかる。
色々謎すぎて、もはや考えるのが面倒くさくなりそうなのに、なぜかあの言葉の意味を解明したい、という気持ちがおさまらない。
だいたい、お礼言われてあの返し方ってなに?照れ隠しなの?だったら…
「ゆーりーあー」
びっくりした。
右を見ると、私に3連続チョップを撃った手を挙げたままの凛ちゃんが立っていた。
「あ、ご、ごめん。で、なんだっけ?」
すると凛ちゃんは、呆れた顔で言った。
「なんだっけ?じゃなくて。もうホームルーム終わったよ。早く結果見に行こうよ」
「あ……」
見ると、皆帰るところみたいだ。
「ごめんごめん。じゃあ行こっか。あ、それとね…」
「ん?」
「皆には悪いんだけど、合格発表には私、先に走って行くから、皆には後から来て欲しいの」
「え?」
すると凛ちゃん達は、意味がわからないという顔をした。
まあ予想通りの反応だったけど。
「なんでまた?」
「多分だけど、䋝田切君、発表の貼り出されてるとこにいると思うの。先に行って、2人で話したいし」
その後、なぜそう思うのか、私が授業中に考えたことを聞かせたら、みんな納得してくれた。
「わかった。じゃー私たちはのんびり行くから、私たちが着くまで結果は知らせないでね?」
「りょーかい」
小さく笑みを浮かべると、私は下駄箱へ、さらに校門へ、そして支部に急いだ。
支部へは歩くと25分ほどかかるが、走れば5分で着ける。
つまり、結果を見て、そこにいるかも知れない䋝田切君と話す時間は、せいぜい20分といったところだ。
まあそれだけあれば大丈夫かな。
内心で色々と考えてしまうが、何より大事な合否の結果を無意識下で不安に思いつつ、私は支部へと急いだ。