第2話
第2話 難航の仲間探し
謎の撃冥士らしき青年を見かけた日の午後12時40分。
私は、友達3人と2つの机を囲み、お弁当を食べている。
「なんかそんな感じでさー、変な人に会ったんだよねー…」
私は昼食の肴に、今朝出くわした謎の撃冥士のことを話していた。
「へー…その人ってそんな若い感じだったの?」
視界の左側に映る友達の城山琴葉は、いちごオレを片手に聞き返してきた。
琴葉は小学生の頃からの腐れ縁で、私を一番に理解してくれている子。
母親がイギリス人で、綺麗な金髪でツインテール。
「うん、なんか怖い感じだったけど、雰囲気的にもうちの男子生徒とかと同じ感じだし多分。なんで?」
「だって凄くない!?その年でもう撃冥士やってるんでしょ!?」
「琴葉……柚莉愛に今それはタブーだと思うよー」
右隣に座ってる同じく友達の柊凛ちゃんは、琴葉が傷に塩を塗りすぎる前に、興奮を収める。
中学校の入学時に出会った子で、ストレートにしてる長い栗色の髪が羨ましい。
元気いっぱいな子で、中学にあがってから悩み事が増えた私は、何かと頼りにしてる。
「あ……なんか興奮しちゃって、ごめん」
「いいよ、次は受かるから」
「お、強気だねぇ。まー私たちとしても、柚莉愛には早く立派な撃冥士になって貰わないと。そしたらどこ遊びに行ってシモサビが出てきても安全だしね」
「もー…あんまそーゆー事言わない方が…」
「いいの、こーゆー事言っとくと、逆に柚莉愛には気合いが入るから」
「確かにね。ありがと、琴葉」
微かに笑いつつ、心の中で自分を理解してくれてることに今更だけど感謝する。
確かにそんなこと言われると、撃冥士になれた時のことが楽しみになっちゃう。
「でも…撃冥士になって…どの撃冥党に入るか…決めてるの…?」
無口な新しい友達の中西神子は、小声を途切れ途切れに話す。
凛ちゃんは中学から一緒で、琴葉は小学校からの縁だが、神子ちゃんだけは、彼女と同じ塾の凛ちゃんに紹介してもらった。
長いまつ毛に小さな顔。
セミロングのオレンジ髪の後ろを赤いリボンで結んでいる、とても可愛い女の子。
引っ込み思案な女の子で、友達作りが苦手は私は、ちょっとだけほっとする。
「うーんそこなんだよねー……ねー凛ちゃーん、だれかそーゆー人に知らない?」
「さすがに撃冥士の知り合いはねー…てゆか、なんでボクなの?」
「だって凛ちゃんって顔広いみたいだし。撃冥士って男の人多いみたいだし、なんか怖いんだよねー」
「てゆうかさ、一匹オオカミじゃダメなの?その辺の決まりがないなら、無理して党に入らなくていいじゃない」
「それは危険すぎ。次受かるっていっても、今回の結果見る限りギリギリそーだもん。そんな端くれすぎな撃冥士が一度に何体もシノサビに出くわしたら即KOだよ。せめてなりたての頃は、どこかの党で協力してやらないと」
「じゃなおさら頑張んなきゃだね」
「そーなんだよー…あーーーもーどーしよ」
「普段からコミュ力上げとかないからだよー。ほれ、これをしんぜる」
「んー……おいし……けど苦い……」
凛ちゃんが差し出してきたバナナオレのストローの先を咥えると、一思いに吸い込む。
撃冥士に合格するかも無論大事なことだけど、なってからのほうが問題かも知れない。
精神的な問題ってむずかしー……
「……あごめん。無くなっちゃった」
「えー!ボクのバナナオレ!」
やっちゃった私と悲鳴をあげる凛ちゃん。
今度何かおごろっかな。
「とりあえず…じっくり行けば…いいと思うよ…試験会場に…撃冥党のポスターあるし…それ見て…今から色んなとこ行って…合格してからのこと…相談とか…」
「あ、うんそだね。ありがと神子ちゃん」
他にも曖昧だったりあってないようなアドバイスをいくつか貰い、今日の放課後決行になった。
ホントは明日からの方が良かったんだけど、「善は急ぐべし」と琴葉に詰め寄られて、琴葉による見張りつきで、色んな党を訪ねてみることとなった。
今日は朝稽古の時間あんまりなかったから、早く帰ってするつもりだったのに。
決してビビってるわけではなく。
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「うー……なんでこんなことに………」
「ねぇ凛ちゃん…柚莉愛ちゃんどうしたの…?」
「あーうん…こないだ雰囲気良さげだった党に内定決まったっぽかったんだけど、なんか取り消しになったんだって」
「え……?」
あれから数日後の2時限目終わり休み時間。
私は、自分の机に朝からずっと突っ伏して、今朝来たメールを暗黒100%のジト目で凝視していた。
あの日の放課後、そそくさと帰ろうとする私を素早い動きで凛と琴葉が捕らえた。
撃冥士としての稽古を積んだ私を捕まえるってどんななんだか。
あんたらも撃冥士試験受けてみたらどうなのか。
ともあれそんな形で琴葉ご同行の下、前回の試験会場だったシノサビ対策支部を訪ね、撃冥党のポスターに一通り目を通し、そこからも近い5党ほど回ることにした。
ホントはもっと近いとこもあったけど、党の名前やポスターからもう共感部分を感じなくなったところは後回しにする。
その日まわるとこも入党条件がやや厳しいところもあり、やっぱり大変そうな感じだった。
最初の党は都内有数の精鋭揃いの党だった。
入れる見込みなど当然薄かったけど、どこかの党に入るに当たって、何かヒント的なものが見つかるかもという理由があった。
当然その党に入るには至らなかったけど、次にここへ行ってみたらどうだと薦められた党があり、足早にそこへ向かった。
2回目に向かったそこは、新人撃冥士の教育や配慮に熱心な党で、優しそうな女性の先輩もいて入りやすそうだったけど、なんてゆーか、だからこそテンパっちゃった。
リーダーの大学生の男の人は、とても優しく私の相談に乗ってくれて、君みたいに熱心な子なら大歓迎だよ、という歓喜極まるお言葉を頂いた。
その場で入ることがほぼ確実なものになって、とりあえず一歩前進といったところだった。
それもこれも、党を訪ねる時に、琴葉が口火を切ってくれたり、色々取り持ってくれたお陰だった。
私のことを誰より理解してくれてる彼女は、こーゆー時にとても助けてくれる。
「やっぱ琴葉いてくれてよかったよー!ほんとありがと!」
「ふっふっふ、そうかそうか。よきに計らいたまえ」
「うん、今度マックでもおごるね」
「ふふっ、ありがと。でもいいよ、柚莉愛が撃冥士として活躍できるお手伝いできてるんだから、親友として誇らしいよ」
「えーどうしたの突然。なんか変」
「なっ、変!?もーひどいよー!」
ちょっとからかってみると彼女は面白い。
この子は実は大人しいほうで、だからこそ慌てたように抗議する彼女に、思わず微かに笑ってしまう。
「ごめんうそうそ。まああの党には合格したらちゃんと正式に入れてもらうよう挨拶に行かないとね」
「お、もうあそこに決定?」
「そうだね、凄い雰囲気良かったし」
「確かにね〜。じゃ今日は一歩前進祝いってことで早速マックおごってよー」
「えー?やっぱり欲しいんじゃなーい」
「ふふふふふっ」
などと和やかな会話を繰り広げつつ、私は家路についた。
家に帰ってからもその日の先輩たちの声を繰り返し思い出し、明日からも稽古がんばろう、ととてもポジティブな意気込みと共に眠りに就いた。
しかし今、そのポジティブな意気込みが限りなく減衰した。
その撃冥党は、ニュービーの教育に最近熱を注ぎすぎていて、あまり実績を出していないという事で、シノサビ対策本部から険しい目を向けられたのだという。
それで今しばらく、新人勧誘は先延ばしといくことになったのだ。
どれくらい延ばすかは全くわからないため、次の試験で受かるようなら他の党を当たってくれ、ということだった。
せっかくモチベーション快進撃爆走中だったというのに、なんでこんなツいてないんだろ……
「えーと……まー元気出しなって柚莉愛!また別の党探そうよ!何度でも付き合うからさ!」
「うーーー琴葉ーーー…………」
相変わらず肝心な時に気遣いの利く幼馴染に、思わず泣きつく。
「ごめんね柚莉愛ちゃん…私たちも…付き合って…あげたいんだけど…今日も塾で……」
「ううん、だいじょぶだよ神子ちゃん。また頑張ってみる」
とりあえず、モチベーションが下がっても、稽古を怠るわけにはいかない。
引き続き稽古を続けるとして、琴葉が今日もヒマだというので、今日もまた撃冥党巡りをしよう。
琴葉の「今日もヒマだし」という言葉が、なんか暇つぶし目的で言った様にも聞こえたけど、あえて口には出さない。
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その日はとりあえず、道中にある先日結局寄らなかった党に足を止めつつ、支部に向かう。
運がいいことに、先日寄らなかった3党とも支部へ向かう途中に寄り道できたが、運の悪いことに、3つとも全員男だったり新人を募集してなかったり、そもそもシノサビ退治に積極的じゃなかったりと、全て空振りだった。
支部にいってもこれといった党は見つからず、支部の人に話を聞いてもピンと来ない。
とりあえず9つの党に絞り込み、2日かけて回ることにした。
でも、なんか足取りはやっぱ悪い。
もーホントどーしよ……
「まーあんま気を落とさないで、実際行ってみると意外といいとこかもよ?」
「うん…そだね……」
声の元気は出ないけど、ちょっとだけ気は楽になる琴葉の言葉。
ホントありがとね…
私は心の中でまたお礼を言った。
「てゆかもういっそ柚莉愛が新しく党作ったら?新人かき集めたりしてさ」
「それはムリ!!最初私だけで勧誘とかしなきゃならないんだよ!?しかもそれで集まるまで撃冥士として活動できないし、新人ばっかで経験者いないのも問題あるし、そもそも新人が創党手続き通過できるわけないし、だいたいリーダーが私だってのも……」
「わ、わかったよ、ストップストップ」
あ……つい熱くなっちゃった。
「ご、ごめん……ま、まあとりあえず、そんなわけで私が新しく党を作るのはムリだよ」
「そっかー…なんか日本の政府もさ、その辺の援助の制度とか作ってくれたらいいのにね」
「しょうがないよ、ただでさえこんな投げやりな方法に頼ってるくらいだよ。新しく新選組みたいな組織を作り直すとか、色々案が出てるみたいだけど、なかなか纏まんないんだよ」
「そっかー…まー昔はシノサビといえば新選組に頼りきりだったもんねー……」
「うん……」
そう、今は日本の政府も、こんな無茶苦茶ともいえることしか出来ない状況だけど、新選組さえいてくれたら……
「ま、とりあえず今日はもう遅いし、撃冥党をあたるのは明日からにしようよ。私こっちだから」
「あ、うん。じゃあね、琴葉」
住宅地の1つの分かれ道にさしかかったところで、琴葉と別れる。
琴葉の影が少し小さくなってもしばらく手を振り続けて、私は1人、あと5分ほどで着く家へ向かう。
なんか今日はまた一段と疲れた。
朝から内定取り消しのメールが来て、3つあたった党も三振、希望のある党も見つからず、仮に合格してもお先真っ暗だ。
はぁ……今日も早めに寝 ドンッ!!
「あっ!!」
突然、公園の見える角にさしかかったところで、誰かとぶつかった。
カバンに入りきらずカバンのポケットに入れてた撃冥党のパンフレットが、地面に散らばる。
「ご、ごめんなさい!」
相手の顔もよく見ず、とりあえず謝りつつ、相手の落としたらしき何やら難しそうな書類を拾い集める。
「ああ、別に」
相手はやっとそれだけ話すと、私の側に腰を下ろし、書類を拾い……てちょっと待った。
なんか聞いたことのある声。
先日、ほんの2、3度だけだが、はっきり覚えてるのは、それだけ印象的な声だからだ。
書類を拾い集める手を止め顔を少しあげると、そこにいたのは、試験に落ちた翌朝、私が登校中に出くわした6体のシノサビを軽々倒し、小さな男の子を救った、あの時の銀髪の男の子だった。
やっぱ近くで見ると一段と綺麗な髪だなぁ…羨ましい………
その人は、書類を私が集めた分を残して拾い終えると、私が拾った書類を受け取るべく、顔をあげた。
間違いない。
そこに立っていたのは、間違いなくあの時の男の子だった。
その人は、私に手を向け、私が拾った書類を渡すのを待っていたが、私はそれを意識的に視認することが出来ず、しばらくそのまま滞ったままだった。