第4話
第4話 その男、意味不明につき
翌日、昼休みの教室、私はいつものように、琴葉、凛ちゃん、神子ちゃんと机を囲み、お弁当を食べている。
「へー、そんなことがあったんだ」
昨日、謎の若手撃冥士少年、䋝田切業君との再会を3人にも聞かせ、相談を持ちかけている。
「うん、それでどーしようか迷っちゃって」
「お稽古をハードにするか、他の党を探すか……現実的なのは、やっぱ後者かなー」
今日も大好きなメロンパンを咀嚼しつつ、琴葉がいう。
「やっぱそーだよねー…てか、両方試みるって手も……」
そこで、この中で一番良識派の神子ちゃんが口を開く。
「それは…さすがに…無茶だと…思うよ…片方だけでも…大変なんだし…私も…他の党を探すほうが…いいと思うな…」
「やっぱそっかー…なんか最近、災難続きだなー…しかも、解決したと思っても束の間で、また次が来るんだもん。なんかもーやんなっちゃうよー」
「とはいっても、まだ手はあるよ。難しいかも知れないけど、他の党まわってもっといい出会いあるかもだし、束の間でも解決したら、次こそそれを生かそうよ」
「うー…凛ちゃーん……」
今度は凛ちゃんに泣きつく。
まだ落ち込んでいたいけど、親友にここまで励まされちゃ、立ち上がらずにはいられない。
「そーだね!お稽古はちゃんとやるとして、他の党をまた探そう!」
「そーだよ!今日はボクも神子も塾ないし、一緒に回ったげるよ!」
「え!…あ…でも…わたし…あんまり役に…立たないかも……」
あー……確かに神子ちゃん人見知りだし、ちょっとキツいかも。
「ごめんね神子ちゃん。だいじょぶだよ、2人もいるし、なんとか…」
「いや、神子ちゃんもいい機会だし、この際人見知り改善のため、一緒に行こう!」
「え、ええええ!?」
神子ちゃんは高く可愛らしい声を張り上げて、とうとう叫んだ。
神子ちゃん私よりこーゆーの苦手っぽいし、さすがに……
「いやでも、それはハードルがた…」
「そーだね!免疫もつくし友達の助けにもなるし、一石二鳥だよ!」
琴葉の言葉に同調する凛ちゃん。
「あぅ……あぅぅ………」
慌てふためく神子ちゃんを気に留めないで、琴葉と凛ちゃんは肩を組んで盛り上がってる。
「よーし!じゃ柚莉愛のパンフレットをもとに、今日から頑張ろー!」
「おー!」
ごめんね、神子ちゃん……
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「うーん…やっぱこれといったことろは見つからないね」
あれから2日、今日で7つ目の党を訪ね、またもや空振り続きで街を歩いてる。
「とりあえず、今日残りの2個まわって解散にしよう」
「そだね。ほら神子ちゃん、あと少し頑張ろー!」
「うぅぅぅ…………」
すでによれよれの神子ちゃんの肩を叩き、琴葉がエールをおくる。
今日回ったところも男の人が多く、神子ちゃんには一層こたえる状況が続いた。
「あのさ、ちょっと思うんだけど」
ふいに、凛ちゃんが口を開いた。
「どうしたの?」
私が尋ねると、
「やっぱさ、実際にうかってからのほうが、話は進ませやすいんじゃない?」
「あー……」
突然の言葉に少し驚くが、それは私も思っていたところだ。
やっぱりどんな話も、次の試験でうかったらこうで、逆にうからなかったらこうで、どのくらいのシノサビを一度に相手にできそうか、どのくらいの点が取れそうか、といったことが前提の話し合いが多く、順調に話は進まない。
「だからさ、党を訪ねて回るのは、うかってからにしない?それまでちゃんとお稽古したら、本番でもそれだけいい点とれるだろうし」
凛ちゃんが出してきたその案は、すごく現実的だ。
確かに、仮定の話をいくつしても進まないし、それなら、もっと稽古を積んで、いい点を取って、どんな党でも入りやすくしておいたほうがいい。
「そうだね。じゃあもう今日は解散にしよっか。あと、明日からはもっとお稽古ハードにして頑張るから、遊びにとかはあんま行けないと思う」
「うんうん、頑張ってね。次うかったら、また党巡りしよう」
「うん、ほんとにありがとね」
その日はそのまま解散となり、帰ってからも2時間ほど自主練した。
次こそは、絶対受からないと。
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数日後。
私は今日、道場で、初めて合格点を超えたと思える剣さばきに成功し、感激に我を忘れた。
3日前までは、これだけ剣を振り回すのに、筋力が足りず憂いていたところだ。
それが今、やっと3体ほどのシノサビに囲まれ、後ろから急に襲いかかられても瞬時に対処できる反射神経と剣さばきを披露できたのだ。
その日は先生にも期待の目で褒められ、後輩にもとても感激されて帰り道を歩いた。
あと5日、油断なく基礎を固めて準備すれば、合格が現実味を帯びてくる。
嬉しくて笑みが止まらない。
後輩たちと別れたところで、私は走り始めた。
今日はもうかなりストイックにやったけど、やっぱりなんか落ち着かない。
大きなカバンを2つ揺らしながら、いつもより少しだけハイペースで走る。
よし、そこの角を曲がったらさらにペースを上げよう。
でも、流石にちょっとあげす ドンッ!!
「あっ!!」
…なんか激しくデジャヴ。
顔をあげると、そこに立っていたのは……
「…またお前か」
……また䋝田切君か、やっぱり。
それにしても、かなり強くぶつかったのに、余裕で倒れず立ってられるその体幹はさすがって感じ。
「……大丈夫か?」
またしばらくぼーっとしていたので、䋝田切君は手を差し出してきいてきた。
「あ、うん。ありがと」
その手を掴み立ち上がると、カバンを2つ拾い、背負い直す。
「お稽古の帰りなんだ。今日でかなり合格できそうになったよ」
「ふーん」
せっかくこの感激を伝えたのに、相変わらず冷たい態度……
「でも、このままじゃやっぱ䋝田切君のとこに入るのは無理そう。他のとこも回ってるんだけど、なかなかピンと来るとこがなくて」
「ふーん…まあうちが無理なら他のとこ探すしかないしな。んじゃま、頑張れよー」
「あ、あの!」
ふいに立ち去ろうとした䋝田切君を呼び止めて、すがるような声できいた。
「400点取らなきゃ、どうしてもダメ?」
「まあなぁ…てか今になってか」
「私、実はあんまり人と話すの得意じゃないの…䋝田切君はなんか大丈夫なんだけど、他の党は色々難しそうだし、䋝田切君のとこ女の子もいるって言ってたし、もしよかったら……」
「よくない」
またバッサリだった。
「てか、人と話すの苦手とか知らんし」
「……ダヨネ」
そしてまた冷たい一言。
「まあうちのメンツは400点なんて取れなくてもいいだろっつってるやつもいるし、別に絶対とか言わねーけど、とりあえず実力がないと」
「じゃーもー400点取れなくても入れてよー……私今日までまわってるところ全部空振りなんだよー…?」
少々、てゆか多大に腰を曲げて落ち込んでると、䋝田切君がなんか唸り始めた。
何考えてんだろ……と思いきや
「それもそーだな、んじゃ点数はカンケーなしでうかったら入れてやるよ」
………………………はい?
え、そんなあっさり?
私、このことですっごい悩んでましたんですけど。
こ……こんなあっさり!?
いや、でも怒るとこじゃない!
とりあえず、入れるって言ってくれた!
やった!これで…
「ただし条件がある」
またかい!
「……なに忙しなく顔芸連発してんだ?」
あ、まず。
顔に出ちゃってたみたい。
「い、いやなんでも……てゆかそれってまさか、勝負して勝ったら、とかじゃないよね……?」
「おれもそこまでいじめっ子じゃない。てかお前が勝てるわけねーだろ」
「うん……」
十分いじめっ子じゃん。
「じゃあ、その条件って?」
すると䋝田切君は、初めて笑った。
とても悪い顔でニンマリと。
「1つ賭けをしようぜ」
突然の言葉に少し戸惑う。
「賭け…?」
「次の試験会場にも、撃冥党のポスターやパンフがある。合格発表の日、お前がそれらを手にとるかどうかを賭けるんだ。お前が賭けた逆のほうに俺が賭ける」
「なっ……!?」
全く意味がわからない。
そんなもの、私が賭けたほうに私が動けばいいだけだ。
この賭けに何か裏がないなら、合格しさせすれば後はもう䋝田切君の撃冥党に入れたも同然。
でも、そんな簡単に勝てることで勝って、ホントにそれだけで入れてもらえるのかな。
他の党に未練があるのかを試してるのかな。
それとも、惑わせる狙いで…?
でも、それが条件だというのなら乗らざるを得ない。
でなければ、問答無用で入れないんだから。
「わかった。私は手に取らないほうに賭ける」
とりあえず、ストレートに言ってみる。
ここで、相手の表情をよく見ないと。
それを聞いて、相手が何を感じたのか、つぶさに観察しないと。
けど䋝田切君は微かな笑みを浮かべたまま、
「OK。じゃおれは、手に取るのほうに賭けよう」
「でも、なんでこんなことするの?なにか狙いがあるの?」
観察してもいまいち情報が得られなかった私は、とりあえず適当に揺さぶってみる。
「別に?おれはもうお前を入れてもいいと思ってる。ただ、どうせなら楽しみたいだけだよ」
これまた不可解な答えだった。
ホント何考えてんだろ。
てゆうか、入れてもいいと思ってるならスムーズに入れると言ってよ……
「ま、とにかく決まりだな。当日を楽しみにしてるぜ。あ、因みに賭け云々(うんぬん)以前に、合格しないと入れないぞ?」
「わ、わかってるよ!」
ホントに何もない賭けなら、私が賭けたほうに動けばちゃんと入れてくれるんだろうけど、そこをどう動くかで、入れるか入れないかが決まってくる。
賭けっていうのは実際はうそで、何かを試している線も捨てきれないし。
とりあえず、言ったことは引っ込められない、出来るのはお稽古だ。
当日までに、もっと技術を高めて、今度こそ合格するために。